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最終話 不殺の死






―――――――――――――――






日陰が倒れてから、三国は同盟を正式に結んだ。


三国の王がそれぞれの国を治め、互いが監視し合い、そして互いを切磋琢磨し合うという形で乱世の終止符としたのだった。


そして、各国が終戦処理に追われている頃。









「それで、華陀。日陰の様子はどうなのかしら?」


日陰はあの後、華陀に治療されていた。


「あぁ。治療は無事に終わったよ」


「そう。それは良かったわ」


「まぁ、かなり無理をしていたようだから、2、3日は昏睡状態だろう」


「分かったわ、皆にはそう伝えておくわ。それと一つ聞きたいことがあるのだけれど……」


「徐福の髪のことか?」


日陰が城に運ばれてきて、体を綺麗にした際、まるで汚れが落ちるように髪の色が落ち、美しい銀髪が現れたのだった。


それを担当していた侍女がそれを見て、卒倒したのはご愛敬だろうか……。


「あれはおそらく元々がそうだったのだと思う。何らかの精神的衝撃によって白髪となる事例は聞いたことがある。多分、それと似たような症状なのだと思うが………」


「それは精神的衝撃が取り除かれ、元の髪色に戻ったと?」


「いや、それについてなんだが…………」










日陰の自室。


そこでは日陰が寝ていた。


その寝顔はとても安らかであった。


その横には様々なお見舞いの品が並んでいた。


魏の将が代わりがわりに日陰の様子を見にきていたのだった。


そして今日は…………。


「………日陰」


荀イクが椅子に座り、隣で寝る日陰を見ていた。


「全く、いつまで寝てるのよ………」


そう言って日陰のおでこを小突く荀イク。。


そして日陰の髪を撫でる。


黒い時と変わらなく、さらさらとしていた。


「…………」


荀イクは日陰の顔を覗きこむ。


すやすやと眠るその顔にまるで吸い寄せられるように近づく荀イク。


吐息のかかる距離。


荀イクの目は自然と日陰の唇へ向かう。


「………」


ドキドキと胸が鳴る荀イク。


そして二人の距離は薄皮一枚。







「―――桂花、ここかしら?」






そこに曹操がやって来た。


「…………」


「あら。お邪魔だったかしら?」


そしてニヤリと笑う曹操。


「な、ななな!?ち、違うんです、華琳様!!」


バッと離れ、言い訳をする荀イクの顔は真っ赤であった。


「ふふふ。可愛いわね、桂花」


そうこう二人がしていると………。


「う、うぅん………」


日陰が身動みじろぐのだった。


「日陰!?」


「………」


それを見て、荀イクは日陰に詰め寄るが、曹操は何故か苦い顔をしていた。


「日陰、日陰!?」


それに気づかず荀イクは日陰の肩を揺らす。


「……うぅん。……あ、れ?ここは?」


そして日陰が目を覚ます。


「日陰………。ま、全くいつまで寝てるのよ。仕事が溜まってるわよ」


「はぁ……」


寝起きのためか、いや、いつもこんな感じか………。


「……日陰?」


そこで日陰の様子に違和感を覚える荀イク。


「………あの―――」


そして、次の日陰の一言は………。


「―――貴女たちは誰ですか?」










「やっぱり、こうなったわね」


あれから日陰が再び眠り、二人は日陰の部屋を後にした。


「華琳様、やっぱりとは………?」


曹操はまるでこのことを知っていたかのような口調だった。


そう。日陰は記憶喪失となったのだ。髪が戻ったのは取り除かれたのではなく、失われたのだった。


「華陀の診断よ。日陰を応診した際に気になる気を見つけたと言っていたわ」


それが先ほど華陀が曹操に言おうとしていたことだ。


「華陀の見立てでは脳に陰りが見えたと言っていたわ。それを華陀は過去の事例からとある毒草によるものだと分かったわ」


「毒草?」


「そうよ。毒草自体の毒性はそれほど強くないらしいわ。でもそれの厄介なのは徐々に体を侵していくらしいわ」


「でもいつ毒なんて……」


「それがその毒草は解毒剤としても使われるらしいの……」


「解毒剤として………ッ!?」


そこで荀イクは気づいた。


それは孫策との接吻事件の際に聞いたことだ。日陰が孫策の毒を解毒するために口移しで薬を投与したのだと言う。


「その時に………」


荀イクは自分の不甲斐なさを呪う。


何故、日陰の異変に気づかなかったのか?徐々に侵されていくとはいえその予兆はあったはずなのだ。それに何故気づけなかったのか。


それは日陰の努力であった。我が君に心配をかけまいと、正に不惜身命で荀イクに尽くしてきた日陰の努力であった。


「病魔が脳に近いため、華陀でも治すことはできないそうよ」


「……そうですか」


「まぁ、日陰のことよ。その内ケロッとした顔で思い出すかもしれないわよ」


「はい」









その後、日陰が起きたことで魏の将たちは歓喜に満ちたが、日陰の記憶が失われたという事実でその歓喜は半減させられた。


だが、それだけで気落ちするほど魏の将は弱くはない。


将たちは積極的に日陰と会い、自分たちとの思い出を語り、記憶が戻るように努めた。


しかし、日陰の記憶が戻ることは未だ叶わなかった。


だが、その副産物として日陰は様々な知識を覚え直し、そして感情を育んでいった。


それは前と同じくらいに、違うのは魏で過ごした記憶がないことだった。







「日陰~♪遊びに来たわよ~♪」


と孫策がやって来た。


孫策は家督を孫権に譲り、隠居の身で日々を謳歌していた。または遊び歩いていた。


「あ。えぇと……孫策さんでしたよね?」


もう一つ日陰に変化があるとすれば、人の名を覚えるようになったことだろう。


「もう孫策なんて他人行儀なんて呼び方なんてイヤよ。雪蓮でいいって言ってるじゃない」


日陰へしだれかかる孫策。


「そういえば一刀がしょっく療法とかいうのがいいって言ってたのよね~」


孫策は自分の唇に指を当てる。


「試してみる?」


と日陰の顔へと近づく。


――――バンッ。


「何をしているの?」


そこには般若の形相の荀イク(のび~るアーム装備)が立っていた。


「あ、あははは…………見つかっちゃった♪」


荀イクの姿を見て冷や汗を流す孫策。


―――ガシャン。


そして無言で孫策に近づく荀イク。


「あ、そうだ。私、冥琳に用があるんだったわ。それじゃ、後は若い二人に任せて、じゃあね~」


そう言うと孫策はいそいそと部屋から出ていった。


「………全く」


荀イクはため息を吐き、日陰の隣の椅子に座る。


「………“荀イクさん”、それは?」


日陰は荀イクの持つのび~るアームを指差す。


「……。これはアンタが昔使ってたものを私が貰ったものよ。こうして遠くの物を取るときに使うのよ」


と荀イクは実演しながら説明する。


「………」


「何か思い出すかしら?」


のび~るアームを見つめる日陰に荀イクは聞く。


「いえ。すみません、何も……」


「………そう」


二人の間に沈黙が走る。


「すみません。何も思い出せなくて……」


その沈黙に耐えきれなかったのか日陰から沈黙を破る。


「………」


それを無言で見る荀イク。


「―――頭」


そうぽつりと呟く荀イク。


「え?」


「頭、貸しなさい」


「え………あ、はい」


と訳も分からず頭を荀イクの前に出す日陰。


そして荀イクは………。


――――ポスッ。


自分の胸へ抱き寄せ、撫でるのであった。


「別に構わないわよ。無理に思い出さなくても」


「はい……」


まるで親子のように、まるで恋人のように二人や寄り添い、支え合う。


「例え記憶がなくても日陰は日陰なのだから」


「はい……」


「だから今はゆっくり休みなさい」


――――チュッ。


日陰の頭に軽く唇を押し当てる荀イク。


「はい……“承りました”」









こうして不殺たる徐福は死に、新たに日陰としての本当の人生を歩み始めたのだった。



はい、というわけで第二弾『不殺』でした。


いかがでしたでしょうか?目目連としては柳々さんを削るのは心苦しくありましたが致し方ありません。

↑分からない方は華麗にスルーで


基本的にはこれで過去作の再構築は終了です。

要望があれば『嘘つき』も再構築したいと思うのですけど……けっこう難しいです。


ではでは、またご縁がありましたら、よろしくお願いします。

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