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21話 徐福と小覇王







―――――――――――――――






日陰が決戦に向かっていたその時、魏の陣営では………。


「アンタ、それを取りなさいよ」


「こ、これですか?」


「違うわよッ!それじゃなくてそっちの………あぁ!もういいわよ、自分で取るわ」


袁紹との戦いの準備に追われていた。


「全く、これだから男は使えないのよ……」


日陰がいないお陰で別の文官を使うはめとなった荀イク。


日陰と接しているためか幾分かは対応が丸くなったと言えなくはない………はず。


(全く、ホント………)


今この場にいない自分の副官を思う荀イク。


「帰ってきたらみっちり絞ってやるんだから………」


(………だから、死ぬんじゃないわよ)













「朱里、どうかしたのか?」


「え、あ、ちょっと気になることがありまして………」


と諸葛亮はとある方向を見る。


「………徐福がどうかしたのか?」


それは日陰が単騎で孫策軍と対峙しているであろう方向。


「いえ、愛紗さんは殺さずに戦うことって出来ますか?」


「殺さずに?………徐福の戦い方のことか?」


「はい。戦場において他人を殺さずに戦うことってどう思います?」


「甘い考えだ、とは言えないな。私も出来ることなら殺さずにことを済ませたい時もあるからな」


「そうですか………」


そしてもう一度日陰の方向を見る諸葛亮。


(でも本当に人を殺さない戦い方は甘い考えなのかな?)











「あれ?冥琳、私の目には兵が一人しかいないんだけど………。目、悪くなったかな?」


「大丈夫だぞ、雪蓮。私にも一人しか見えていないからな」


孫策軍陣営にて孫策と周瑜が前方を見据えていた。


「なに?もしかして私たちナメられてるの?劉備と曹操が手を組んだって聞いたから曹操は来ないにしても劉備の将が来ると思ったんだけどなぁ」


「雪蓮、油断は禁物よ」


「油断も何も相手一人よ?どうすれば負けるか逆に聞きたいわ」


「それがあの“不殺”でもかしら?」


「…………」


周瑜の顔をまじまじと見つめる孫策。


彼女がこんなときに冗談を言わないのは孫策自身分かっていることだったが、それでも確認しておきたかった。


「………ふふふ。面白くなってきたじゃない」


そして獰猛な目をした孫策が未だ彼方に見える黒一点を見て笑う。









前座はこれくらい。


荒野に一人佇む日陰。


「こんにちは♪貴方が“不殺”よね?」


そしてそれに真っ正面から近づく女性が一人。


「……不殺?」


「そうよ。あの洛陽での戦い、重軽傷は数多と出たのにも関わらず死者はただの一人もいなかった。だから、あの場にいた者全てが貴方をこう呼ぶは……“不殺ころさず”ってね」


「別に意識してやってるわけではないのですけど………」


「そうなの?それはそれでスゴいけど……」


「それで何かご用ですか?」


「あら、戦場で用と言えば決まってるじゃない」


と女性は長刀を抜く。


「一応、名乗るべきかしら?……孫伯符よ。まぁ、癪だけど袁術ちゃんとこで客将をしてるわ」


「…………」


そこで日陰の目が一瞬だけ変わる。


暗黒から白銀へ、そしてそれはまた暗黒へ。


「……徐福です。曹操さんの所の荀文若様に仕えています」


「へぇ。曹操にじゃなくその軍師に、ねぇ………。それじゃあ、袁術の相手は曹操なのかしら?」


「いいえ。袁術軍を相手するのは劉備さんたちです。僕はそのお手伝いをしているのです」


「それで貴方が私たちの相手かしら?」


「その通りです」


と日陰は卒塔婆を一本抜く。


「及ばずながら、この徐福が貴女方のお相手つかまつります」


と卒塔婆を構える日陰。


……だが、動かない。構えたまま止まっていた。


「どうかしたの?」


「いえ、貴女一人ですか?」


「えぇ、そうよ」


どうやら今までのは舌戦のつもりだったらしい。だからこれから大軍を相手にする気でいた日陰は一向に来ない大軍に困っているようだ。


「……これだけ用意したのに………」


日陰は周りに刺さる卒塔婆の群れを見る。


「片付け大変そうだなぁ………」


基本的に一撃に掛ける日陰は敵の数だけ卒塔婆が必要なのだ。


「そう言えば洛陽でもその木っ端刺してたわね。それ自分でしてるの?」


「え、はい。少し早く来て刺してるんです。余ったら持って帰ったりもしますよ」


なにぶん資源は大切にですから、と言う日陰。


「………大変なのね、それ」


知らない所で努力している日陰であった。


「それにしても随分と喋るのですね、孫策さん」


「そうかしら?私はお喋り好きなのよ?」


「僕が聞いた話ではかなり好戦的な方だと………」


日陰としては時間稼ぎは喜ぶべきことだが………。


「………?」


とそこで袁術対劉備のところでどよめきが起こる。


「あれは………深紅の呂旗?」


そこにはなかったはずの呂の牙門旗がなびいていた。


「袁術ちゃん、あんな隠し玉を用意してたなんて………」


これは孫策も知らなかったらしい。


「あら、これじゃあ劉備も危ないんじゃない?助けに行ったら?」


「いいえ。あの場は劉備さんに任せて来ましたから……」


「あらそう………」


「ではこちらも始めましょう。仕方がないのでここにある卒塔婆は全て貴女に使うことにします」


「ふふ。殺さずに私が倒せると思ってるのかしら、“不殺”?」


「試してみますか?死なない恐怖を………」


「そうね。…………でも、残念」


もう終わりみたいよ、と孫策は笑った。


「―――第一陣、放てッ!」


そして孫策の後ろから大量の火矢が日陰へ飛来する。










後に呉の大都督と呼ばれる周瑜がただ単身で王を敵に向かわせるわけが無い。


洛陽での戦いで日陰のやり方を知っていた周瑜が取った策とは…………。


いたって簡単なことだ。卒塔婆を、得物を破壊することだ。


いくら日陰とはいえ無手で歴戦の英傑と渡り合えるほどの実力は無い。


だからこその火矢だ。木製の得物は燃やせばいい。


そして、もし戦闘になっても孫策だけなら日陰の攻撃を防げる。なんたって孫策は夏侯惇や張飛と同じ戦いの天才なのだから、火矢の準備が終わるまではしのげる。


そして時は満ち、策は滞りなく成功した。


日陰の周りは正しく火の海だった。







「さぁ、これで貴方の得物はそれ一本よ?どうするのかしら、“不殺”」


「…………」


燃え盛る卒塔婆を見つめる日陰。


その顔にはなんの表情も張り付いていない。


「―――変わりませんよ」


そして静かに言う。


「この場の卒塔婆を貴女に使うだけですよ………」


そして唯一無事である卒塔婆で孫策へ向かう。


――――バキッ。


「くっ!(重いっ)」


そしてそれを孫策は長刀で防ぐ。


「でもこれで得物は無くなっ………」


余裕の笑みを浮かべようとした孫策だったが、日陰を見た瞬間にそれは凍りつく。


「―――まだこんなにあるじゃないですか」


それは炎々(えんえん)と燃え盛る卒塔婆へ手を伸ばす日陰の姿だった。


「さぁ、まだまだあるんですから楽しんでいって下さいね、孫策さん」


ギラギラとした白銀の目をした日陰が孫策に笑い掛ける。


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