表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/57

42話 曹操の失態








―――――――――――――――







曹操が呉への侵攻を決めた。


乱世は終焉へと向かいつつあった。







呉への侵攻を決めてから準備が出来るまでは流石、大国魏である。


優秀な将により驚くべき早さで準備は行われていた。


もしくは戦いたい奴らが多いためか?


そして呉の首都、建業へ軍を向けた。


曹操が望むのは英傑との戦い。


正面から堂々と破ってこそ、覇道だと彼女は考える。


それに異を唱えるものは魏の臣下にはいない。





――――だが、臣下でない者は異を唱えた。


許貢による孫策の暗殺の報は直ぐに知れ渡ることとなる。









「撤退よ!全軍、反転しなさい!反撃することはこの曹孟徳の名において禁じる!」


「華琳様、今反転しては我が軍に多大な被害が………」


「それが何ッ!?このような戦いに何の意味があると言うの!?」


曹操の覇道にこのような勝利は許されるはずがないのだ。


否、彼女が許さないのだ。


「華琳様、なら私が殿を………」


と夏侯惇が殿に立候補した時………。


「―――殿は僕がします」


手を挙げたのは日陰。


「………何故、貴方がそこで手を挙げるのかしら?」


曹操は許貢の無粋のせいで少し苛立っているためか、少し言葉の端に棘があった。


「殿なら僕が務めます」


それに臆することもなく、日陰は言う。


「今回は反撃をしてはいけないのでしょう?ならば将軍方には辛いでしょうから、僕が引き受けます。僕なら相手を殺さずに食い止めることが出来ますから………」


「…………桂花はいいのかしら?」


曹操は荀イクへと問う。


今回は前回とは違う。呉は孫策への暗殺を、卑怯なやり口に対して怒りを持って追撃してくるだろう。それは死兵に近いものだ。


それを真っ向から受け止めるなど正気の沙汰ではない。


いくら“不殺”と呼ばれる男でも殺さずに済むはずはないと曹操は思っていた。だからこそ、日陰に対して絶対の命令権を持つ荀イクに言ったのだ。


「日陰………」


そして荀イクは…………。


「―――必ず止めなさい。その命に変えても………」


英断だった。


荀イクはこの場で一切の私情を挟まない。それは軍師として、覇王を支える王佐として最善を見極めなくてはいけない。


そして荀イクは知ってしまった。日陰の実力を………。前の蜀との戦いで日陰が呂布と関羽相手に曹操を救い出したのを、華雄相手に何合も立ち回れることを………。


知ってしまったからには、分かってしまったからには判断してしまう。最善として使うことを。一度頭に浮かんでしまえば決して沈むことはない策。





「―――そして、早く帰ってきて私の手伝いをしなさい」


ただし、それは今までの、日陰と過ごす前の荀イクだ。今の荀イクは日陰のお陰で変わりつつあるのだ。









「ありがとうございました、桂花様」


「………別に何もしてないわよ」


「いえ、僕の“我が儘”を聞いていただいたことです」


そう。今回、日陰は一言たりとも荀イクの為にとは言っていないのだ。


つまりはこれは完全に日陰の私情なのだ。


「別に私はそれが最善だと思ったまでよ。それよりいいこと、華琳様の前であれだけ言い切ったのよ。絶対に失敗するんじゃないわよ」


「はい。必ず止めてみせます」


「………帰ったら頭、撫でてあげるわよ………」


そっぽを向いて、ポツリと漏らす荀イク。


「はい。是非に」


と日陰は殿へと向かう。










「我が王への卑劣な行いを決して許すな!孫呉の地を汚した罪をその血をもってして償わせるのだ!」


「決して逃がしはしません!」


「弓兵構え!我らが怒り、悲しみ全てを矢に乗せ、敵へと放てッ!」


王の暗殺を聞いた呉の将、兵たちの勢いは尋常ではなかった。


それはまさに獣の大群。皆が親の仇を取らんばかり勢いだった。


そしてその大群と真っ向から相対する者がそこにはいた。


四体の絡繰人形を四方に配置して、男は立っていた。


「ごめんなさい」


男はポツリと呟く。


「貴女たちに重い悲しみを負わせてしまって………」


それは贖罪の言葉か………。


「ごめんなさい。貴女たちに深い怒りを抱かせてしまって………」


男は無表情に呟く。手に持つは死者を弔うための卒塔婆。


「ごめんなさい。―――貴女たちの気持ちが全く理解できなくて……」


男は卒塔婆を前に向ける。


「展開しなさい、“青”“朱”“白”“玄”」


四体の絡繰の内側が開く。


そして内部から数千の卒塔婆が外へ展開される。


瞬く間に戦場に日陰の舞台ステージが出来上がる。


「ごめんなさい。貴女たちの想いは踏みにじらせてもらいます」


そこに立つは“不殺”。乱世において誰一人殺さず、それでいて戦場において最も残酷な戦い方をする者。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ