22話 愚直に真っ直ぐに
―――――――――――――――
―――バキッ。
「くっ!?」
火の着いた卒塔婆を振るう日陰。
(なんで変わらず重いのよ……)
変わらない日陰の攻撃の重さに驚きを隠せない孫策。
周瑜の失敗があるとすれば木の特性を知らなかったことだ。
いや、誰しもが勘違いしてしまうものだ。
木は確かに燃える。消し炭となる。だが、それは正確ではない。
木が燃えるのは表面だけなのだ、中の芯は炭化した表面に守られて無事であることがあるのだ。
だから燃えたからといって強度は低くなるが無くなることはないのだ。
そして周りの火は孫策の動きを阻害した。
周瑜もまさか火の中でなお戦い続けるなど考えはしなかった。
そんな規格外を普通は想定しない。
「貴方、それ熱くないわけ?」
「何を言ってるんですか?」
日陰は次の卒塔婆を握りながら言う。
「―――熱いに決まってるじゃないですか。火は熱いものですよ。それは獣でも知ってることです」
そう燃え盛る卒塔婆を握る日陰は言う。
まるで炎を纏った剣を持っているかのようだ。
「平然と握って、よく言うわ………」
冷や汗を流しながら孫策は言う。
彼女の勘が告げている。
これと戦ってはいけない。そしてそれ以上にこれをここで仕留めなければ後々孫呉の障害になると………。
「さて、まだまだありますよ、孫策さん」
――――バキッ。
「くっ!?」
段々と動きが鈍くなる孫策。
火が周りの酸素を奪い始めているのだ。
広野であるため窒息まではいかないが薄くなっているのだ。
しかし、それは日陰も同じである。
―――カラン。
卒塔婆を取り落とす。
「………」
無言でそれを握り直す日陰。
「貴方も相当キテるようね」
「………」
それは当たり前だ。孫策は火の側にいるが、日陰は火の横にいるのだ。酸素の薄さは比較ではない。普通なら酸欠で動けなくなるぐらいだ。
しかし、それぐらいで動きを止めようとはしない。
「そんな些細なことで僕は止まらない」
―――バキッ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。これはちょっと危ないかしらね……」
「雪蓮はまだ戻らないの!?」
その頃孫策軍の本陣では未だ戻らない孫策を心配した周瑜がいた。
「少しは待たぬか。今、斥候を放った追っ付け報告が………」
「こ、黄蓋様!」
「なんじゃッ!?」
「そ、それが斥候からの連絡でと………そ、孫策様がまだ火の内にて敵と戦闘中だと……」
「なにぃ!?」
「そう言えば何で隊を率いてないわけ?」
油断なく日陰に剣を向けたままの孫策。
「僕は隊の指揮が出来ませんから………」
それに、と日陰は続ける。
「―――僕は敵味方の区別がつきませんから」
「……いや、それは流石にダメでしょ。鎧とか違うわよ」
呆れた口調になる孫策。
「そんな“些細な”違いは分かりませんよ」
そんなことを平然と宣う日陰であった。
「それでよく生活できるわね、貴方………」
「会話すればその人が誰なのか分かりますよ。名前以外は………。まぁ、戦場で会話するわけにはいきませんから、一人で出るのですけど……」
「貴方、本当に変わってるわね」
「まぁ、そうで、しょう………ね………?」
――――パタン。
「………え?」
会話の途中で急に倒れる日陰。
「………あ、限界かも。息、出来ない……」
表情にも態度にも表れははしないが、日陰の周りはもう既に酸素濃度が高山レベル。
我慢と言うよりかは本当にただ一心に己の役目を全うする日陰なのだ。
限界の更に先まで立ち続けていたらしい。
もうピクリとも手足が動かない。
「え?終わり?なんだか呆気ないわね」
「僕程度の三下はこんなものですよ。まぁ、時間は稼げたみたいですので、結果はよしとしましょう」
劉備軍の方を見ると袁術たちが退却し始めていた。
「今なら江東を取り返す事ができるかもしれませんよ、孫策さん」
「まぁ、確かに、ね。じゃあ貴方を始末してから行くとするわ」
と長剣片手に日陰に近づく孫策。
「そうですか………。じゃあ、僕は眠いので寝ます」
そして静かに目を閉じる日陰。
「……………」
日陰が次に目を覚ますとそこには満天の星空があった。
「……あ……れ………?」
日陰は体を起こすとそこは森の中だった。
「僕は………」
「気がついたみたいだな」
日陰の横に岩に座った長身の男が居た。
「貴方は?」
「ん?俺か?俺は華陀、医者だ」
「………徐福です。何故、僕はここに?」
「広野に倒れていてな、酷い火傷をしていたから治療したんだ。あのまま広野に寝かしておくのもあれだからな、ここまで運んできたんだ」
日陰の手には包帯が巻かれていた。
「それはお手数をかけました」
「いや、いいってことよ。俺は医者だからな、怪我人を見て見ぬふりはできんよ」
爽やかに笑う華陀。
「ところでなんであんなところで倒れてたんだ?」
「それは…………」
ある程度の事情を話す日陰。
「そうか」
「それでは、僕はこれで」
と立ち上がろうとする日陰だったが、よろめく。
「おいおい。まだ体が回復しきってないんだ、無茶はするなよ」
それを華陀が体を支える。
「それに今、俺の連れが食料を取りに行ってる。それを食ってからにしても遅くはないだろ」
急ぎの用でもあるのかと、華陀は聞く。
「………」
日陰は黙って座った。
その時………。
「華陀ちゃ~ん、取ってきたわよぉ」
「ダーリン、大漁だぞ」
森から変態が出てきた。
いや、違う。ピンクの紐パンだけを履いた大男と白い三角の水着に褌を締めた大男が出てきた。
「あらぁん、起きたのね、その子」
「うむ、我々も心配していたのだぞ」
二人の大男はしなを作りながらこちらに寄ってきた。
「…………」
「あぁ。徐福、この二人が連れの貂蝉と卑弥呼だ」
「よろしくねん」
「よろしくなのだ」
と二人がしなを作る。
「徐福です」
それに普通に返す日陰。
日陰は基本的に動じない。
例えオカマな大男が居ても、例え二人の後ろに熊が引きずられていても………。
「大変お世話になりました」
「あら、もう行っちゃうのね、寂しいわ」
「うむ、もう少しゆっくりしていけばいいのだぞ」
「いえ、もう動けるようになったので………」
日陰は包帯の巻かれた手を動かしてみる。
「まぁ、もう大丈夫だと思うが、一応一日ごとに包帯を替えて、薬を塗るんだぞ」
「はい」
と日陰はその場を後にしようとクルリと180度回転し………もう180度回転した。計360度回転した。
「どうかしたか?」
「………徐州はどちらですか?」
『………』
カクンと首を傾げる日陰。
「徐州ならこの先の長坂の橋を越えた先よ」
指を差して示す貂蝉。
「どうも」
ペコッとお辞儀をして、今度こそその場を去る日陰。
「ねぇ、卑弥呼。あの子どう思うかしら?」
「中々よいオノコであるな」
「でも………」
「あぁ、難儀な性質をしておるの」
「もしかして果心居士ちゃんが何かしたのかしら?」
「どうかの。あやつの動きは儂でも読めぬわ」
「そうね」
「おーい、二人とも、どうかしたのか?」
「なんでもないわよ、華陀ちゃん」




