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聖樹の国の禁呪使い  作者: 篠崎芳
聖樹の国の禁呪使い 第一部
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第111話「CLEAR(double)」

「ブーアギータ、ロロトノカーン」


 残る七罪終牙に仮面の男が呼びかける。


「ここにいる第6院、我らが主であられる終末女帝の後の脅威となるやもしれん。命を賭してでも、噛み砕け」


 ブーアギータと呼ばれた男がランスの突端を滑らせ、キュリエさんで留める。

 ヒビガミは動かない。

 ブーアギータの動作を見て、次の動きをキャンセルしたようにも映る。


「これより殺人を行う。貫き、砕き、解、体っ!」


 放たれた矢さながら、ブーアギータが突貫する。

 無表情だった彼の顔は戦闘態勢に移行するやいなや、憤怒に染まった。

 煌めくランスの先端がキュリエさんに襲いかかった。

 一瞬、俺は禁呪詠唱を開始しようかと思った。

 だけど、


「少しは、動けよ」


 すぐに必要がないとわかった。

 ブーアギータのランスが貫いたのはキュリエさんではなく、虚空。

 殺貫対象とすれ違ったブーアギータが噴き上げるは、斬剣による鮮血。

 ふわりと風に靡く、長い銀髪。


「ぬ……ぐ、ぅ……っ!?」


 リヴェルゲイトの刃がすれ違いざま、彼の胸下から肩口までを無残に切り裂いたのだ。

 ブーアギータはランスの柄を握り締めたまま前のめりに地を滑り、動作と生命活動を停止した。


「四凶災やノイズと比べたら、止まって見える」


 仮面の男が嘆息。


「ロロトノカーン。あっちの男をやれ」

「ぶっ、ぶぅぅぅうううううう! でぇぎればぁ! お、女の方がよがっだなぁぁああああっ! ぶっぶぅ!」


 ロロトノカーンと呼ばれた小男がロキアへ突進。


「お、お、おぉぉおおおお!? じじ、じっでるぞぉおまえぇぇええええ!? じゅうまづぎょぉ三大ぞじぎぃ! 愚じゃのおーごぐぅぅのぉぉぉ、ま、まま、まままま『魔王』ロぎアぁぁああああ! ぶぶぶぶ、ぶぶっ、ぶっ、ぶっぶぶぶぶぶぅっ!」


 ロロトノカーンが唾液を撒き散らしながら前傾姿勢で駆け、斧を振りかぶる。


「さすがにオレのこたぁ知ってるか。クク、にしても七罪終牙とやらよぉ? ちぃと頭が高くねぇか? 余は終末郷にその名を轟かせる――かの『魔王』なるぞ?」


 受けて立つとばかりに、ロキアも疾駆。


「は、はえぇぇええええ!? ずげぇはえぇぇ! なんだぁ、ぞの反応ぞくどはぁ!?」


 蛙よろしくロキアに飛びかかるロロトノカーンだが、白と黒の二剣で、身体の前面を激しく一方的に切り裂かれる。


「ぶ、ごぉぉおおおお!? いでぇ! い、でぇええええ! だんがよぉ、み、みぢ、づれぇ……みぢづれだ、だ、だぁぁああああぁぁぁぁああああああああ――――っ!」


 ロロトノカーンの斧の内部がマグマのごとく赤い光を放ち、さらにその光量が急速に増していく。

 刹那、斧を中心としてロキアの手前で爆発が起きた。

 しかしロキアの身を案じる気配を見せる同郷者は皆無。

 白煙が散り、薄くなっていく。

 煙が晴れてロキアの姿が目視できるほどになる。

 爆発で削り抉れた肉はすでに、再生を始めていた。


「このオレの特性も知らずに自爆たぁな。暗殺が得意だと嘯く割にゃあ、事前の情報収集がまるで足りてねぇじゃねぇか。まったく、笑わせやがるぜ。人間の能力を拡張するのはいつの時代も情報なんだぜ? そいつを怠ったら人の力は活かせねぇ――っつ……クソったれ」


 ロキアが表情を微かに歪め、再生中の肩を手でおさえた。

 つい忘れがちになってしまうが、あの再生は消耗もするし、痛みも伴う。

 おそらく忘れがちになってしまうのは、ロキアが痛がったり苦しんだりする素振りを普段ほとんど見せないからだろう。


 残る仮面の男が、二度目の嘆息。


「役立たず共め。失望の、極み。七罪終牙も落ちたものだ。仕方あるまい。やはりここは我が『暴剣』が一手に引き受けねばならぬか……されど、目的の罪人の処刑は達成したも同然。この女を処刑した後は……そうだな、最低でも一人か二人は連帯罪ということで、この場で処すとしよう」


 仮面の男が刺さったままの剣でノイズの傷を、ぐりっ、と抉る。


「ちょっ――ったぁい! っつ、もう……趣味悪いわね、あんた」

「罪を悔いる痛みは存分に与えた。あとは、無残な死だ」

「う、うふふ、うふふふふ、うふふふふふふふふぅ! あは、あはははははは! あーはっはっはっはっ!」


 突然ノイズが壊れたみたいに笑い出した。


「恐怖で気でも触れたか……所詮、小物よな」

「清ぉ〜らかなるぅ〜風の精ぃぃ〜踊りぃ〜風を切りぃ〜またぁ〜踊りぃ〜狂い〜っ」

「詩、か? なるほど、死にゆく己への最期の詩というわけか。なんとも惨めなものだ」

「その〜風はぁ〜誰の目にも〜そよ風のごとくぅ〜映りぃ〜っ!」

「憐れな末路よ。しかしこれこそ、終末女帝の名を騙るということの結果だ。今さら悔いても、時すでに遅し」

「けぇぇれ〜どもぉ〜そのぉ風の色は〜っ――――殺戮の色を、持っていた」


 あの詩――いや、あれは詩ではない。

 あれは確か、ノイズが俺と最後の詠唱の撃ち合いで、口にしていた――


 仮面の男が刃を引き抜き、ノイズの首筋に刃を当てた。


「さあ、処刑の時間だ」



「『風色、嘆き』」



「何?」


 その時、超音波にも似た音が響いたかと思うと、鋭い刃同がの擦れ合う音を思わせる音を纏う風の刃が、グルーザイアを切り裂いた。


「ぐあぁぁああああ――――っ!」


 風の鎌で全身をズタズタにされ、グルーザイアが絶叫。

 ノイズは手並み鮮やかにグルーザイアの剣を奪い取ると、すかさず突きを放った。

 その突きによって紅い仮面は左右真っ二つに分かたれ、グルーザイアは、そのまま己の剣の刃に額を貫かれた。

 深手ゆえか。

 さしものノイズも少々しんどそうに見える。

 荒く短い呼吸を繰り返すノイズ。

 呪文対象に接していたため、彼女の頬や体にも何本もの裂傷が走っていた。

 けれど、風の鎌で切り裂かれている間もノイズは微動だにしなかった。

 まばたき一つ、しなかった。


「この、ノイズ・ディース……自分の行動の結果を悔いたことなんざ、一度も、ねーわよ……うふふ……あまり、馬鹿にしないでちょうだいな」


 急に前屈みになったかと思うと、ノイズが激しく嘔吐した。

 うげぇぇぇっ、と多量の血を吐き出すノイズ。

 吐き出された血の中に、何か交っている……二本の、小瓶……?


「その中にヒビガミ用の隠れた手練れ連中の情報と、さっきもう話したから意味なくなったけど、キュリエ用の……あの女の居場所を記した紙が、入ってるわ」


 言い終えたノイズが、仰向けに倒れる。

 血の水たまりから小瓶を拾い上げるヒビガミ。

 一本目の中身を確認した後、残りをキュリエさんに投げて渡してから、ヒビガミがノイズを見下ろす。


「他のカスどもに比べれば、あの仮面はいくらかマシな力量だったようだが……しかし、まさか己が倒すとはな。やはり己はなかなに大した女だぜ、『無形遊戯』」

「だ、から……あんたに、褒められても……嬉しくない、てぇの……けど、まさか終末郷から暗殺者が差し向けられてたとはねぇ……ま、敗北者であるあたしにはお似合いの死に様、か」


 キュリエさんとロキアも近づいてきて、ノイズのかたわらに立った。

 ロキアは爆発でボロボロになった上着を脱ぎ、上半身裸になっている。


「あんな連中に背後を取られるたぁ、テメェも焼きが回ったもんだな」

「そうかしら? 気配を絶つことに関してはすごい技術だったけど……ヒビガミの言ったように、身の程さえ弁えてれば多少は舞台映えしたと思うわよ? 惜しい人材だったわ」


 ロキアやノイズは七罪終牙が弱かったみたいに話すが、しかし、彼らがひどく弱かったのかというと俺にはそうは思えない。

 動きも洗練されていると感じたし、戦闘の経験が豊富なのも伝わってきた。

 決して、弱い相手ではなかった。

 彼らが弱く映ってしまったのは、強さの基準がおかしくなってしまっているせいだと思う。

 四凶災、ノイズ……それから、ヒビガミのせいで。


 現実は、舞台の脚本ように必ずしも釣り合う強さの者同士を段階的に引き合わせてくれるわけではない、ということなのかもしれない。


「ノイズ」


 キュリエさんが複雑そうに、ノイズに話しかけた。


「なぜ、おまえはそうなってしまった? あの女の……タソガレの、せいなのか」


 ノイズが天を仰ぎ見た。

 すると彼女は、とても哀しげな顔で語り出した。


「ええ、そうかもしれないわね……タソガレが、あたしをこんな風にしてしまったのかも。あのね、キュリエ……あたし、本当はこんな風にはなりたくなかったのよ? だけどね、とても辛かったの。逃げたかったの……だからこそ誰よりも、強くなりたかった……自分の理不尽で不幸な境遇を、書き換え、たかった……寂しくて……孤独で……だけ、ど――」


 突然、ノイズの微笑が凶悪なものへと一変した。


「――なぁんて、うっ、そぉっ! ぐっ――げほっ! ごほっ! う、うふふふ……残念ながら今のはぜぇんぶ、嘘よ。あたしってば、なぁんにもないのよね……同情を誘うような過去とか、憐れんでもらえるような生い立ちとか、そういうのが、まるで皆無なの」


 歓喜を滲ませ、目と歯を剥くノイズ。


「楽しい人生だったわ。ヒビガミとかロキアとかヴァラガとかクソムカつく連中はいたけど、でも、悲観に暮れることなどまるでなかった。舞台で踊る人間たちの悲喜交々をひたすら楽しむだけの、ただただ、楽しいだけの人生……面白そうな役者たちを巻き込んで、時には使い捨て……あたしは自分の欲望を満し続けるだけのそんな素晴らしい人生を、謳歌してきたわ! あたしは目的を達成するためならば手段は選ばなかった! やりたいようにやりたいことをして楽しくがむしゃらに生きた! 行動の結果もすべて受け入れてきた! もし生まれ変わったとしてもあたしは、また『あたし』になりたい! この思うままに振る舞うあたしが――あたしは、大好きだわ!」


 げぶっ、と口から血を溢れさせるノイズ。


「ま……人生を賭けた舞台だけ完全に失敗するっていう間抜けを、最後にやらかしたけどね……ふふ」


 正しく性根が、腐っている。


 ヒビガミがノイズを評した言葉だ。

 なんとなくだけどあの言葉の意味がわかったような気がした。


 基本、ノイズは自己弁護をしない。

 自己を正当化することもなく、己の邪悪な本質を受け入れている。

 邪悪を邪悪として為している。

 為すことの正当性を相手に押しつけることはなく。

 いや、元より正当性があるとすら思っていないのだ。

 また彼女は目的を果たすために自己犠牲すらも厭わない。

 仮に行動の結果によって悪い目が出ようとも最終的な結果は潔く受け入れる。

 そんな彼女の望むものはいつもとても、歪んでいて。

 ノイズ・ディースはいわば『真っ当な邪悪』と呼ぶべき存在なのかもしれない。

 ふと、俺はそんなことを思った。


「存在が他者の迷惑にしかならない者は、紛うことなき、邪悪よ」


 上体を起こし、後ずさりを始めるノイズ。


「だから万に一つでも傷だらけのあたしに感情移入なんかしちゃぁ、駄目よ? 決して手を差し伸べようだなんて思っちゃ駄目。邪悪は邪悪として最後は断罪されてしかるべきものなの。い〜い? この舞台を成立させるためにあたしはこの学園の生徒を殺してること、忘れないでね? 他にもゴーレムの犠牲になった者だっている。だから――あたしを決して、許すな。いいわね? 邪悪は邪悪でしかない。悪を為す者は悪を為す者でしかない。犯した過去の罪が消えることもない。悪行は、善行で償えなどしない。悪罪は、悪罪」

「フハハハ、つくづくひねくれた女だよな、テメェもよ」


 ロキアが雨に濡れた地面を蹴り上げ、泥をノイズに飛ばした。


「よぅ、ノイズ……テメェ、ほんとは七罪終牙の存在に気づいてたんじゃねぇか?」

「さあ、どうかしら?」

「クク、つーかよ? だったら6院の人間なんざただ一人の例外もなく、邪悪そのものじゃねぇか。自分だけが邪悪だと思ってんじゃねぇぞ、この自意識過剰女が」

「……あんた、ほんといい死に方しないわよ」

「ハッハッハーっ! むしろ死ねるもんなら一度くれぇ、死んでみてぇもんだがなぁ?」


 むくれ顔になるノイズ。


「正直こいつだけは、一泡吹かせてから死にたかったかも」

「ノイズ」


 キュリエさんが一歩、前に出た。


「興味本位で一つ、おまえに聞きたいことがある」

「あら……なぁに、キュリエ? あなたならなんだって応えてあげるわよ? 正直、死に際の人間がベラベラ喋るのって劇的には美しくないけど……ま、いいわ」

「なぜおまえは、この学園を舞台に選んだ?」


 それはノイズと戦う前にヒビガミやロキアも気にしていたことだった。


「そんなことが気になっていたのぉ? ふふ、それは簡単な話よ」


 ノイズが微笑む。


「教える者がいて、学ぶ者がいる……けれどその学ぶ者たちは、教える者にとって意外と御しがたく……どこかに似てると思わない?」


 キュリエさんの顔に理解が走る。


「6院、か」

「タソガレが言ってたわ。『人は年をとればとるほど自然、郷愁を追い求めてしまう生き物なんだよ。印象深い過去というものは、人の心を呼び寄せる不思議な引力を持っているからね』って。けどそれなら、郷愁って呪縛と同義よね」

「……なぜ、ルノウスレッドを選んだ?」

「帝国の分都市には気に障る『蛇』がいるし、ルーヴェルアルガンにはタソガレがいたからねぇ。ま、結果的にはヒビガミにロキア、さらには禁呪使いと、ここが最悪の舞台になっちゃったわけだけど」

「ほれみろ。やっぱクソみてぇな理由だったじゃねぇか」


 ロキアが唾棄する調子でヒビガミに話を振る。


「まあ、理解の及ぶ理由ではあるがな。単純すぎて、逆に思い至らなかったが」

「むしろオレぁこの女が郷愁なんて甘ぇ感情を持ってたことの方が、驚きだったぜ」


 カカッ、と嗤うヒビガミ。


「いわゆる過去に縛られる、というやつだな。郷愁ってやつぁ時たま人を狂わせる魔性の果実にもなる。人は過去からは逃れられんものだ。『現在だけ』の人間など、存在しねぇからな」

「はっ、そもそも過去なんてもんに引っ張られてる時点で心が甘ぇんだよ。過去への感傷なんてもんはな、賢いやつだけが持ってればいいんだ。オレみてぇな愚者には、必要ねぇ代物だぜ」

「ならばおれにも不要なもの、か」


 言い終えると、七罪終牙から奪った剣の先をヒビガミがノイズの顎に添えた。


「まだ己が生命を保っていられるのは例の薬の影響だろう。だが、薬の効果が切れてくるにつれ地獄の苦しみが滲み出てくるはずだ」

「……でしょうね」

「どうする? 死を望むならば、ここでひと思いに殺してやってもかまわんぞ? 己はサガラの力を引き出すのに一役買ったからな。苦しまず死にたいと己が望むならば、苦しまぬような殺し方で命を絶ってやる」

「ふふ……ご厚情痛み入るけど、それだとあたしの死に逃げみたいじゃない? 別にいいわよ、あたしは負けたんだから。無様にのた打ち回って死ぬのがお似合いだわ。い〜い? 普通ね、劇的には『悪役』ってのはしっかり苦しんでから死ぬべき存在なの。あたしの場合は後悔が微塵もないんだから、せめてもがき苦しむ姿くらいは見せてしかるべきでしょ?」


 ノイズが片腕で身体を支え、俺を見る。


「禁呪ちゃん……あなたのことは嫌いだけど、気迫と戦い方に関しては素直に見事だったと言っておくわ。ここにいる6院の連中が目をかけてるのも、わかる気がする……ふふふ……勝てるといいわね、ヒビガミに」


 次にノイズはキュリエさんを見る。


「こうしてあたしたちに交じっているあなたを見ると……やっぱりあなただけ邪悪じゃないのよね……けれど自然とあたしたち邪悪の中に、溶け込むこともできて……ああ、ゆえに――」


 ノイズの髪の発光が弱まっていく。


「あなたはとても、美しい」


 次の瞬間、だった。


 ヒビガミが剣を振りかぶったかと思うと、まばたきをするかしないかの間に、鋭く風を切り裂く音が走り去る。

 一拍遅れて、ノイズの首から血泉が噴き出た。


「もし己が見苦しく足掻いたり、このまま一撃で楽にしてくれなどとほざいたなら、そのまま放っておくつもりだったが――」


 ヒビガミが懐から布切れを取り出し、剣の刃を拭く。


「その潔さには、敬意を表そう」


 ヒビガミは膝を突くと、前のめりに倒れかけたノイズの死体を支えた。


「ここにいる連中はおそらく、首を縦には振らんだろうが……己も見事な戦いぶりだったぜ、『無形遊戯』。まあ――」


 ヒビガミはノイズの死体を地面に横たえた。


「おれなんぞに賞賛されてもやはり己は、喜ばんのだろうがな」


 ノイズが、消えた。


 まだ空は明るいまま。

 時刻に不釣り合いな真夜中の太陽を覆い隠す雲も、残っている。

 術者が命を失おうとも、ノイズの固有術式の効果はまだ消えないらしい。

 雑音の、残響。


 ただ、空の明るさは少し陰ってきている。

 しばらく経てばそのうち効果も、切れるのだろう。


 その時、雲間から時刻にそぐわぬ光が差した。

 淡い光がノイズの顔を照らし出す。



 その表情はまるで、死に怯える恐怖の表情を『無理にでも作ろう』として、失敗したみたいにも見えた。



「ちっ、演じ切るなら最後まできっちり演じ切ろってんだ、このひねくれ役者が」


 面白くなさそうに悪態をつくロキア。

 彼は地面に唾を吐き、言った。



「つくづく最後まで役不足な女だったよな、テメェもよ」



 ロキアの表情は、俺の位置からでは見えなかった。







 この第111話「CLEAR(double)」にあたる内容のとある箇所については、二つの選択肢があり、ノイズ編に入る前からどちらにすべきかずっと悩んでいました。


 ノイズ編は次話「かくて最後の幕は下りる」で終わりとなります。


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