第102話「カタチ持つ者」
生徒たちが術式を描き始める。
おそらく現在使用できる各々の、最大の攻撃術式。
術式は指先に集めた聖素でエディア文字――術式文字を描くことで、発動する。
発動過程において指先から多く聖素を文字に練り込むことで、術式の威力はいくらか上昇する。
ゆえに皆、聖素をより多く練り込むためであろう、普段よりも少しだけゆっくりと描いている感じだ。
けれどいくらゆっくりとはいえ、術式はさほど時間を要するものではない。
「悪逆非道な四凶災をこの世から消し去り、浄化しろ! この国を守る高潔な未来の聖樹士の手によってな! わかってるな!? 決して手を抜くんじゃねぇぞ!? 聖素を最大まで術式に練り込め! ヌルい術式を放って仕留めきれなかったら、もし四凶災が悪あがきで暴れ出しても、オレもキュリエもテメェらを助けねぇからな!? さあ――」
ロキアがやや大げさな身振り手振りで威勢よく号令をかける。
「放て!」
生徒たちの術式が、ほぼタイミングを同じくして発動。
雷、炎、氷、風、土――
攻撃属性を帯びた術式が、さながら機関銃の弾丸でも放っているかのごとく、身動きできない四凶災に次々と命中していく。
耳をつんざく雷音、
逆巻く炎の熱量と火勢、
硬質な氷の形成音と鋭い冷気、
恐るべき切れ味を想像させる凄味ある風切り音、
飛び散る土塊を纏いながら飛来する、石の礫。
しかし見たところ、そう効果があるようには映らなかった。
あれだけの攻撃術式を一身に受けているにも関わらず、四凶災の反応は皆無。
いや、そもそもあの四凶災……。
あるいはすでに、処刑劇の準備の最中に――
砲撃めいた術式が止む。
ロキアが、一層服がボロボロになった四凶災に近づき、状態を検める仕草をした。
にやり、と笑うロキア。
「見事だ。テメェら勇者は今、この場で見事に四凶災を仕留めてみせた。この場で未来への確たる意志を示した……テメェらは約束された未来を今、その手で勝ち取った! 誇れ、己を!」
一拍あって――
生徒たちが、どっ、と湧いた。
一時的にかもしれないが、強い高揚感を覚えているようだ。
やや距離を置いた場所から見ている俺からすると、ある意味、薄ら寒い光景にも見えてしまうが……そう、まるで集団催眠にでもかかっているかのような……。
「フハハハハ、しかしざまぁねぇな四凶災!? まだ聖樹士になってもいねぇ候補生ごときにとどめをさされたとはな! とんだ笑い者だ! ……っと」
ロキアがステージから飛び降りる。
「まあ――四凶災がどの時間にどう死のうが、別にオレの知ったこっちゃねぇんだがな」
処刑劇に参加した生徒たちは今ロキアが口にした言葉を、暫し理解できずにいるようだった。
自分たちをあれほど煽っておいて、何を言っているのだろうか。
一様に皆、唖然としている。
「え? いきなりどうしたんだよ、あんた?」
「そうよ……私たち、覚悟を決めて……」
「さ、さっきは僕らを褒めるようなこと、言ってたじゃないかっ」
「なんで急に、そんな距離を置いたみたいなこと言うんだよ?」
ロキアが喉仏を弄り始める。
「よく知らねぇ相手の言葉を完全に信じちまってる時点で、やっぱテメェらにゃ、聖樹士とやらの素質はねぇのかもな」
無慈悲ともいえる言葉をロキアは口にした。
「ま、この緊張状態じゃ仕方ねぇよ。不安や恐怖から来る恐慌状態ってのは、人からいともたやすく正常な判断力を奪い去る……自信たっぷりな様子の人間の言葉に追従することで、張りつめ続けた神経が解きほぐれていく……その心地よさに勝つことは、困難だ。普段なら何かおかしいと感じることでも、容易に呑まれちまうのさ。『人としてまだ年齢的に未成熟な候補生』なら、なおさらな」
クク、と小さく笑うロキア。
「とはいえ、今回のことを恥じることもねぇよ。ひょっとすると本当にテメェらが四凶災にとどめをさしたのかもしれねぇんだしな。将来の語り草のタネとしちゃあ、十分だろ。そういうわけで……ご苦労だった、候補生諸君」
何を言っているのかさっぱりわからない。
生徒たちはそんな顔をしている。
しかしロキアはどこ吹く風、もう目的は果たしたと言わんばかりの表情だ。
そして彼は真っ直ぐに歩いていき、立ち止まる。
「術式ってのは、面白いもんだよなぁ?」
まだ状況がよく呑み込めていない生徒たちの前に立つロキア。
「単に術式を描くだけではなく、込める聖素の量によってその威力も変わる。さらに――基礎となる術式を省略する『略式』なんていうものも、存在している」
「……だから、どうしたっていうんだよ?」
怪訝な顔をした生徒の一人が、反射的に尋ねた。
「ただし略式は難度が高く、候補生でも使用できる者は限られている……その全員をオレは仲間を使って調べ上げた。三学年、すべてだ」
ロキアの言葉に応える者はいない。
誰もまだ話の筋を呑み込めている様子ではない。
「そして二年と三年は現在、王都不在……さて、オレは術式が効きづらい四凶災を殺すために『術式を描く際は最大まで聖素を練り込んで放て』と要求した。となると、描く文字数が圧倒的に少なく、聖素維持のために割く聖素量も多い略式を、まさかこの状況で使おうなんて間抜けは――普通に考えて、いねぇよな? なんたってテメェらはまだ聖樹士の卵だ。略式であの四凶災を殺す攻撃力を出せるとカンチガイする馬鹿はいねぇだろう。その域に達してるのは、まあ、三年のベオザ・ファロンテッサくらいか……そして今そいつは、この王都にはいない」
だんだんロキアの言いたいことが、わかってきた。
「さて、幸いなことに、王都に残った一年で略式が使える生徒はこの場に揃っている。槌師組ギリアス・ハント、双蛇組ナンナ・ヒッテロ、同じく双蛇組グレンヴァール・シアータ、獅子組セシリー・アークライト――この、四人だ」
ロキアが言い終えると、俺の背後にいるセシリーさんを除く三人の生徒の周囲に、ちょっとしたスペースができる。
よくわかってないながらも皆、何かある、と思ったのだろう。
三人とも不安げな表情をしている。
「そして今回の処刑劇……あれほどオレが聖素を強く練り込めと言ったにもかかわらず、今挙げた四人の中でたった一人、あの四凶災相手に略式で術式を撃ち込んだ間抜けがいる。言ったはずだぜ? 下手に手を抜けば、オレとキュリエは四凶災が死にもの狂いで反撃してきてもテメェらを助けねぇとな……ま、その言葉が響いてたかどうかは、わからねぇが」
こきっ、と首を鳴らすロキア。
「どうしてあえて略式を使ったのか聞いてもいいかな――ナンナ・ヒッテロ」
皆の視線が一斉にナンナ・ヒッテロに集まった。
栗色の髪を持つ、碧眼のいかにもおとなしそうな少女。
「わたしは、その……大丈夫だと、思って……」
「何が?」
「略式でも、自信があった、から……」
「かもな」
「え?」
「いいんだよ、別に……オレがテメェに『あること』をすれば、たちまち真偽は判断される。一人に絞り込めりゃあ、それでよかったからな」
ロキアが近寄ると、ひっ、とナンナ・ヒッテロが身を引いた。
「四凶災の処刑の後にテメェを炙り出す策を実行するみたいなことを言ったが、実は、そんなもんはねぇんだよ。テメェを油断させるための、はったりだ。見事に油断して、考えなしに略式を使ってくれたみてぇだが……テメェは自分じゃ気づいてねぇのさ。術式使いとして完成されてるテメェは、どんな時でも略式しか使わねぇんだ。昔から、ずっと……」
さらに一歩、ロキアが近づく。
「まあそもそも『最初に教えられた術式』が略式だったから、テメェはそれが基礎になっちまった――そうだろ、ノイズ・ディース?」
「だ、誰ですか……の、ノイズ? なんですか、それ?」
「今回の四凶災襲来はテメェが仕組んだものかどうかはわからねぇが、テメェにとって劇的な展開だったのは確かだろうな。さぞ、興奮したことだろう。なんたって、キュリエ・ヴェルステインという主役がいるんだからな」
ナンナ・ヒッテロは本気で怯えている様子だった。
少なくとも、俺から見た限りでは。
……彼女がノイズ、なのか?
「そもそもそのノイズという人物は、本当にあの生徒の中にいるんでしょうか? 普通に考えたら、あえて危険を冒してまで生徒の中に混ざる必要はないと思うんですが……」
セシリーさんがそう言った。
正直なところ、俺も同じ感想を……いや、第6院の人間のことは、同じ第6院の人間が一番よくわかっている。
皆、ノイズは必ず舞台の一等席にいると言っていた。
ならば、いるはずなのだ。
あの中に。
「テメェの変化呪文には、一つある欠点がある」
ロキアがナンナ・ヒッテロの腕に、手を伸ばした。
「それは、変化呪文が、テメェですら聖素の量を一定に保つのが難しいほどの繊細な呪文だってことだ。以前、自分からそう話してたもんなぁ? ならば、もしその身体にこのオレの持つ放出量で大量の聖素を流し込まれたとしたら、果たしてテメェはその呪文を維持できるのか――」
「だ、駄目! もう、我慢ができません!」
ナンナ・ヒッテロが後退り、声を上げた。
彼女は恐怖を顔に貼り付け、ロキアを指差した。
「こ、この人、終末郷の人間です! この学園に潜り込んで、悪さをしようとしているんです! 実はわたし、極秘で彼らのことを調べていたんですが……つ、ついにわたしをこうして嵌めて、始末しにきたみたいで……! みんな、騙されちゃだめです! ねぇ、そもそも彼と彼の取り巻きに見覚えありますか!? ねぇ、あなたたちってどこの組の人ですか!? 答えられますか!?」
「い、言われてみれば……あんた、どこの組の生徒?」
「おれ、見たことないな……いや、まだ新入生だから見覚えがないんだと思ってたけど……え? 何? 終末郷?」
ナンナ・ヒッテロは近くの男子生徒の腕を取り、身を寄せた。
「ボルカ、助けて! あの人今、多分わたしを殺すつもりだったのよ! ああ、ごめんなさい……あなたにも今まで黙っていて……実はわたし聖王家から頼まれて、彼らのことを極秘裏に探っていたの。だから、わたしが彼らを調べていたことは、学園長すらも知らない極秘任務で……」
ボルカと呼ばれた優男はナンナ・ヒッテロの切々とした言葉を聞き、唇を噛んだ。
「そうだったのか、ナンナ……最近の君の様子がおかしかったのは、そのせいだったんだね……ごめんよ、知らなかったとはいえ、なんの力にもなれなくて」
「ううん、そんなことない。むしろ……隠していて、本当にごめんなさい!」
ナンナが深く頭を下げる。
せせら笑いが、ロキアの口から出た。
「往生際が悪ぃんだよ、『無形遊戯』」
ボルカが、決然とロキアとナンナの間に割り込んだ。
「な、ナンナは僕の恋人だ……! ここは、絶対に通さない! いや、違う! みんな、やっぱりこの男はなんだか怪しい! 今回の処刑劇も冷静になってみれば変な話だ! 何が目的かはわからないが、おまえらは僕らを陥れようとしているんだろ!? 例えば……そう、僕らに四凶災を殺させることで、四凶災の仲間に僕ら聖樹士候補生への復讐をさせよう、とか! そうだ! こいつらはきっと聖樹士を根絶やしにしたいんだ! そしていつか、終末郷から攻めてくるつもりなんだ! その先兵……そう! おそらくこいつや、こいつの仲間たちは、四凶災と共に終末郷から送り込まれた、悪の先兵なんだ!」
熱っぽく言葉を叩きつけるボルカ。
その背後に隠れているナンナ・ヒッテロは、目尻に涙を浮かべながら怯えた顔をしている。
と、他の生徒たちがボルカに呼応し、剣呑な空気を纏いロキアを取り囲んだ。
「そうだ……言われてみれば、こいつ怪しいぞ」
「なんで俺たち、こんなやつの言葉に踊らされてたんだ……」
「わたし、人を殺しちゃった……乗せられて」
仮にナンア・ヒッテロがノイズだとしても、生徒たちに危害を加える行為は認めないと、学園長はそうロキアに念押ししている。
生徒を傷つけることは、許されない。
「ノイズ、テメェ――」
ぎりっ、とロキアが歯噛みした。
悔しげに。
「いい加減、認めろよ……ここまで整えてやりゃあ、十分だろうが! わざわざこのオレがここまで開幕までの道を引いてやったのに、それでもまだ不十分だってか!? おいクソノイズ、これ以上テメェはどうしたいってんだよ!? あぁ!?」
ロキアの顔には強い憤怒と、焦りが宿っていた。
あんな顔、初めて見る。
「やだ、怖い」
ナンナが、ぎゅっ、とボルカの腕に力強く抱きつく。
「ノイズ、ノイズノイズノイズ……ノイズぅ……このクソッ、タレがっ……!」
ロキアが地面に膝をつくと、さらに、両の掌を地面についた。
そして、だんっ、と地面を叩いた。
「く、クソぉ……! 生徒に手は出せねぇ……蹴散らすこともできねぇ……なら一体、どうしろってんだ!? クソ……クソがぁ! このオレの策が……こんな形で、クソ……クソ……クソぉぉおおおおおおおお!」
目を血走らせ、ナンナを睨むロキア。
そして彼は立ち上がると、ナンナに襲いかかろうとした。
だが、囲んでいた生徒たちに阻まれてしまう。
ロキアの仲間が、動きをみせた。
カカ、と。
そう笑んだのは、ヒビガミ。
ナンナの目は、怒りと悔しさに塗れて吠え猛るロキアへ吸い込まれていた。
そして、
「――ようやく意識を私から外してくれたな、ノイズ」
「え?」
ナンナが、反射的に振り向く。
その背後に立っていたのは、キュリエ・ヴェルステイン。
彼女の手に握られているのは、服の中に忍ばせておいた空の刀の鞘と――
ベシュガムに折られた『魔喰らい』の刀身。
折れる前よりも弱々しいものの、青白い光を放つ『魔喰らい』の刀身。
そして――
ぐにゃり、と。
ナンナの顔が、変形。
「……あら」
途端、怯えきった様子だったナンナの表情が変化をみせた。
平然と、落ち着き払った様子へと。
「う、うわぁぁああああああああ――――!」
ナンナの顔面が異様な変形を見せたのを目撃したボルカは、怪物にでも遭遇したかのような悲鳴を上げた。
「ナンナが……な、ナンナがぁぁああああああああ!? え? なんで、なんで……」
俺は、ほっと一息つく。
変化呪文とやらも聖素を使っているのならば、もし、その呪文使用者の周囲の聖素をすべて吸収してしまったら、果たしてどうなるのか?
術式を使用不可にするほど聖素を吸収してしまう刀。
あの巨人と同等レベルの吸収力を持つ妖刀、『魔喰らい』。
医療室を出でからここに来る前、折れた『魔喰らい』が放り捨てられたあたりをキュリエさんに探してもらったところ、折れた刃の片割れが見つかった。
ベシュガムに折られたことでこの案が試せるかどうかが不安だったが、折れた『魔喰らい』の刃は、かろうじてまだその効果を残していた。
その刃だけを鞘に納め、キュリエさんに持っておいてもらったのだ。
ノイズが少しでも隙を見せたら一気に距離を詰め、その周囲の聖素を『魔喰らい』の刃で奪う。
ノイズが圧倒的な術式使いならば、彼女の戦闘能力自体も奪えるかもしれない。
キュリエさんに『魔喰らい』の刃を託したのは、彼女の方がロキアよりも素早く動ける(これはキュリエさんの談ではあるが)というのもあったが、やはり、策を実行するにあたって俺にとって最も信頼できるのが彼女だったからだ。
ただ、ノイズがもしキュリエさんに異様な執着を見せているのなら、処刑劇の最中に彼女がキュリエさんから意識を外すことは皆無に近いだろう。
もし意識を逸らすなら、ノイズが釘付けになるほどの『何か』が必要となる。
キュリエさんを通して、どうやらロキアに俺の考えた策は伝わっていたようだ。
だからおそらく、ロキアは――
「クク……フハ、フハハ、フハハハハハハ!」
生徒たちに押さえつけられていたロキアが急に余裕を取り戻し、笑い声を上げた。
「ここまで見事に引っかかってくれるたぁ、なんとも気分がいいぜ……クク、なぁどうだったよ? この『魔王』ロキアが情けなくも取り乱し、屈辱に塗れ無様に喚き散らす姿はよ? 劇的だっただろ? さすがのノイズ・ディースでも、滅多にお目にかかれるモンじゃねぇもんなぁ?」
ロキアを拘束していた生徒たちは、ナンナの顔の変形に言葉も出ないまま、混乱の極みに達しているようだった。
拘束が解けたロキアは、ごきり、と首を曲げて鳴らすと、歯を光らせ邪悪に嗤う。
「なあノイズ、考えてもみろよ? あの時点で、このオレが学園の生徒に本気で手を出さねぇと思ったのか? はっ、もしクロヒコの案を聞いてなけりゃ、目算がついた時点で学園長との約束なんざ反故にして、この学園の生徒を血祭りにあげてでもオレはテメェの正体を暴いてただろうよ」
「なっ――」
驚愕の声を漏らしたのは、マキナさん。
……やっぱり、ロキアを信用しすぎるのはよくないな。
にしても、思いつきだったけど代替案を出しておいて本当によかった……。
ロキアはにやけ面のまま俺を一瞥すると、『ナンナ・ヒッテロだったもの』に視線を戻した。
「忘れてねぇよな? いいか、ここはテメェがお膳立てした『舞台』だぜ? ならば『役者』として本気の演技をするのは当然だろうが? フハハハハ、こいつは我ながら傑作だと思うぜ!? なんたって一瞬とはいえ、このオレがテメェの中でキュリエ・ヴェルステインを上回っちまったんだからよ! テメェのキュリエへの愛はその程度か――なあ? ノイズ・ディース!?」
ナンナ・ヒッテロ――ノイズ・ディースは、先ほどまで白く蒼ざめていた唇を、微笑みの形に変えた。
「……うふっ」
粘つくような、しかし、どこか艶っぽい声。
うねる長い紫色の髪。
紫紺の瞳。
ノイズは制服を一瞬で脱ぐと、颯爽と宙に放った。
下に着込んでいたのだろうか。
黒と紫で彩られた薄手のローブ姿へ、その装いが変化する。
ローブを着ていてもわかる肉付きのよい肢体。
その指を始めとして、身体中に宝石などの装具をつけていた――おそらくすべて、魔導具であろう。
錯乱一歩手前のボルカを、どんっ、と横暴に手で突き飛ばすと、ノイズは一度、キュリエさんにウインクをしてみせた。
「……ノイズ」
キュリエさんの表情がより一層、引き締まった。
ノイズは、うふっ、ともう一度深い笑みをその顔に湛える。
「いやぁん、見つかっちゃったぁ……け、どぉ? なかなか面白い前座だったわよ? 特に素晴らしい演技を見せてくれたロキアは……うーん、そうね、嫌いだけど一応、褒めたげる。んふふ、さぁて……役者も揃ったことだし、これで本当に本当の――最終幕の始まりで、ございます」
不敵に不気味に微笑むと、ノイズは天へ右腕を突き出し、ぱちんっ、と指を打ち鳴らした。
「皆さま、どうか幕が下りるまでこの舞台に、おつき合いを」
無形から、有形へ――
確かな形を持った『無形遊戯』が、ついに俺たちの前へ、その姿を現した。
前話にも書きましたが、長らく更新が滞り大変申し訳ありませんでした。
活動報告にも書きましたが、第1巻の発売後途端に多くのことが重なり、忙しない日々を送っておりました。とにかく不器用なのもあって、またもや、謝る回数が多くなっていたような気がします。
また、本当に遅くなりましたが、書籍版第1巻をご購入くださった方々、ありがとうございました。またWeb版の続きを待っていてくださった方々にも謝罪と共に、深くお礼申し上げます。
次回はもう少し早く更新できたら……と思います。
いっぱいいっぱいで申し訳ないのですが、今後ともよろしければ「聖樹の国の禁呪使い」を、どうかよろしくお願いいたします。




