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悶話 猫耳の乙女心

※にやけ注意。

周囲を確認してからお読みください。






―――――――――――――――






彼女は荀イク。曹操に仕える筆頭軍師だ。


(今日は1日華琳様から休みをいただいたのだけれど………)


荀イクは部屋の中で椅子に座っていた。


(どうも暇なのよね。特にすることもないし、読書をしようにも書庫の書物は全部暗記してるし…………)


やることがなく、文字通り暇を持て余していた荀イク。


(…………そういえばアイツはどうしてるのかしら?)


ふと、自分の副官のことを思った。


自分が休みであるなら、自分に付いている副官も休みではないのか?、と………。


(少し様子でも見てこようかしら………。べ、別にアイツのことが気になる訳じゃないわよ。そ、そうよ、部下の管理は上司の仕事なのよ。ちゃんと休息を取っているか調べるのも上司たる私の仕事なのよ)


理論武装いいわけを心の中でして、荀イクは部屋を出ていく。









(何してるのよ、アイツ………)


日陰の部屋に行く途中で目的の人物を見つけた荀イク。


日陰は廃材置き場の近くで木を削っていた。


(何?ただの棒?………)


日陰の戦い方を知っている者なら日陰の得物であるのが分かるのだが、荀イクは日陰が戦う所を見たことがなかった。


(全く、休日に棒を削ってるなんて、どれだけ暇人なのよ………)


自分は己の副官を影から見ているわけで、どっちもどっちの気がする。







「あれ、日陰やん………」


とそこに李典がやって来た。


それに気づいた日陰が作業を休めて、李典を見る。


そして未だに影から見ている荀イク。


(なによ、随分と仲が良さそうじゃない………あッ!?)


突然、日陰の手を引っ張りどこかへ連れていく李典。


(ちょっと、どこ行くのよ!?)


二人を追って荀イクも移動する。









(ここは………真桜の工房?)


しばらくして二人が入っていったのは工作隊の向上目的で作られた真桜の工房だった。


(なんでこんなところに?……まさか、人気の無いここで……ッ!?)


と妄想爆発な荀イクは扉を少し開けて中を覗くのだった。


(そ、そう、これは部下の身辺調査。これも上司の勤め……)


常に理論武装いいわけは完璧なのである。


(………ってなによ、これ!?)


中の乱雑さに驚く荀イク。


真桜の工房ならぬ魔王の工房のようだった。



……………………いや、別にウマイことを言おうとはしていない。



(……はっ!それより二人は………)


と部屋の中を探す荀イク。そして直ぐに見つかった。


それは絡繰を説明している李典とそれをただぼけぇ~、と聞いている日陰だった。


(なによ、ただ絡繰を見に来ただけじゃない………って別に心配なんてしてないわよ!)


誰への理論武そ………言い訳なのか分からないが一人廊下で突っ込み入れてる荀イクだった。


『お還りなさいませ、ご主人様』


とそんなことをしていると異質な声が部屋から聞こえてきた。


(何かしら………ヒッ!?)


隙間から覗こうとした荀イクの頬のすぐ横を小さな卒塔婆が通過していった。


「な、何なのよッ!?」


と壁に刺さったそれを確認しに扉から離れていると…………。


「なんでやねん!!」


と叫びながら部屋から転がり出てくる李典とそれを追うフリルの付いた服を着た人形。


「……え?なに?」


あまりの勢いに荀イクは尻餅を突いてしまうが、そのまま李典は走っていき、人形は足に付けられたホイールを回して追いかけていった。


それはそれは全力疾走だった。お互いに………。


「ホント、なにをしてるのよ、全く」


服に付いた埃を払いながら荀イクは立ち上がる。


「………絡繰も中々面白いですね」


とそんな声につられて部屋の中を見ると、そこにはいつも無表情な日陰が少しだけ笑っていたのだった。


「―――ッ!?」


咄嗟に鼻を押さえる荀イク。


微かに赤い液体が溢れているのは気のせいかもしれない。









「ま、全くひどい目に………いや、あれはあれで中々良かっ…………って違うわよッ!?」


一人でぶつぶつと呟きながら歩く荀イクは完全なる不審者であるが、魏の廊下において少女がぶつぶつと呟いているなどは日常なことなので誰も気にしない。


「ん、何かしら?厨房の方が騒がしいわね……」


と厨房へ向かう荀イク。






(華琳様!?)


そこには曹操と共に食卓につく日陰の姿を見つけたのだった。


(なんで華琳様と!?)


「………お待たせしました」


(………あれ?流琉も……?)


と今まで視界の外にいた典韋が皿を二つ持って現れた。


(なんだ、流琉も一緒だったのね……)


ホッとした様子で胸を撫で下ろす荀イク。


(……って別に日陰が誰と居ようと私には関係ないじゃない!………あら?日陰が料理?アイツ、そんなこと出来るのかしら……)


と日陰の料理を見る荀イク。


(料理ってあんなに火が燃えるものなのかしら?)


天井高くまで昇る火を見ながら荀イクは思う。


料理にあまり詳しくない荀イクはいまいちよく分からないのだった。


(でも確か春蘭も似たような感じで料理してたわよね………じゃああれが普通なのかしら?)


そして間違った知識も加わっていた。








(味は…………悪くはないみたいね)


曹操たちの反応を見て、不味くはないのだろうと判断した荀イク。


(………ちょっと食べてみたい、かも………ッ!?いや、これは部下の実力を――――(以下略))









曹操たちが去った後、荀イクは厨房へと忍び込んでいた。


「……これが、日陰の手料理……」


何故か、置いてあった料理の前に立つ荀イク。


「…………」


キョロキョロと周りを確認して、箸で恐る恐る口に運ぶ。


それはさながら思春期の男子が好きな子のリコーダーを……………(自主規制)。


「………ッ!美味しい!」


一つ二つと次々と食べていく荀イク。


曹操と典韋はそれほど美味しくも不味くもないと評価したのだが、何故荀イクには美味しく感じるのか…………。


それは最高の調味料……“愛情”が入っているからかもしれない。









(…………と言うかなんで私、隠れてるのよ!?別にやましいことなんてないんだから、堂々としてればいいのよ……)


と今更なことに気がつく荀イク。


「ちょっと、日か―――」


「おやー、日陰さんじゃないですかー」


(……風ッ!?)


荀イクが声をかけようとした時、丁度程イクが日陰に声をかけたのだった。


そして荀イクは再び影に隠れたのだった。


(………って!?だから、隠れる必要ないじゃない!)


やっとのこと日陰に話し掛けれると思えば、また元通りになってしまった荀イク。


とそうこうしていると、程イクが日陰の手を引き、どこかへ連れていこうとしていた。


程イクが荀イクの方をチラリと見たのだが、荀イクは気づいてはいなかった。








木陰で二人が休んでいるのを遠くで荀イクが見ていた。


(………なんで私はこんなヤキモキしてるかしら?)


二人がどうやら寝てしまったようで、荀イクは影に隠れながら自分の今日の行動について考察していた。


(……これは単なる部下の身辺調査よ。……そうよ。だから別に、これは……)


「――桂花ちゃん。いつまでコソコソしてるんですかー?」


「……えッ!?」


考えにふけっていた荀イクにいつの間にか間近に近づいていた程イク。


「な、何でここにいるのよ!?寝てたんじゃないの!?」


「桂花ちゃんがいつまでも出てこないから、起きてきたのですよー」


「風、気づいてたの!?」


「多分、気づいてないのは日陰さんだけですよー。あんなにバレバレな尾行は……」


「な、なな、ななな………」


「それじゃあ、風はもう行きますからー、後はよろしくお願いしますねー」


「ちょっと、後って何よ!?待ちなさいよ、風!」


引き留めようとする荀イクだったが、程イクはその場を去っていった。


残されたのは呆然とした荀イクと未だ寝ている日陰だった。









「全く、なに普通に寝てるのよ………」


何を任されたのか分からないが、とりあえず日陰の所まで近づいてみるが、日陰は気持ち良さそうに寝ているだけだった。


「……………」


キョロキョロと周りを確認する荀イク。


―――――ポスッ。


今まで程イクが寝ていた場所―――つまりは日陰の足の間に座る荀イク。


(………べ、別に意味なんてないんだから……)


そうして少しの時間が過ぎていく。


(………ホント、何をしてるのかしら、私)


荀イクがため息を吐き、立ち上がろうとすると…………。


――――ギュッ。


「―――ッ!?」


後ろから抱き締められた荀イク。


「ちょ、日陰、何を―――」


「……すぅすぅ」


いきなりの行動に抗議しようとした荀イクだったが、日陰が寝息を立てているのに気がつくのだった。


ただ日陰は目の前にあった温もりを無意識に抱き締めただけであり、他意はない。


「………/////」


それを頭では理解はしている荀イクだったが、顔が赤くなるのを自分では止められはしなかった。









(………全く、と、とんだ目にあったわ)


となんとか抜け出した荀イクはスヤスヤと眠る日陰を見ながら思う。


「………くしゅん。……すぅすぅ」


そこで日も傾いてきたためか、日陰がくしゃみをしたのだった。


「こんなところで寝てると風邪引くわよ」


しかし、日陰に起きる様子はなかった。


「ふん、知らないわよ………」


踵を返して、どこかへ立ち去ってしまう荀イク。











(………別にアンタが風邪引こうと構わないけど、それで私の仕事が滞るのは嫌だから……ただそれだけなんだからね……)


と布を片手に再び現れた荀イク。


それをそっと日陰にかけて、今度こそ自室へと戻るのであった。










「今日は何だったのかしら………」


今日一日の自分の行動を振り返って思う荀イク。


「……もういいわ。寝ましょ………って―――」


自分の布団を日陰に掛けてやったのだと今更ながら思い出す荀イク。


「代わりのを出さなきゃ………」


と代わりのを取りに行こうとした時………。


「―――桂花様、日陰です。入ってもよろしいですか?」


扉の向こうから声が掛けられる。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!…………いいわよ」


慌てて身なりを整える荀イク。


「夜分に失礼します」


日陰が荀イクの許可をもらい、入室する。


「なによ、こんな夜に………」


「はい。昼間お借りしたこれをお返しに来ました」


と日陰は手に持った布を前に出す。


「何でそれが私のだって分かるのよ?違うかも知れないわよ」


「侍女さんたちにお聞きしました」


「ッ!?………別に代わりの物ぐらいあるわよ……」


「はい。ですが、お礼もまだ言ってなかったので………」


「お礼なんて………」


「ありがとうございました」


荀イクの言葉を聞かずに、腰を折って礼をする日陰。


「それでは失礼しました。お休みなさいませ、桂花様」


と日陰は退室していく。我が君の休息を邪魔するのは日陰としても本意ではないのだろう。


「………別に明日でもいいじゃない」


日陰の置いていった布団を手に取る荀イク。





その後の行動は……推し測るべきである。


ただ、思春期の男子が好きな娘の衣服に顔をうずめてしまうのは仕方がないことだと思うのである。


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