幕間18「その花の名は」【ジークベルト・ギルエス】
ソニが立ち上がり、ヒビガミへと向き直る。
「ああ……つまりきみ、ぼくと遊びたいわけ? 剣を出したってことは、遊びたいんだよね?」
ソニの声に余裕が戻ってくる。
「急に出てきてびっくりしたし、決着を邪魔されたから怒ったけど……遊びたいなら、大歓迎だよ。ジークもあの亜人も、物足りなかったし」
ソニの意識は闖入者へと注がれている。
すでにジークへの興味は失ったようだ。
ジークは無事な右腕で剣を取ろうとした。
「加勢のつもりなら無粋と言わざるをえんぞ。今は己の出る幕じゃあない。興を削いででも死に急ぐなら、相手になってやるがな」
一瞥と共にジークへと放たれたヒビガミの言葉。
ジークは柄を握る手に込めかけた力を緩めた。
あの男に、出る幕ではない、と言われてしまえばおとなしくしている他あるまい。
と、建物の壁の下に置かれた樽の陰に倒れているヒルギスの姿が目に入る。
ソニを挑発してすぐ身を翻したのもあって、投げ捨てられた後のヒルギスがどうなったのかはわかっていなかった。
壁に頭でも打ちつけたのか、気を失っているらしい。
――そうか……気絶していたのか。
ジークは少し心配になった。
――死んでいる、わけではないよな?
だが、今すぐ駆け寄って無事を確認するというわけにもいかなさそうだった。
ヒルギスとジークの間には、ソニとヒビガミがいる。
対峙する二人の怪物から放たれる、無言の重圧。
この状況と空気を壊す行為を許さないと、息苦しいほどに告げている。
と、ヒビガミが人差し指の先で無精ひげの生えた顎を掻きながら、上部分を失った大時計塔を見上げた。
「大時計塔が崩落したのを見て、興味本位で足を運んだが……どうやら正解だったようだな」
ヒビガミが視線だけをソニへと滑らせる。
「早速、一人」
ソニが一歩、前進。
「ぼくにとって人の種類ってさ、三つしかないんだよね」
三つしかないとはどういうことだろうか、とジークは思った。
「家族、例外、玩具」
のしり、のしり、とヒビガミに迫るソニ。
「家族は兄ちゃんたち、例外は小さい子……それ以外が、玩具。つまり――」
攻撃の射程圏内にヒビガミが入った。
ヒビガミを見下ろす、ソニ。
無言でソニを見上げる、ヒビガミ。
「きみは、玩具だ」
「人を玩具と捉えるか。カカッ……見方によっては、わからんでもないがな」
「玩具は、ぼくに遊ばれるためにあるのさ」
ソニが喜悦に染まっているのが、背中からであっても手に取るように伝わってくる。
新しい玩具を見つけて喜んでいるのだ。
「だからさ、ぼくを楽しませてよね? 遊び殺して、あげるから」
ソニが空へ向かって腕を振り上げる。
「遊び殺す、か」
ヒビガミがくつくつと笑う。
「よかろう。存分に遊んでやろうじゃないか、四凶災。ただし――」
不敵に口の端を歪めながら、ヒビガミは赤い鎬を持つ刀の切っ先を、ソニの鼻先へ突きつけた。
「真剣に、遊べよ?」
ソニの肩が何度か上下する。
笑っているようだ。
「いいね、きみ。気に入ったよ。名前を聞いてあげよう。ぼくは、ソニ・アングレン」
「ヒビガミだ」
「ああ……さっきジークが言ってたのは、きみの名前だったのか。いきなり何を言い出したのかと思ってたんだ。そっか、ヒビガミっていうんだね」
腕を空へ向けたまま、ソニが拳を形作る。
「ゼメキス兄ちゃんが言ってた。高潔なやつ、調子に乗ってるやつ、自分が一番賢いと思っているやつ……自分が勝てると思っているやつを絶望させるのが、最高に楽しいんだって。なんとなくだけど、今ならわかる気がするな。きみが負けた時、どんな顔をするのか――見てみたい」
ニヤリと笑うヒビガミの口の端から、歯が覗く。
「おれもだ」
「は?」
「一度でいいから見てみたいものだ。自分が負けた時の、顔というものを」
「何、それ?」
「カカッ、気にするな。単なる――」
そこで先に動きを見せたのは、
「痴れ言よ」
ヒビガミだった。
刀を後ろへ引きながら、一歩、ヒビガミが前に踏み込む。
瞬間、
ソニの拳の連撃が彼へと襲いかかった。
暴風雨のごとく降り注ぐソニの連打。
そしてヒビガミは、その攻撃を避けることができなかった。
ソニの戦闘における感性にジークは改めて驚嘆を覚える。
初動の踏み込みに実に上手く合わせ、ヒビガミの初撃を完璧に潰した。
意識が攻撃へ移行しようとしたまさにその一瞬こそ、回避への意識が最も薄れる瞬間であろう。
とはいえそれも、相手の攻撃に合わせるだけの反射神経、動体視力、瞬発力を、すべて兼ね備えてこそ。
やはり四凶災。
戦闘の才は抜群。
しかも剣を使っていた時とは桁違いの速度。
加え、その長い腕から繰り出される変則的な軌道。
あのヒビガミですら避けきれない、速度と軌道。
が、
「――っ! お、おまえ……っ!」
なぜか攻撃を加えたソニの方が、右手の甲をおさえ狼狽していた。
ソニは慌てた様子でヒビガミから距離を取る。
――なんだ?
ジークは眉根を寄せた。
カッ、とヒビガミが短く笑った。
「……上等だ」
ソニの腕が下がった。
と、彼の手の甲がジークの目に映る。
あっ、とジークは声を上げた。
ソニの右手の甲が、真っ赤に腫れ上がっていたのだ。
まさか、とジークは思った。
あの時、ヒビガミの右手に握られた刀は後方へ引かれていた。
だとすれば――つまりヒビガミは、あの変則的で素早いソニの連撃を左手一つで捌いたどころか、ソニの右拳に負傷まで与えていたということなのか。
――化物、か。
剣対剣というソニにとって不慣れな状況に追い込んでさえ、自分では防戦一方だった。
――強さの次元があまりにも、違いすぎる。
冷たい汗がジークの頬を伝い落ちた。
「言動には幼稚さが残っちゃあいるが、極論、人格や徳などというものは圧倒的な力の前においては霞ませても構わん代物。称賛すべきは、その戦闘個体としての完成度だ。闘争の中で自然と培われたものだろうが……よくぞそこまで磨き上げた」
ヒビガミが左手を掲げてみせる。
「見ろ、おれの手にも痺れが残っている。誇っていいぞ。己は、四凶災であることを誇っていい」
「玩具は黙って――」
ソニが再び、ヒビガミに迫る。
「遊ばれてればいいんだよ!」
ヒビガミが、動いた。
すると再びソニがヒビガミの初動に攻撃を合わせてくる。
一見すると怒りで理性を欠いているようであっても、こと戦闘においては、呼吸するように最善手を打ってくる。
これが、四凶災なのだ。
が、ヒビガミはソニの乱打を危なげなくかいくぐった。
ソニは蹴りも混ぜてくるが、当たらない。
ヒビガミの一閃。
薄桃色の刃が咄嗟に防御姿勢をとったソニの腕を斬り裂く。
ソニの服の布地が裂け、切り傷が露わになる。
が、
「……あれ? なんだ、この程度の切れ味なの?」
腕の傷を検めたソニが拍子抜けした顔になる。
「きみさぁ……ひょっとして、殴った方が強いんじゃないのかな?」
「ふむ、上質な施晶剣程度の切れ味はあるはずだが……なるほど、まずその皮膚自体が、馬鹿げた硬さというわけか」
言い終えると、そのままヒビガミは刀を続けざまに高速で振るった。
次々とソニの服の生地が裂け、そこかしこに裂傷ができる。
「あれぇ?」
そこで余裕を取り戻した様子のソニが、にやぁ、と笑った。
「あんまし、痛くないなぁ?」
切り傷からそこそこの出血こそあるものの、ソニの戦闘力を削ぐには至っていない。
今ほど、馬鹿げた硬さの皮膚、とヒビガミは評した。
――ヒビガミの持つ刀でも、あの程度の傷しか負わせることしかできないのか。
だが一方のヒビガミは、臆した様子はない。
彼はじっと手元の刀を観察していた。
「さすがにこの時点で『魔喰らい』を越える、とはいかんようだな」
「おい、おまえ」
「ん?」
「……なんでだよ?」
「何がだ?」
「だって、効いてないんだぞ? おまえの攻撃、ぼくに効いてないんだぞ?」
カカッ、とヒビガミが嗤う。
「かもしれんなぁ?」
余裕綽々の笑みを浮かべ、顎髭を撫でるヒビガミ。
「なんなんだよ……本当に、なんなんだよ? おまえの攻撃じゃ勝てないんだぞ? おまえ、ぼくに勝てないんだぞ!?」
ソニの声が困惑を帯びていた。
対するヒビガミは、にやついた表情を崩さないまま微かに面を伏せる。
「惜しい」
「……な、なんだって?」
「実に、惜しい」
と――ヒビガミが手に持っていた刀を空へと、放り投げた。
刀が回転しながら、空高く舞い上がる。
「剣を、捨てた……? おまえ……ぼくのことを、馬鹿にしてるのか? そうなんだな? 馬鹿にしてるんだな?」
ソニの手が震えている。
怯えではない。
声の調子から察するに、あれは怒りに起因した震えであろう。
「玩具の分際で、ぼくを馬鹿にするなんて……つまんないぞ。おまえ、ジークよりもつまんないぞ! なんかよくわかんないけどすごく、腹が立つ! だから――」
溢れんばかりの殺意が、ソニの声に満ち満ちていく。
「八つ裂きだ! おまえ、八つ裂きだ! もういらない! 無茶苦茶に、壊してやる!」
ソニが矢のごとく突進。
ヒビガミに襲いかかる。
――速い。
ジークの目でもギリギリ捉えられるほどの速度。
刀を持たぬヒビガミからはもう一本の刀を抜く気配すらなく、どころか回避の予備動作すら窺えない。
そしてソニの腕が、ヒビガミに迫り――
「ぎゃ……っ!?」
ソニが背中から地面に、叩きつけられた。
石畳が粉砕し舞い上がり、その周囲には亀裂が走る。
「ぐっ……え? な、なんだ? 何、が……?」
――今の技は、なんだ?
何が起きたのか理解できていない様子のソニと同じく、ジークも何が起きたのかわからなかった。
見たこともない動き。
最初、ヒビガミが伸びてきたソニの手首を掴んだ。
そこまではジークも、しっかり捉えていた。
問題はそこからである。
ヒビガミが手首を掴んだ次の瞬間、ソニの身体がそのまま回転、そしてヒビガミが素早く腕を何度か動かしたかと思えば、気づくと、なぜかソニが地面に叩きつけられていた。
その一連の不可思議な動作は、ほんの一呼吸の間に行われた。
一方、地面に叩きつけられたソニはすぐには起き上がれない様子で――
「かっ、は……っ!」
吐血するソニ。
確かな苦痛が、与えられたのだ。
「先ほど、おれは人格なんてもなぁ霞ませても構わねぇと言ったが……あれは『極めた者を論じる際の話』でな」
ぱしっ、と。
ヒビガミが、空から回転しながら降ってきた刀の柄を掴んだ。
そして彼は刀を逆手に持ち替えると、躊躇なく、ソニのわき腹に突き刺した。
「ぐぎゃぁぁ! がっ! な、なんだぁ!? その、切れ味!? さっきの刀と、違う刀なのか!?」
「ようやく血が、馴染んだようだな」
「血が、馴染んだ?」
「この妖刀は切った者の血を吸えば吸うほど切れ味が増すという、変わった刀でな……名を、『狂い桜』」
反撃のために動かそうとしたソニの右腕を、ヒビガミが踏みつけた。
「ぎゃっ!」
「人の血に狂った――まさに、あやかしがごとき刀よ」
「ぐ、ぐぅぅ……お、おまえ……ぐっ、ぎゃぁぁああああ!」
ヒビガミが刀でグリグリと、ソニのわき腹を抉る。
「己に足りんものが何かわかるか、四凶災?」
「ぎゃぁぁああああぁぁぁぁああああああああ!」
「己に足りていないもの……それは――」
ドスの利いた低い声で、ヒビガミが言った。
「想像力」
「な、何が想像力だ……っ! い、痛い! 痛いよぉ! やめろぉ! 死ぬ! 死んじゃうよ! ぼくが死ぬなんて、そんなのつまんないよ!」
「それだよ、四凶災」
「何が、だ……! ぐあぁ!」
ヒルギスとジークへ一度、ヒビガミが順番に視線を飛ばす。
そして再びソニを見下ろし、口を開く。
「やつらの様子やツラを見りゃあ容易にわかる。やつらは死を覚悟して――つまり己が死ぬことを想像しながら、戦っていたんだろう」
ヒビガミが親指でジークを示す。
「あっちの男だがな……初めておれに戦いを挑んだ時、あの男には命を捨てる覚悟があった。ゆえに、生きるに値すると判断した。命を賭すことができる者は、言い換えれば限界を見ることができる者ということだ。その先にこそ、可能性は潜んでいる」
「お、おまえは……何をわけのわかんないことを言ってるんだ……」
「気づいているか、四凶災? 己は、己が勝てる勝負しか望んじゃいねぇ節がある。つまり玩具が己を傷つける『事故』を望んじゃいねぇわけだ。諸悪の根源は、そいつだな。想像力の欠如ってやつは、いつも人間をつまらん檻の中に閉じ込めちまう。そして命を賭せねぇ己にゃあ、可能性へと続く壁には、永遠に辿りつけねぇ」
ヒビガミがソニの腹から刀を抜いた。
「とどのつまり、伸び代は――そこで終わる」
そして容赦なくソニの左腕を、切り落とした。
「ぎゃぁぁああああぁぁぁぁああああああああ!」
「必ず勝てるとわかっている勝負ってなぁつまらんもんだぞ、四凶災よ。やはり己に迫る……いや、己を打ち倒す力を持った『宿敵』とやり合った上で勝ってこそ、ようやく人生ってのは、楽しみを見い出せるものだと思うがな」
わき腹に再び刀を差し入れられソニが悲鳴を上げる中、ヒビガミは独りごちるように続ける。
「カカッ……いや、実はそれも少し違うのかもしれん。存外、おれは全力を出したおれが負けた時の風景ってやつを見てみてぇのかもしれねぇな。ただ、まあ――」
ヒビガミが学園の方角を見た。
「意外と近いうちにその望みが実現するんじゃないかと、期待してはいるんだが」
「こんなことして……ぼくに、こんなことしてぇ! おまえ、殺されるぞ!」
「ん?」
「兄ちゃんたちに、殺されるぞ!」
「ほぅ? やはり他の四凶災の方が、己よりも強いか?」
「そうだ! 兄ちゃんたちは、おまえなんかよりもずっと強いんだぞ!」
「未来永劫、自分がその兄たちに勝てるとは夢にも思ってねぇって言い方だな。カカカッ……それじゃあ駄目だぜ、ソニ・アングレンよ」
「はぁ? そ、そんなことより離れろ! 離れろよ! この勝負はもうなし! なしだ!」
ソニが逃れようと足をばたつかせる。
ヒビガミが、ソニの首筋に刀の先端を突きつけた。
ソニの動きがとまる。
「命を賭す覚悟と、兄たちを越えようとする意志……その二つの欠如が、己の伸び代を奪ったな。ふん――」
ヒビガミが刀の切っ先をソニの首から離した。
「ここまでだ、四凶災」
「な、にぃ?」
「その力には敬意を表するが……己は、つまらん」
「……ぼくが、つまらない、だって?」
「素質はあるが、戦士としても玩具としても……三流の域」
「ぼくが、玩具……玩、具……」
ソニの声が、屈辱に染まっていた。
ヒビガミは興味を失ったように、踵を返した。
「他の四凶災に期待することとしようか。それに何より、この王都には――」
ヒビガミは中空で、目にも止まらぬ速度で何度か刀を振るうと、静かに刀を鞘におさめた。
「命を賭すことを恐れない上、このおれに本気で勝とうとしている面白い男がいてな……そいつに比べりゃあ、己は雑魚にすぎん。主に、精神性において」
ゆらり、と。
ソニが、立ち上がった。
ジークは、ぞくり、とした。
空気が違っている。
先までのソニと、その空気がまるで違っている。
何が違うのかはわからない。
だが、何かが決定的に違っている。
死線、とジークは思った。
先のヒビガミとの会話に則すならばの話だが――ソニは初めて、自らの死線に触れたのかもしれない。
そしてついに、覚醒を遂げた。
わき腹を抉られ、左腕を失いながらも――否、わき腹を抉られ、左手を失ったからこそ、彼は覚醒に至ったのやもしれぬ。
彼の表情からある種の幼稚さが消え去っている。
ソニの纏う静けさからは、胃が縮まるような不気味さすら漂ってくる。
「……殺す」
肝が冷えるような、昏い殺意の篭った声。
「おまえを、殺す――」
ヒビガミの背後から、ソニが襲いかかった。
腕組みをするヒビガミは歩みを止めないどころか、背後を振り向くことすらしない。
危ない――そうジークが、叫ぼうとした時だった。
嗤いとも不快ともつかない具合に、ヒビガミが口の端を歪めた。
「ようやく目が覚めたか。だが――」
ソニが手刀を水平にしヒビガミの首に狙いを定める。
さながら刃のごとく研ぎ澄まされた、首を斬り落とすための手刀。
微塵も『遊び』のない、ただ、殺すためだけの手刀。
そして――
ソニの全身から勢いよく鮮血が、噴き出した。
まるで花が咲き開いたかのように、ソニの血が周囲へ噴き上がる。
ソニが目を剥く。
「え……? な、に……え……?」
まるで糸でも切れたかのように、ソニが前のめりに倒れ込む。
ソニは最後にヒビガミへ右手を伸ばしていたが……彼の右手が『敵』を掴むことは、なかった。
その光景を目にしながら、ジークはとある東国の伝説的な逸話を思い出していた。
達人と呼ばれる剣の使い手の中でも、さらにその道を究めし者の刃によって傷つけられた皮膚は、斬りつけるその速度があまりに速いため、切った時間と傷が開く時間に差ができると。
今、自分が目にしたものはまさにそれだったのだろうか。
ジークは唾をのみ込んだ。
――クロヒコは勝てるのか、あんな男に。
四凶災すらも寄せつけぬ、圧倒的な強さ。
「遅い」
降り注ぐ血の雨を全身に浴びながら、ヒビガミが口を開いた。
と、亀裂めいた血の筋を顔面に走らせるヒビガミの表情が、まるで東国の民話に登場する鬼を連想させるような形相へと、変貌した。
「――遅すぎる」
それから一息つくと、ヒビガミは、ふん、と鼻を鳴らして表情を元に戻した。
そして、こきっ、とヒビガミが首の骨を鳴らした。
「残りの四凶災にも期待したいところだが……末席とはいえ、この程度ではな。やはり、己に期待せざるをえんか。なぁ?」
歯を覗かせて嗤うヒビガミの濁った瞳が、学園の方角へと向けられた。
「サガラ・クロヒコよ」




