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43話 不殺(ころさず)










―――――――――――――――






一人立ち続ける日陰に対して、敵の数は数十万。


だが、優劣はつけがたい状況であった。


確かに数の暴力に憎悪と呉の兵の強さは半端ではなかった。


そして対峙する日陰は…………規格外であった。


人を殺さずに戦う。


それは音に聞けばとても良心的、または甘い考えだと人は思う。


だが、実践できる者は少なく、それが“本当に”良心的であるか、甘い考えであるかなどは人は知らなかった。


そしてそれを目の当たりにした者は口を揃えてこう言うだろう。


「―――化物だぁぁ!!」









――――バキンッ。


鈍い音と共に卒塔婆の破片が宙を舞う。


そこには肩を外された呉の兵が痛みにうずくまっていた。


「……くぅぅ。こんなんでやられてたまるかぁぁぁぁ!!」


普通ならそこで止まるはずだった。だが怒りに燃える呉の兵がその程度で止まる訳がなかった。


再び立ち上がり、使える手で反撃する。


正に死兵となった彼らに不殺の恐怖は効かない。


「…………」


それを無感情に見つめる日陰。


そして手にはまた新たな卒塔婆。


「………ごめんなさい」


謝りながら呉の兵の股関節を外す。


心理的に駄目なら肉体的に破壊し尽くすまでだ。


同じ相手に二度攻撃することは日陰の理念に反する。一撃にかけるのが日陰の理念だ。


だが、自分の理念よりも主の命令の方が優先度は高いのも真実。


それを分かりながらも“苦渋の英断”を下したのだ、荀イクは。


だからこそ、日陰はそれを全うする。












「くっ。これ以上は無理か」


孫権は苦言を漏らす。


呉の民は孫策を敬愛していた。だからこそその孫策が暗殺されたと知れば、誰もが死兵となるのも厭わない。


だが、それは一人の男によって受け止められた。


そう“受け止められた”のだ。


まるで己一人でその罪を背負うかのように。男はたった一人で孫呉の苛烈な復讐を受け止めた。想いを受け止めたのだ。


孫策から聞かされていた、不殺の名を持つ男――――徐福。


その戦い方は洛陽の戦いに参加した者なら誰しもが知る。そして参加していない者は参加した者から語られるその異様さを知る。


孫権も語られた一人だ。姉の口から………。


聞かされた時はそんな甘い考えと思いながらもそれは凄いことだと思った。


誰しもが望み叶えられなかった戦い方だ。


だが、それは目の前でそれを見て、その考えが大いに間違いであると悟った。


目の前に広がる惨劇は誰しもが願った望みの果てだとは考えたくない。


地に伏す者に死んだものはいない。だが、生きているとは言いがたい。


関節を外された者、骨を折られた者、指を曲げられた者…………。


それら全てが生きている。いや、生かされている。


おそらく彼らは二度と戦場へは戻れないだろう。


彼らだってつわものだ。戦場で怪我をする覚悟や死ぬ覚悟だってできているはずだ。


それは当たり前だ。相手は自分を殺しに来るのだ。殺らなければ殺られる。


だが、この目の前の男は違う。自分達を殺す気なんて全く無い。ただ壊している。


怪我をするのは確かに痛い。だがそれは殺されなかった対価だと思えば安いものだ。


そう。死ぬくらいなら怪我の方がマシ、である。


――――バキンッ。


「ヒィ!」


誰かが悲鳴を漏らした。


その宵闇の如く暗黒の外套を纏った男は手に持つ得物は決して強度のあるものではない。


それでも人を壊すのには十分だった。


歪に折れた足を、力なく垂れ下がる腕を、青く腫れ上がる体を、地に伏せ呻き苦しむ仲間を見れば誰だって壊れる。


そう。壊すのだ。


覚悟を、信念を、想いを、やる気を、勢いを、感情を、情念を…………何もかもを。


――――不殺。


あれは決して優しさでも甘くもない。


非情で、無情で、残忍で、残酷な戦い方だ。










日陰の周りに数万の兵が伏した頃、既に呉の勢いは削がれていた。


「―――退け。雑兵に用はない。“私”が用があるのは王のみだ」


ギラギラと輝く銀色の眼光が戦場を見つめる。


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