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33話 自分の持ち物には名前を書こう








―――――――――――――――






「貴方が何故、ここにいるの!?」


「我が君の願いを叶えに………」


基本的には日陰は荀イクの命令には絶対服従である。


たが、言われたことしかしないのではそれは二流だ。言われずとも最善を考え行動する、それこそが一流だ。


日陰の徐州での劉備への援軍や、もっと言えば森で荀イクが賊に襲われた時など、日陰は決してただ命令を聞くだけの人形ではない。


自分で判断し、決断するのだ。


主にとっての最善を、主にとっての最良を………。


「貴方、後曲での支援のはずでしょ?それはどうしたのよ……」


「それは続行不可能です。今、徐庶さんに頼んで両翼の回収に向かってもらってます。門前には真桜さんたちの隊が来てくれたので、僕は貴女の回収に……」


「私に逃げろと言うの!?イヤよ!あんな理想ばかりの天然娘に負けを認めろと言うの!?」


曹操はそう言う。目に宿るのは決意の炎。


「そうですか。なら、ここで終わるのですか?」


「……なッ!?」


日陰の手に持つ卒塔婆が曹操の喉元に伸びる。


「このまま終わるのは貴女が一番よしとしない結果ではないのですか?」


「だから、私まだ戦うと―――」


「戦う?何と?」


「何を言っているのよ、日陰!?」


「貴方の目には何が写っていますか?」


と日陰の目が曹操を射抜く。


そして日陰の鏡のような目の中には曹操自身が写し出されていた。


「…………冷静さを失っていたみたいね」


「ご理解いただけたみたいで助かります。では………」


「でも、どうやってこの状況から抜け出すと言うのかしら?」


今、ここには曹操と日陰しか居なかった。


曹操の連れていた兵は散り散りとなり、日陰は少ない兵を連れてきてはいない。


「……………」


「………日陰?貴方、もしかしないわよね?」


遠い目をした日陰にジト目になる曹操は詰め寄る。


「いや、打開策はあるにはあるのですけど………それ以外で模索中です」


「何を言ってるのよ、貴方は!?こんな時に手段を選んでるんじゃないわよ!?」


「いや、あれは流石に………」


とやんややんやと話しているが、そんな二人を何故関羽たちが傍観しているのか?


答えは簡単である。


「………動けない」


「くっ。なんだ、この木っ端は………」


日陰が持ってきた12本の卒塔婆で動きを封じられていたからだ。


それは洛陽で暴れ馬を封じたのと同じように。


だが、それは所詮時間稼ぎだ。


「………抜けた」


「なんと奇妙な技を使うのか……」


卒塔婆から抜け出す二人は正面で言い争う曹操と日陰を見る。


「恋。元同僚だからといって手を抜くなよ」


「…………………(コク)」


「おい、今の間はなんなのだ!?今の間は!?」


「………大丈夫。……恋、日陰、捕まえる」


こちらもやんややんやとやっていた。










「あちらはもう抜け出したみたいですね」


「で、どうするのよ?」


「仕方ありません。華琳さん、少しの間、か……………」


「関羽の相手をすればいいのかしら?」


「………お願いします」


と関羽たちと再び対峙する。









「仕切り直しといきましょうか、関羽」


「改めて、その首もらい受けよう」


曹操対関羽。両者得物を構える。


「………日陰」


「どうも、恋さん」


呂布対日陰。両者普通に挨拶を交わす。


『日陰(恋)ッ!ちゃんとやりなさい!!』


二人揃って怒られ、しゅ~んとなる呂布、日陰。








そんなわけでキチンとすることにした日陰。


「………?」


とそこで手に持つ卒塔婆に違和感を覚える。


いや、正確に言うならその前から違和感はあったのだ。


そう、呂布の一撃を“受け止めた”時からその違和感はあったのだ。


「………日陰。やる」


と呂布が戟を振るう。


―――ガキンッ。


それを卒塔婆で“受けて止める”。


また、違和感だ。


日陰は鍔迫り合いでは分がないのが分かっているため、一度力を抜き、入れる。


急な緩急に呂布が一瞬だけ体勢を崩したのを見て、戟を弾く。


そして卒塔婆を構え直す。


卒塔婆を自分の正面に構える。


「………………あ。違う」










「―――卒塔婆武麗奴そとばぶれーど?」


「せや」


荀イク、李典は隊を後退させ、城の門前にて日陰が曹操を連れて戻るのを待っていた。


その間、李典が日陰の武器について話し始めたのだ。


「正確には、日陰は卒塔婆言うとったな。基本的には自分で廃材使こうて、削って作っとるみたいやで」


たがら休日に木を削っていたのだと荀イクは思い出していた。


「でもそれだけやと強度が弱いねん。それに木と金や相性は最悪や」


「確かにそうよね。でも日陰は今までそれで戦ってたのよね?よくそれで生きてるわよね、アイツ」


「そりゃ、一撃に掛けとったからやな。卒塔婆が壊れるのを覚悟で相手に一撃加える。せやから、相手の数だけ卒塔婆が必要なわけやし、敵さんの攻撃を受け止めるなんて絶対に無理や」


「それで真桜の言ってた卒塔婆武麗奴ってやつなの?」


「そうや!これは木の質感はそのままに中を変えてんねん。中に小さな木っ端を互い違いに入れんねん。こうすることで強度は前の三倍や」


「……で、その試作品が―――」


「日陰が間違えて持っていてもうたみたいやな」








奇しくも日陰が最後の一本がその卒塔婆武麗奴であったわけだ。


壊れない卒塔婆に日陰はカクンと首を傾げるが、それは別に気にするべきことではないと思い、呂布へ目線を移す。


「恋さん、引いてもらえませんか?」


「………出来ない。恋、ご主人様たち、守る」


「そうですか………」


なら、と卒塔婆を構える日陰。


「………呂奉先、行く」


「………徐福、いざ参ります」


戟と卒塔婆が交差する。


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