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49話 出した手は引っ込められない









―――――――――――――――







「………お世話になりました」


建業の門の前で日陰は一礼する。


「もう少し居てくれてもいいのよ?」


「いえ、僕は我が君と約束してますから……」


孫策にそう言う日陰。


「それでは……」


そして日陰は魏へと、我が君の下へと帰るのであった。









―――バンッ。


「華琳様、日陰が帰ってきたって………」


荀イクは扉を開けて、玉座の間に駆け込むように入る。


「桂花、騒がしいわよ」


とそこには顔がにやけている曹操と………。


「あ、桂花様………」


いつもと何も変わらない日陰がいた。


「―――ッ!?し、失礼しました」


日陰がいることを知らなかった荀イクは勢いにつまずきながら止まる。


「ふぅ。日陰、ご苦労だったわね。変わりはないかしら?」


荀イクが落ち着いたのを見て、曹操が日陰へ労いの言葉をかける。


「はい。あちらではよくしてもらいましたから」


「ふふ。それはここより居心地が良いものだったのかしら?」


答えを知りながらもそう問いかける曹操。


おそらく、後ろでビクンと肩を揺らした“猫”の反応が楽しいのだろう。


「………いいえ。あそこには僕が仕えるべき君が居ませんから」


と日陰は敢然と言う。


「そう。………今日は休みなさい」


「はい」


「桂花、後は頼んだわよ」


「ぎょ、御意」


二人は玉座の間から退室する。








『………』


二人は無言で廊下を歩く。


荀イクが前を歩き、日陰がその後ろを歩く。


「あ、あの……桂花様?怒ってらっしゃいます?」


先程から口を開かない荀イクを日陰はそう捉えていた。


「……別に怒ってないわよ」


そうは言うものの荀イクの口調は苛ついているそれだった。


「別に帰ってくるなら手紙の一つでも送りなさいとか、先ずは私のところへ来るべきじゃないのとか、なんか呉では楽しそうだったわねとか………思ってないわよ」


「…………」


我が君はこんな人だったか?と思う日陰。


どうやら日陰成分が足りないとイライラするらしい。新たな発見だ。


「すみません。一応捕虜という立場上、手紙は送りにくかったもので………。確かに主である桂花様へ先にご挨拶に行くべきでしたが、一応華琳さんにお仕えしている桂花様の立場もありますので………。それに確かに呉では捕虜という立場でありながらもそれなりに丁寧な扱いは受けていましたが僕はこちらの方が………」


日陰にしてはえらく長文を喋る。それだけ必死であるのだ。


そして荀イクもそれぐらいは分かっている。


「………まだ聞いてないわよ」


「……?」


一瞬何を?と思った日陰であったが……。


「………ただいま帰りました、桂花様」


「………お帰りなさい」


ただこのやり取りをするだけだというのに長くかかるものだ。


「そういえば………や、約束、覚えてるのかしら?」


「……あ。はい」


と日陰が頭を出そうとした、その時………。


「おっ。居った居った」


張遼が丁度やって来たのだ。


「日陰、帰ってきたんやてな。……何しとるんや?」


「………なんでもないわよ」


「ならなんで睨むねんな、桂花」


「知らないわよッ!?」


「おかしなやっちゃ。日陰、久しぶりに飲まへんか?日陰の帰還祝いっちゅうことで」


「別に構いませんが………」


と荀イクの方を見る日陰。


「別にいいわよ。行ってきなさい」


「よっしゃ。桂花の許可も出たんやし、早速行くで」


日陰の腕を掴み、引っ張っていく張遼。


「………」


それを見送る荀イク。


ただ前に出しかけた手が虚しげに空を切るのであった。





ちなみにこの後、張遼の仕事量が…………。


まぁ、余談である。



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