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9話 その守る者は……






―――――――――――――――





なんだか今日は慌ただしかった。


厩には馬が居なくなり、馬の世話役たる日陰は暇をもて余していた。


それもその筈、都の外では反董卓連合が組まれ、今まさに泗水関と虎牢関にて戦いが始まろうとしていたのだった。


その為、暇なのだ。


「寝ようかな………」


まぁこんなことでは動じない日陰。


というか日陰が動じることがあるのだろうか?一度見て見たい気がするのだが………。


そして日陰は近くの木陰へ行き、寝息を立て始めた。








「――――月、早く………」


「――――待って、まだあれが………」


どのくらい寝たのだろうか。周りが少し騒がしくなり、日陰の意識は徐々に浮上し始める。







「あれ?月さんたち、こんにちは」


目が覚めてしまった日陰が歩いていると、なにやら慌てた様子の董卓たちに出会った。


「日陰さん?」


「なんでアンタがッ!?…………ってアンタは武官じゃなかったわね」


「お急ぎのようですが、何かあったのですか?」


日陰が後ろから声をかけると驚いた様子だったが、相手が日陰だと分かると安心したように胸を撫で下ろす二人。


「アンタ、今外で何が起こってるか知らないの?」


「外、ですか?」


「知らないのね………」


カクンと首を傾げた日陰にため息混じりに賈駆が説明する。


「………分かった?それでボクたちは霞たちが時間を稼いでる間に逃げるのよ。月を絶対に連合軍なんかに渡してなるものですか」


「詠ちゃん……」


「そうね。アンタも来なさい。今は一人でも護衛が欲しいのよ」


「…………」


日陰は首を傾げたまま黙っていた。


………考えているのだ。自分が何をすべきなのかを……。


「―――それは無理ですね」


そして結論に至った。


『――えっ?』


二人もこの答えは予想していなかったらしく一時的に固まる。


「な、何でよッ!?」


「日陰さん………」


賈駆は噛みつかんばかりに、董卓は見るからに落胆したように、二人は日陰を見る。


「僕は別に月さんに仕えているのではないですから……」


そうあっけらかんと言う日陰。


「僕は仕えたわけでなく“雇われた”のですよ。そして雇われた理由は馬の世話役です。少し手伝うのであれは構いはしませんが、それ以外で僕を働かせるのは契約違反です」


「……なっ、アンタ恩を仇で返す気!?」


「いえ、別に違いますよ。恩は返しましたし、仇するつもりもありませんから」


それでは、と日陰はクルリと来た方向へ戻っていく。











「あんな奴だとは思わなかったわ!」


賈駆は苛立たしげに地面を踏む。


「でもこれで良かったんだよ、詠ちゃん」


そんな賈駆におっとりとした様子で董卓は言う。


「日陰さんは戦いが好きじゃないから、むしろ嫌いな人だから。これ以上私たちの問題に付き合わせちゃったら可哀想だよ」


「………月がそう言うなら、いいけど。さぁ、逃げよ、月」


「うん」


二人は手を取り合い駆け出した。










反董卓連合は破竹の勢いで洛陽へ迫っていた。


泗水関では華雄が敗走、張遼は虎牢関へ下がるも虎牢関にて曹操の捕虜となる。呂布は陳宮と共に火矢を放ち、その隙に逃走した。


残すは洛陽のみとなり、連合軍は今まさに洛陽の門前まで迫っていた。


しかし連合軍は門前に迫りはしたものの一向に宮中へ入ろうとはしない。


いや、正確に言うなら“出来ない”のだ。






「なんですの、あれは?」


連合軍の総大将、袁紹は部下の二人に問う。


「え?なに、と言われても……ねぇ、文ちゃん」


「まぁ、人が一人と後は沢山の木っ端ですかね」


顔良、文醜が答える。


そう門前には常闇の如く黒衣を纏った一人の男が数多の卒塔婆を地面に突き刺し、立っていたのだ。


その異様な光景に連合軍は行軍を止めていたのだった。


いや、“止められていた”、だ。


勿論、連合は門前に立つ男を無視し洛陽へ入ろうとした。だがそれは男によって阻止された。


殺気も何もなく、男は前線の兵士を蹂躙した。


しかし死者は出てはいなかった。全ての兵が手や足を折られる、若しくは関節を外されて戦場への復帰は見込めない状態にされたのだ。


そして男は追撃もせず、ただ門前に留まり続けていた。


あの卒塔婆の山を越えなければ、攻撃はされない。


しかし、弓や騎兵では卒塔婆が邪魔をして使い物とならない。


それはまるで門を守る仁王像のように。


まるで都を護る聖獣のように。


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