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24話 仁義の王の決意







―――――――――――――――






「……もぐもぐ」


日陰が徐州へ向かう途中、木陰に座りながら食事を取っていた。


「………?」


日陰が竹筒に入った水を飲んでいると、向かう先から何やら砂塵が見えた。


砂塵の量からしてそれほど速いわけではない。


だが、なんだか急いでいるような感じがした。


「……ぐもぐも」


それを確認したが別に急ぐわけでもなく、食事を続けていた。








「おや?劉備さんじゃないですか、お急ぎですか?」


「―――え?」


日陰が休んでいると、大軍と民を率いた劉備軍に出会った。


「なっ!?まさか先回りされたのかッ!?」


関羽が日陰を見て、そう言った。


「………?」


「桃香様、お下がりください。星、桃香様を頼む」


「大丈夫か、相手はあの“不殺”だぞ?」


「あぁ、この身を賭けてでも止めてみせる!さぁ、関雲長が相手になるぞ!」


得物を構える関羽に日陰は………。


「もぐもぐ」


未だ食事を続けていた。関羽たちが話してる間もずっと……。


そして………。


「さてと、ご飯も食べましたし………行きますか」


と徐州を目指して、歩き始めた。


「ちょ、ちょっと待てッ、徐福!?」


「え?何ですか、えぇと………」


「関羽だ」


「……それで何か?」


「我々を止めに来たのではないのか?」


「すみません、よく分かりませんが……」


カクンと首を傾げる日陰。


「………」


「………」


二人の間に沈黙が流れる。


「―――日陰さん!?」


そこに現れたのは………。


「………こんにちは、月さん」


董卓だった。


「月!?こんなところに来ては……」


「大丈夫です。日陰さん、お久しぶりです」


董卓は日陰の前に出る。


「桃香様たちから聞きました。あの日、私の為に連合軍の足止めをしてくれたって……」


「………」


「今度、もし会えたらそのお礼を言おうって決めてたんです。ありがとうございました」


と頭を下げる董卓。


それにたいして日陰は………。


「………え?いつのことですか?」


忘れていた。


『は?』


これには全員の顔が面白いことになった。


「え?すみません、なんだか。どうも僕は“些細なこと”は忘れてしまうみたいで……」


人の名前も、自分の命を賭けたことも日陰にとっては些細なことだった。


日陰にとって重要なのは我が君である荀イクのことだけなのだろうか……。


「えぇと………」


「なに月を困らせてるのよッ」


ビシッと現れたのは賈駆だった。


「あ、詠さんもこんにちは」


「えぇ、こんにちは……って違~うッ!」


ビシッとつっこむ賈駆だった。


「アンタね、あんなことするなら一言言いなさいよね!ボクたちがどれだけ………」


「えぇと、すみません?」


とりあえず謝ってみる日陰。


「べ、別に謝ってほしいわけじゃ……」


「お二人ともお元気そうでなによりです」


社交辞令か、それとも心からの言葉なのか、無表情な日陰からは分からない。


「驚かないのね、ボクたちが劉備軍にいること」


「えぇ、霞さんから聞きましたから。洛陽で見たようですよ」


「霞も元気なの?」


「はい」


「そう、良かったわ。曹操の所にいるのは知ってたけど………。それと今は恋やねねもいるわ」


「そうなのですか?」


「袁術との戦いの時、桃香たちが保護したのよ。日陰、華雄のことは何か知らない?」


「すみません。僕は何も………」


「そう。………まぁ、華雄のことだからどこかで生きてるわよね」


「そうかもしれませんね」


と暫く話していた二人。


「あ、あの日陰さん………」


董卓が話に入ってきた。


「日陰さん、私たちと一緒にご主人様の元で働きませんか?」


「………?」


「月ッ!?」


突然の発言に日陰や賈駆だけでなく劉備たちも困惑した。


「月、いきなり何を言い出すのだ?」


「すみません、愛紗さん。でも日陰さんにはこれ以上戦ってほしくないんです……」


董卓は日陰へ目を向ける。


「日陰さん、貴方はとても優しい方です。誰かの為に戦う。嫌いなはずの戦いに誰かの為に身を投じる」


董卓は悲しそうな顔をする。


「貴方が人を殺さないのだって敵のことですら貴方は想ってしまうからじゃないのですか?」


潤んだ瞳は日陰を射抜く。


「………」


「だったら私たちと一緒にご主人様の元で洗濯やお掃除をして平和に暮らしませんか、その方が日陰さんも………」


「―――それは出来ません」


いつもの淡々とした口調の日陰。


だけどそれは確固たる意志があった。


「僕は我が君を支えると決めました。それを覆すつもりはありません。……それに僕は貴女が思ってるほど優しくはないです」


――私………………。


「僕は嫌になるほどいやしくて……」


――私の……………。


「僕は愚かなほど愚鈍で………」


――私の……覗くな。


「僕は――――」


――私の心を覗くなッ!


それはまるで決別の言葉。


そしてこれに別れの言葉を重ねればそれは確固たるものとなる………。


「それではさようなら。…………卓董さん」








………………………………………。


………はずだったのだけれど。


『………』


劉備陣もなんと言っていいか分からないような微妙な顔をしていた。


いや、一番ショボい顔をしているのは日陰だった………。


(おい、星。何か言わぬか。お前はそういう役目だろ)


(私とて見ず知らずの者にあけすけとは言わぬよ。それこそお主がなんとか言ったらどうだ。お主は面識があるのだろ?)


(私には無理だ。見ろ、徐福のあの顔を……。まるで雨の日に打ち捨てられた仔犬ではないか)


関羽と趙雲が耳打ちし合う。


そのなんとも言えない微妙な空気を破ったのは………。


「――徐福さん」


『桃香様!?』


劉備だった。


さて、劉備はこの場をどう収めるのか……。


「私、考えたんです、徐福さんに言われたこと………」


劉備の選択は『華麗なスルー』だった。


「何を……?」


「私、決めたんです。どんなに夢だって、幻想だって言われても歩むって……。曹操さんや徐福さんに言われて初めて考えたんです。今までただがむしゃらに夢を追いかけてました」


決意の光が劉備の目には宿っていた。


「今回の件で愛紗ちゃんたちや民の人たちは私についてきてくれた。今まで漠然とした理想しかなかった。自分でも心のどこかではできるのか不安だった。でも……」


キッと徐福を見る。


徐福の瞳に写し出された自分を見る。


「私はもう迷わない。愛紗ちゃんたちの為にも、私についてきてくれたみんなの為にも私は迷わない。私は私を信じてくれる人の為に、私を慕ってくれる人の為に………」


「…………」


徐福はそれを黙って受け止める。


「それが貴女の選択なのですね?」


「うん」


「……それを最後まで通して下さいね」


と日陰は軍行の後部へと目を向ける。


「曹操さんたちは徐州ですか?」


「――ッ!?」


「徐福、知って………」


「いえ、話の流れから推測したのですよ。曹操さんから逃げるために益州に向かっているのではないかと………」


「邪魔をすると言うのならば………」


と関羽と趙雲が得物を構える。


「―――しないですよ、そんなこと」


しかし徐福はそれを否定する。


「僕は徐州を平定した事後処理に追われる我が君を支えに行かなくてはいけませんから。こんなところで油を売ってるわけにはいきません」


と徐福は後部へ向けて歩き出す。


「それでは皆さん、またいずれ縁があれば………」




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