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6話 徐福と華雄






―――――――――――――――





「徐福!?私と勝負しろ!」


仕事を終えて、日向で休憩している日陰に華雄が叫びながら現れた。


「おや、こんにちわ、華雄さん」


「あぁ、こんにちわ。…………って違う!?勝負しろと言っているのだ、私はッ!」


「菖蒲ですか?綺麗ですよね、薄紫色で。漢方にも用いられるとか……」


「うむ、確かにいいな。だが私はもっと派手な方が………って違う!?その菖蒲ではない!試合の勝負だ」


何だかんだと乗ってくれる華雄だった。


「とは言え僕は今、忙しいのですよ」


「ふふん、そんなもので私は誤魔化されないぞ。お前、今、ぼーっとしていたではないか。暇な証拠だろ」


これには乗ってはくれないらしい。


「いや、これはただ、ぼーっとしているわけではないのですよ」


「違うのか?」


「はい。これは大気の気を身に受けて体内の気を高めているのですよ」


「徐福は気が使えるのか?」


「使えはしないですけど、日常を生きてく上で無意識に使ってはいるんですよ、どんな人間でも。それを大気の気を使って整えなくてはいつから身体に無理が来てしまいますからね」


だからこうして、と日陰は目を瞑る。


「………Zzzz」


「ただの昼寝ではないかッ!?」


今日も平和な日であった。








そして別の日。


「徐福は今日こそ勝負しろ!?」


「なんや華雄まだやっとったんかいな」


日陰と張遼が昼食を食べているところに華雄乱入。


「なんだ張遼、何故お前がここにいるのだ?」


「いや、その言葉そっくりそのままアンタに返したるわ」


はぁ~、とため息を吐いて日陰を見る張遼。


「日陰、アンタも災難やな。こんなんに付きまとわれて」


「なッ!?張遼、何故お前が徐福の真名を呼んでいるのだ!?」


「何でって、教えてもらったからに決まっとるやないか。なぁ、日陰?」


「えぇ、まぁ」


二人が喋ってる間も黙々と食事をしていた日陰が話を振られ、一瞬だけ箸を止めて答えたが答え終わると再び食事に専念し始めた。


「ウチも真名教えたら、教えてくれたんよ。日陰は馬の世話よぅやってくれとるからな」


「ぐぬぬぬ………」


何故か華雄の反応にニヤリとした張遼が華雄をからかい始める。


「なんやったら華雄も真名教えたらええやんか」


「ッ!?お、男に真名を教えるなぞ、出来るか!?」


顔を真っ赤にして憤慨する華雄。


意外にというか、王道というか、乙女な人でした、華雄さん。


「別に構いませんよ」


とそこで再び日陰が会話に加わる。


「何が構わんのや、日陰?」


「真名ですよ。僕の真名、華雄さんが呼んでも構いませんよ」


「なッ!?だ、だが私の真名は………」


「それですよ」


と箸で華雄を指す日陰。


お行儀が悪いが構わないでほしいところだ。


「別に相手の真名を聞かなくては真名を教えてはいけないなんて決まってませんよね?」


お茶をすすりながらそう言う日陰。


「ですから華雄さんは真名を教えなくても僕の真名を呼んでもいいのです……よね?」


「いや、それを私に聞かれても困るのだが……」


カクンと首を傾げた日陰に華雄が言う。


「まぁ、というわけで僕の真名は日陰です、華雄さん」


「あ、あぁ……」


「それでは霞さん、ご馳走様でした」


今日は張遼が奢ってくれると言うので日陰は付いてきたのだった。


「もう、ええのか?遠慮せんでもええよ。いつも馬の世話をしてもらってるお礼やからな」


気っ風のいい張遼だった。


「いえ、“十分”食べましたから……。それでは僕はこれで」


張遼と華雄に一礼して、店を出ていく日陰。


「なんや変わった男やな、日陰は」


「あぁ………」


「何なん、華雄。もしかして日陰にホの字かいな?」


「なッ!ななな、何を言ってるのだ、貴様は!?」


「にゃはは」


からかう張遼に慌てふためく華雄。


「まぁ、ええわ。それは後でじっくり聞くとして。おじちゃん、勘定してや」


「へい」


とりあえず店を出ることにした二人。


「へい。張遼将軍、代金はこちらになりやす」


「あんがとさん。……………なぁ、おじちゃん、これ桁一つ多いんとちゃうか?」


伝票を見た張遼からさっきまでの笑みが消えてなくなる。


「いえ、お連れの方の分を含めますとこれぐらいにはなります」


と店主が床を見る。張遼もつられて床を見ると、そこにはおびただしい数の皿が綺麗に並べられていた。


日陰は食べ終わった皿を次々に床に置いて、注文していた。


それは食べた量を隠すためでなく、純粋に次の皿を机に乗せるための動作だったのだが、それで張遼は勘違いしていたのだった。


日陰が本来、食べた量が自分の認識の五倍もの量であることを…………。


「あ、あはは。おじちゃん…………ツケ効く?」


渇いた笑いを浮かべる張遼であった。









月の綺麗な夜。日陰は徳利を片手に城壁の上で優雅に月見酒と洒落込んでいた。


「ん?日陰か、何をしているのだ?」


そこへ夜間の警備をしていた華雄がやって来た。


「少し一人酒を………」


「ふん。淋しい奴め」


と日陰の横に座りながら華雄は言う。


「お仕事はいいのですか?」


「このような良い月夜に働く無粋な賊も居るまい」


「………そうですね」


杯にお酒を酌みながら肯定する。


「生憎と代わりの杯がないので、これでよろしいですか?」


「仕事中の者に酒を勧める者が居るか」


「このような良い月夜にお酒を飲まない華雄さんなど居るまい」


華雄の口調を真似して日陰は言う。


いつもの無表情ではあるが、心なしか顔が赤いのは酔っているからか、それとも慣れない冗談に照れているのか。


「くくくっ。違いないな、では一献付き合わせてもらおうか」


杯を受けとり、酒を流し込む華雄。


間接キッスであるのだが、それには全く気づいていない二人。いや、日陰はもしかしたら気づいていたのかもしれない。


「なぁ、日陰。お前は何の為に戦うのだ?」


唐突にそんなことを呟く華雄。


本来聞くつもりのなかった事がつい口から溢れてしまったかのように……。


「呂布から聞いたのだ。お前、呂布と戦ったそうじゃないか。それも見ず知らずの他人の為に………命を賭して」


「…………」


華雄が日陰を見つめるが、日陰はいつもの無表情では月を見ていた。


その奈落の底のような瞳には空の月が写りだしていた。


「………ただ」


そして数刻の沈黙の後、日陰がゆっくりとした口調で話し始める。


「ただ人が目の前で死に逝くのが嫌だったから………」


それはまるで駄々を捏ねる子供のように純粋な我が儘だった。


「………ほぅ。随分と子供染みた考えだな」


「えぇ、自分でもそう思います」


「たが私は嫌いではないぞ、その考え」


そして交互に酒を飲み交わす。


そして夜はけていく。










「日陰、今日こそ勝負してもらうぞ!」


そして今日も華雄からの誘いをのらりくらりとかわす日陰であった。


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