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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第一部
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第115話「Return」


 学園長室に入ると、マキナさんは机の前まで行って、そこに背を預けた。

 俺は勧められたソファに腰を下ろす。


「あなたとしては、先にキュリエとセシリーに会っておきたいかしら?」

「……この一週間、二人はどんな感じでした?」

「のんびりと休養していたみたいよ? 聖王家や聖樹騎士団はてんやわんやだったけれど、学園は閉鎖状態だったから……候補生は家や宿舎で待機状態だったの。二人とも休息が必要な状態だったし、キュリエに至ってはあれでかなり無理をしていたみたいだから」

「そうですか……ところで、マキナさんは大丈夫なんですか?」


 よく見ると、マキナさんの目の下には黒々とした隈ができている。

 目も充血気味。

 マキナさんが眉根を揉む。


「ん、そうね……学園は閉鎖といっても、運営側は休む暇なしといった状態かしら。今後の方針を決めたり、授業の再開時期を話し合ったり……学園長は学園長で、他の仕事もあるしね」


 机の上には書類の山。


「少し休んだ方がよくないですか?」

「あと二、三日すれば余裕も出てくるはずだから……それまでは、ね」

「俺に手伝えることがあれば、遠慮なく言ってください」

「ええ、ありがとう。それで、今後のことについてなのだけれど、その前に――」


 マキナさんが頭を下げた。


「まずは四凶災の件、改めて感謝します。これで、私は自分の念願を叶えることができた。最悪の結末から王都を守ることもできた。その多くは、あなたのおかげよ」


 俺は黙ってその言葉を受け入れた。


「さて、これで私があなたを学園に拘束する理由は一応なくなったのだけれど……あなたはこれから、どうしたい?」

「そうですね……俺、ルーヴェルアルガンに行ってみたいかもしれません」


 マキナさんの視線が絨毯に落ちる。


「つまり、シャナのところに?」

「キュリエさんの探している人がいるという話なので。そのついでに義眼を作ってもらうのも、ありかなと」

「あ、ああ……そういうこと。ええっと、その、ね? 私が聞きたいのは、このまま王都に留まるかどうか、ということなのだけれど」

「あ、そういう意味でしたか。ええ、許してもらえるなら」

「この学園にこれからもいてくれる、と?」

「の、つもりですが。聖樹士も一応、このまま目指すつもりですし」


 そう、と言って吐息を漏らすマキナさん。

 彼女は睫毛を伏せ、面映ゆいような微笑を浮かべた。


「……嬉しいわ」


 人さし指で頬を掻く。

 ストレートに言われると、少し照れてしまう。

 部屋のドアがノックされた。


「はい」

「学園長、ミア・ポスタの件なのですが」

「何かあった?」

「お言いつけ通り、ミア・ポスタにサガラ・クロヒコが目覚めたことを伝えに行ったのですが、どうも自室にはいないようでして。学内の方も軽く探してみましたが、見当たらず……」

「サガラ・クロヒコの家は探してみた? 女子宿舎の近くの」

「いえ、そこはまだ」


 勝手に上りこんで探してもらってもいいか、とマキナさんが視線で問うてくる。

 俺は頷いた。


「鍵は開いているはずだから、そこも探してみてちょうだい」

「わかりました」

「悪いわね、手間をかけさせて」

「いえ。失礼します」


 足音が遠ざかっていく。


「ミアさんの話は、シャナさんから少し聞きましたけど……」

「変な話、見ているこっちが泣きそうになってくるくらいよ?」

「そんなに、ですか」

「ふふ、後で会ったらきっと大変よ? その時は、ちゃんと受け止めてあげてね?」

「え? は、はい」

「はい、よろしい」


 それからマキナさんは今後の予定などについていくつか話しをした。


 学園の授業は一週間後に再開が予定されている。

 ただし聖遺跡攻略の方は前期いっぱいの休止が決定。

 聖遺跡の異変の原因であったノイズはもういない。

 彼女が造ったゴーレムも、俺や聖樹騎士団との戦いでおそらく出しつくした。

 それでも、異変の影響が残っていないかの調査は必要となるようだ。

 だがその調査に割ける聖樹士の数が現在、圧倒的に不足している。

 聖樹騎士団が余裕をもって調査を再開できるであろう時期は、前期授業と後期授業の間にある長期休暇あたり。


 そのため、前期の聖遺跡攻略に相当する評価点の算出は、以前より案の出ていた学内武技大会によってなされることが決定した。

 武技大会の開催は前期末。

 この大会での成績や内容によって、聖遺跡攻略の代替評価点が決定する。


「武技大会ですか。楽しみですね!」

「言い忘れていたけど、あなたとキュリエは不参加ね」

「え?」

「当然でしょう? 二人は四凶災を倒すほどの力を持っているのよ? 力の差がありすぎるわ。大会としては、ちょっとね」

「じゃあ、俺たちの大会の評価点はどうなるんですか?」

「無条件で満点を与えます。先日の会議で、そう決定しました」

「ええ〜!? い、いいんですか、それ?」

「問題ないわ。会議に参加した聖王家の人間も賛意を示したし、今回特別に会議に参加したソギュート・シグムソスとディアレス・アークライトも問題なしと判断しました。まあ、王都を救った功労者に対する措置という意味合いもあるのだけどね。それに――」


 マキナさんが歯にものが挟まったような顔をした。


「私もこれは少し意外だったのだけれど、生徒会と風紀会の会長が両名とも、あなたたちに満点評価を与えることに賛成したの。彼女たちの賛成がなければ、もう少し揉めていたかもしれない」


 生徒会と風紀会。


「キールシーニャ公爵家とフェラリス公爵家の政治的影響力は、トロイア公爵家やシグムソス公爵家よりも強いの。いえ、その二つの家と同時に対立したら、ルノウスフィア家でも太刀打ちできるかどうか……」


 五大公爵家の中でも家ごとに影響力の差があるのか。

 しかも、俺とキュリエさんに満点評価を無条件で与えるべきだと最初に発案したのは、風紀会の会長だったという。

 あれ?

 そういえばシーラス浴場に行った時、風紀会の会長さんが俺に会いたがっていると、レイ先輩が言っていた気がするけど……。


「私としては、あの二人の意見が一致したのが最も意外だったけど」


 犬猿の仲だったりするのだろうか。


「ああ、そうそう。そこの卓に載っているのが、例の軽食。話は、食べながら聞いてくれていいから」


 腹が減っていたので、遠慮なく卓の上の料理に手を伸ばす。


 次は、聖樹騎士団と学園についての話だった。

 現在、聖樹騎士団は人員が不足している。

 といって、まだ未熟な候補生を騎士団へ入れるわけにもいかない。

 戦争の危機が迫ってでもいれば、緊急措置として前倒しでの候補生の騎士団配属も一考の余地ありだ。

 しかし、危機が去った今の状態で候補生を聖樹士として騎士団へ早急に迎え入れるのはいかがなものか。

 国のお偉方は、そう考えているらしい。

 そこで聖樹騎士団は、来年の新規入団者の枠を増やすことにした。

 といって、試験のハードル自体を下げることはできない。

 解決策として、騎士団は定期的に聖樹士を学園へ派遣し、候補生に直接訓練をつけることにしたという。

 特別授業の枠を設けるとのことだ。

 この聖樹騎士団員による訓練によって候補生の質が高まれば、結果として騎士団へ入団する者の数を増やすことができるはず、という算段らしい。

 聖樹騎士団にとってはいささか手間となるが、今は優秀な聖樹士の人数確保が急務である。

 ここは、現役の聖樹士がひと肌脱ぐことにしたようだ。

 また、発案者がソギュート・シグムソスだったこともあってか、この案の承認は大変スムーズになされたという。


 ふーむ。

 となると、運がよければソギュート団長に稽古をつけてもらえる可能性もあるわけか。

 ソギュート・シグムソス。

 ヒビガミとの戦いに備えて、是非そのうち稽古をつけてもらいたいと思っていた人だ。

 もし直接稽古をつけてもらえる機会があれば、ありがたいが……。


「といっても、これは聖樹騎士団にある程度の余裕ができてからの話になるでしょうけどね」


 と、マキナさんが言い添えた。


「ああ、それとね? これはキュリエにはもう話したのだけれど、その……四凶災を倒したのは、表向きには聖樹騎士団ということになっているの」

「ええ、俺もその方がいいと思います」

「……あなたは、それでいいの?」

「だって、聖樹騎士団が倒したことにした方が対外的には効果的じゃないですか? ルノウスレッドの騎士団が、帝国軍と渡り合えるほどの力を持ったあの四凶災よりも強い集団だと印象付けられれば、抑止力としても効果的でしょうし。まだ聖樹士の卵であるいち候補生の二人が倒したなんて言われても、きっと変に訝しがられるだけですよ。聖樹騎士団が倒したって方が、説得力もあります」


 生き残った王都の聖樹騎士団の精鋭部隊は四凶災クラス。

 聖樹騎士団を擁するルノウスレッドに喧嘩を売る行為は、つまり、四凶災を敵に回すに等しい行為となる。

 抑止力という意味でも、十分な効果が期待できるだろう。


 マキナさんなりの俺とキュリエさんへの配慮もあったのだろうと思う。

 下手に俺やキュリエさんの名が外へ広がれば、それはそれで俺たちが危険に晒される可能性もある。

 俺たちのことを探ろうとする輩も出てくるだろう。

 俺はともかく、キュリエさんに厄介事が転がり込むのは勘弁願いたいところだ。


 そこで、ふと思った。

 俺とキュリエさんに大会での無条件満点評価を与える決定がなされたのは、このことに対する償いの意味もあったのだろうか、と。


「可能な範囲での口止めはしてあるけれど、もちろん、あなたとキュリエが四凶災を倒したと知る人自体はたくさんいる」


 ルノウスレッドの人間以外でも、シャナさん、ロキア、『愚者の王国』のメンバー、ヒビガミあたりも知っているか……。


「けれど、二つの説が広がることで真実をある程度はうやむやにできると考えたの。特に、他国に対してね」

「極秘中の極秘ってわけでもない、ってことですか」

「そうね。だから……学内あたりでは、真実が広がってしまうかも」


 あの場には学園の教官もいたしな。

 キュリエさんの方も城の兵士たちが目撃している。


「まあ、そのへんはのらりくらりとかわしていきますよ」

「あなたとキュリエなら、大丈夫だとは思うけれど」


 そう俺へ微笑みかけると、マキナさんは机の向こう側へ移動した。

 こちらへ背を向けて窓の前に立つマキナさん。

 外の景色を眺めたまま、彼女はしばらく沈黙していた。


「四凶災をこの大陸から排除したこと……私は、正しかったと思っています」


 不意にマキナさんが口を開いた。


「ただ、四凶災の死がいつか帝国まで伝わったら……再び帝国は戦争を始めるかもしれない。四凶災という対帝国の不確かな抑止力は、なくなってしまった」


 実際は、おそらくまだ四凶災は一人生き残っている。

 しかし、ヒビガミによれば本来四凶災は四人、あるいは二人以上が同じ場所で戦うことで最大の力を発揮する集団……その可能性が、高いという。

 個体として異次元的な力を有していたのは、ベシュガム・アングレンのみ。

 ならば――もちろん警戒は今後も必要であろうが――逃亡した四凶災の脅威は四人揃っていた時よりも確実に薄いと考えてよさそうだ。

 つまり集団としての『四凶災』は、もはや死んだも同然であろう。


 俺は、黙って言葉の続きを待った。


「それでも、私は四凶災を排除したことを後悔してはいないわ。むしろ、今後起きえたかもしれない残虐非道な殺戮を防ぐことができたと、そう思っています。それに、四凶災が跋扈していた間、ミドズベリア三国の友好関係は前へ前へと進んできた。だから、きっと――」


 まるで自分に言い聞かせているような、そんな響きの言葉だった。

 四凶災という障壁がなくなった帝国がもし再び攻めてきたら、それは、四凶災を排除した自分の責任なのかもしれない。

 四凶災を排除したことで、むしろ自分は、国を危険に晒してしまっただけなのだろうか……。

 そんな煩悶が、伝わってくるようだった。

 もちろん、今回の件は四凶災の方から王都へ襲来してきた。

 ただ、マキナさんは遅かれ早かれ四凶災をいつか排除するつもりでいた。

 だから、ミドズベリアにおける『四凶災』という戦の枷を壊したことを、自分の意志によってなされたことのように感じているのだろう。


「大丈夫ですよ、マキナさん」

「…………」

「仮に帝国が攻めてきたら、俺が帝国と戦いますから。誰かがあなたに四凶災を倒したことで何か責任を押しつけようとしたら、そいつも、俺が黙らせます」


 組み合わせた手を、強く握り込む。


「あなたを傷つける者がいるなら、俺は、そいつを許さない。それに、帝国軍は四凶災に手こずったんでしょう? だったら四凶災を二人倒した俺なら、帝国軍相手に善戦できるかもしれない。それに国や組織を崩すだけなら、敵対するすべてを倒す必要はないはずです。つまらない野望や野心を持った人間と、その人間に加担している周囲の者たちを、ただ、粛々と始末していくだけでいい……そうして、賢く優しい誰かに順番が回ってくるまで、それをひたすら、繰り返せばいい……」


 そう――膿を出し切るまで、始末し尽くせばいい。


「クロ、ヒコ?」


 はっとして顔を上げると、マキナさんが身体の正面をこちらへ向けていた。


「大丈夫? なんだか、とても怖い顔をしていたけれど……」

「へ? そ、そうでしたか? ええっと、その、マキナさんを苦しめるやつらがもしいたらと考えてたら、つい、感情が昂ぶってしまったみたいで……す、すみません」


 マキナさんが苦笑する。


「まあ、あなたがそこまで考え込む必要はないわよ。戦争が起きないよう外交的努力を重ねることが、最優先。戦争なんて、よいものじゃないもの」

「ですよね」


 さて、とマキナさんがトコトコ歩いてくる。


「とにもかくにも、あなたの意思を確認することができてよかったわ」


 マキナさんが、ん〜っ、と身体を伸ばす。


「それじゃあ、私はもうひと頑張りといきますかっ。あなたの方は――」


 マキナさんはドアの前まで行って、取っ手を押した。


「お迎えが、来ているみたいよ?」


 ドアの向こうに立っていたのは、


「あ」


「ようやく、お目覚めのようだな」

「おはようございます、クロヒコ」


 キュリエさんと、セシリーさんだった。


「それじゃあ、ごゆっくり」


 ドアを閉じるマキナさんに一つ頷いてから、キュリエさんが言った。


「ま、私たちはさほど心配はしていなかったんだがな。おまえのことだ、そのうち目覚めると思っていた」


 意地悪っぽい目のセシリーさんがキュリエさんの腕に、とんっ、と肩をぶつけた。


「さすがに一週間ともなると、キュリエも心配し始めてたみたいですけどね?」

「おい、セシリー」

「ふふ、ま、わたしもクロヒコならちゃんと目覚めると思っていましたから。それにわたしたちが心配しすぎると、クロヒコの場合、目覚めた後に逆に気を遣って気疲れしちゃうでしょ?」

「あー……そういう面はあるかもしれませんね」


 申し訳なさそうに『心配かけてすみませんでした』を連呼する自分の姿が容易に想像できた。

 心配する必要がないくらい信頼されているというのは、それはそれで楽なのかもしれない。


 アイラさんたちが食堂にいることを話し、三人で学園長室から食堂へ向かおうとした、その時だった。

 左腕に添え木と包帯をしたジークと、右手に包帯を巻いたヒルギスさんが階段から姿を現した。


 二人とも感謝と労いの言葉をかけてくれた。

 ジークなどは「こういう言葉はもう聞き飽きているかもしれないがな」などと苦笑していたが、感謝や労いの言葉をかけてもらえるのは、やっぱり嬉しい。


「じゃあみんなでこのまま、食堂に――」


 たったったったったったったっ――――


 早足で階段を駆け上がってくる足音が、聞こえてきた。

 足音の人物は階段をのぼり切って俺の姿を認めるなり、感極まったような表情になると、きつく引き結んだ口元をプルプルと震わせた。

 そして、


「く、くろ、クロヒご、さ、様ぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――――――っ!」

「ミアさん……………………み、ミアさん?」


 両手を突き出してやや前屈み気味に突進してくるのは……ミアさんだった。

 先ほど探しに行った人が、ミアさんを発見したのだろうか?


「よよ、よがったぁ〜、よがっだでずぅぅうううう〜っ! ミアは、ミアはぁ〜っ! クロヒござまのことが、もう、心配で、心配でぇぇええええ〜、ぶ、ぶえぇぇ〜っ! ずず、ずびばぜんっ……おみ、おみぐるじぃ姿、でぇ……う、うえぇぇえ゛え゛え゛え゛〜っ……でも、嬉じぐで、嬉じぐでぇ〜……ふえぇぇええええ〜んっ! クロヒご様だっ……クロヒご、様だぁぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――――――っ!」


 涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔のミアさんが胸に飛び込んできた。

 俺の胸に顔を埋め「ずびばぜん、ずびばぜん……っ!」と、謝罪を繰り返しながら泣きじゃくるミアさん。

 マキナさんが「ちょっと、何事?」と部屋から顔を出すくらいには、ミアさんはわんわんと大声で泣き喚いた。

 落ち着くまでに、十分くらいかかっただろうか。


「しゅみませんで、ございました……お目覚めになっているクロヒコ様を見たら、つい……」


 反省の色を顔いっぱいに貼り付けて顔を紅潮させたミアさんが、深々と頭を下げる。


「申し訳、ございません」


 しゅん、と耳をへたらせるミアさん。

 とはいえ、ここに彼女を責めるような人間はいない。

 むしろ皆、号泣するミアさんを微笑ましく眺めていた。

 ただセシリーさんは、


「な、なんですかね……余裕たっぷりに仕上げたわたしたちの出迎えが、なんだかとっても、軽い感じに思えてきて……こ、この敗北感は、一体……」


 と、顔面蒼白になっていた。

 一方のキュリエさんは、


「……ぐすっ」


 なんと、もらい泣きしていた。


「じゃ、じゃあとりあえず、みんなで食堂に行きましょうか? ね?」


 アイラさんたちの待つ食堂を目指すべく、ひとまずここを離れることにした。


 並んで俺たちの前を行くジークとヒルギスさん。

 ぱたぱたと小走りに前の二人へ追いついたミアさんが、二人に何度も何度も頭を下げている。

 ジークが両手を前に出し、まあまあ、みたいな顔をしている。


 謎の敗北感を背負ってフラフラしているセシリーさんに不思議そうな顔で「……大丈夫か?」と問うキュリエさん。

 蒼ざめたセシリーさんが、あはははー……っ、と覇気のない笑い声を発しつつ「わたしも明日から『クロヒコ様~っ』とか、呼んでみるべきなんですかねー……」と、何やら意味不明なことを呟いていた。

 覚束ない足取りでフラフラと階段と違う方向へ歩いて行く、セシリーさん。

 キュリエさんが「お、おい! どこに行くんだ!?」と、慌ててセシリーさんを連れ戻していた。


「…………」



 その光景を見ていて、俺は、なんだかほっとしていた。



 改めて戻ってきたのだと、そう実感できた気がしたのだ。




 大切な人たちのいる、この場所に。






 第一部の終わりまで、残り3話でほぼ確定となりそうです。投稿日はまだ未定ですが「第116話」「第117話」「最終話」の3話分は、なるべく一日のうちにまとめて投稿できればと思っております。

 

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