39話 審問会
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魏のとある一室。
「皆様、今日はお集まりいただきましてありがとうございます」
机が縦長に置かれ、その上座に座る一人が立ち上がり、集まったそれぞれに挨拶をする。
「それではこれより――――」
そして仰々しく、後ろに布で隠されたものを引き剥がす。
「第23回。徐福様を見守り、その仕草に悶え讃えようの会を開催します!!」
集まった侍女たちにより、盛大なる拍手が巻き起こる。
…………………………いや、仕事はキチンとしてるのですよ?
「今回の議題は先日発覚した。徐福様の初恋について、ですわ」
上座に座る侍女がそう言う。おそらく彼女が会長である。
「詳細については未だ不明です」
会長の隣に座る副会長侍女が発言した。
「隠密侍女に探らせてはいますが、あまり成果は…………」
そう言うのは隠密頭の侍女だ。
「徐福様に直接お聞きするのはいかがなのでしょうか?」
と長机の下座の端に座る侍女が発言する。
「いや、それは無理ですわ、会員番号285069番」
会長が横に首を振り、言う。
「どうやら荀イク様がその手の話題はご法度としたようよ」
「そうですか………」
会員番号285069番は残念そうに言う。
「それなら知っていそうな人に訊ねるのはどうでしょう?」
今まで会議の内容を筆記していた書記侍女が言う。
「それは例えば誰ですの?」
「えぇと、前に洛陽で一緒に働いてた張遼様はどうでしょうか?」
「確かにありえるかもしれませんが……。しかし、この話題を始めに振ったのはその張遼様ではありませんの?」
「確かにそうですわね………」
「しかし、一応聞いてみましょう。会員番号560093番、確かに貴女は張遼様のお世話をしてましたわよね。それとなく探りを入れてもらえるかしら?」
「はい。かしこまりました」
「あの………」
と端に控えた侍女とは違う格好をした女性が手を挙げる。
「どうかしましたの、特別会員886番?」
「あまり“日陰さん”の過去を調べるのはどうかと………」
『――ッ!?』
「………特別会員886番……いえ、徐庶さん。何故、貴女は徐福様の真名を呼んでいるのですの?」
「え?あ、はい。この前、籠城戦の時に補佐をしまして……。その時に教えてもらい――――」
――――ガシッ。
両腕を掴まれる徐庶。
「……え?」
「只今より異端審問会を開催します」
こうして議会はまだまだ続くのであった。
一応、言っておくが彼女たちは非常に有能な侍女たちである。
「…………?」
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません」
日陰はなにやら感じ取ったが、荀イクの手伝いこそが彼にとって重要事項なので気にせず、補佐に集中する。
「桂花ちゃん、ちょっと日陰さん借りちゃってもいいですかー?」
「はぁ?」
「あぁ、別に取って食ったりはしないですから、ご心配なくー」
と日陰を連れ去る程イク。
「えぇと、風さん?僕に何のご用でしょうか?」
「いえいえ。実は用というのは嘘なのですよー」
「それでは僕は戻り―――ぐはっ!?」
日陰が帰ろうとすると程イクの頭の上の人形、宝ケイが飛んできた。
「まぁまぁ、待ちなよ兄ちゃん」
顔が少し凹みながらもそう言ってくる宝ケイ。
「実は風は少し頼まれただけなのですよー」
「………頼まれたとは?」
宝ケイを定位置――程イクの頭に返しながら日陰は訊く。
「どうもどうも。……とある侍女ちゃんに頼まれたのですよー」
「侍女さんに?何故、風さんを経由するのでしょうか?」
「まぁ、それは鉄の会則やら、異端審問なんかですよー」
「………はぁ。まぁ、事情は分かりましたが。それで侍女さんの用事とは?」
「これですよー」
と程イクはズルズルと麻袋を引き摺ってきた。
それは丁度人一人分くらいの大きさのものであった。
「……………」
「……………」
「……ちなみに中身は?」
「さぁ、風はこれを渡してほしいと言われただけですからー」
「………何故、そんなにも離れているのでしょうか?」
「ふふふ」
手を口に当てて笑う程イク。
ここでの選択肢は以下のようである。
一、中身は侍女さん。全身リボンコーティングの私を食べて状態。
二、中身は徐庶さん。見せしめに生け贄状態。
三、大穴、中身は桂花。恥じらい睨む姿はまさに萌神。
さて、どれに当たるか?
「………(ゴクリ)」
日陰は恐る恐る麻袋を開けてみるとそこには…………。
「…………自走式人形?」
自走式人形が入っていた。
しかもそれは警備用ではなく、お着替え用であった。
「どうやら、腕が取れてるみたいですねー」
いつの間にか寄ってきていた程イクが言う。
「これは僕に修理して欲しいということですか?」
「まぁ、そうなるでしょうねー」
「何故、僕なのでしょうか?真桜さんの方が専門ではありませんか?」
「まぁ、おそらく真桜ちゃんに任せると………もれなくドリルまで付いてくるからですかねー」
日陰は納得した。
「………まぁ、そういうことでしたら、是非もありませんね」
早速、修理に取りかかることにした日陰。
その数日後…………。
「良かったですわ!」
自走式人形に頬擦りする侍女。
「この完璧に造形美、そして無駄の無い機能美。そして何よりも徐福様直々に修理なされたなんて…………うふ、うふふふ」
怪しい笑みを浮かべる侍女。
そして――――。
――ガシッ。
「………え?」
「悲しいですわ、会員番号000008番。まさか一桁から異端者が出てしまうなんて……」
「か、会長!?ち、違うのですわ!これは自走式人形の為に!」
「………言い訳は折檻室で聞きますわ」
「い、いやぁぁぁぁぁ!!」
侍女部屋には開かない部屋があるという。そこに入った者は全ての毒気を抜かれ、まるで廃人のようになるとかならないとか………。




