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18話 居眠りと鼻血






―――――――――――――――






何か騒がしい様子の曹操陣営。


それもそのはず、袁紹が手薄な関所に大軍を率いて来たのだから………。


それだけでも大事なのにも、その関所の責任者は援軍を寄越さないでいいと言ったのだ。


その事について夏侯惇と張遼が門前で言い争っていたが、だが曹操の鶴の一声でそれは解決した。


そして今、夏侯惇を除く魏の武将たちは大広間にて夏侯惇の帰りを待っていた。


その中には日陰の姿もあった。












「夏侯惇将軍、ただいま帰還されました!」


兵の一人がそう告げると大広間に夏侯惇と後ろから見知らぬ二人がついて現れる。


「春蘭、お帰りなさい。そしてその後ろの二人があの関所の指揮官かしら?」


帰還した夏侯惇に労いの言葉をかけ、後ろにいる二人を見る曹操。


「お初にお目にかかります、郭嘉と申します」


「程イクですー」


二人は膝をつき、答える。


その後、何故援軍を断ったかを説明する二人。


要約すると、袁紹軍の将軍たちの性格を考えるとあの場合は少数の兵の方が生存の確率は高いと読んだようだ。


中々の博打性の高い策だが、その次善の策も考えていたらしい。


こうして、曹操の陣営に郭嘉と程イクの二人の軍師が増えることとなった。


正式な挨拶は後日とし今日はお開きとなった。











「それでは桂花殿、これからよろしくお願いします」


今まで曹操軍では軍師は荀イクしか居らず、曹操や夏侯淵などが政務をこなしているとは言っても殆どは荀イクが管理していた。


そこで、荀イクの負担を減らす意味でも曹操は二人を採用したのだろう。


「ふん。精々、私の足を引っ張らないでちょうだい」


素っ気ない言い方の荀イク。


「それと……えぇと、貴方は?」


そして隣に控えている日陰に話を向ける郭嘉。


「あ、僕は…………」


「これのことは気にしなくていいわ。動く置物とでも思ってちょうだい」


日陰が何かを言う前に荀イクが言う。


「………と言うことで」


日陰もそれに従う。


「いや、それでよいのですか、貴方は?」


「確かー、徐福さん、と言いましたよねー」


呆れる郭嘉になにやらふむふむ言っている程イク。


「つまり、徐福さんは桂花ちゃんの間男と言うことですかー?」


「なッ!?なんで、そうなるのよッ!?」


「け、桂花殿と徐福殿が…………プハッ!」


荀イクが慌てて否定しようとした時、何を考えたのか、若しくは妄想したのか郭嘉が鼻血を吹き出す。


日陰はそれを布を取りだし、書簡に血が付くのを防ぐ。


「おぉ、手際がいいですねー、徐福さん」


「どうも。………それより、あちらはよろしいのですか?」


日陰はピクピクしている郭嘉を見る。


「そうでしたそうでした。稟ちゃん、トントンしましょうねー」


確かに仕事量は減るが、精神的疲労は増えるんじゃないか?と日陰は思ったりもしたのだった。









「ちょっと、それ取りなさい」


「はい、どうぞ」


最近、のび~るアームを使わなくても物を渡せるようになっていた。


荀イク曰く………。


「あれを使われるとまるで私が汚ならしいものみたいじゃない!」


とのことだ。


少しは距離が縮まったのだろうか……。


「失礼しますよー」


とそこへ程イクが入ってくる。


「ちょっとお借りしたい資料があったのですが…………お邪魔でしたか?」


「なんでそうなるのよ!?」


口に手を当てて、ニヤッとする程イクに荀イクが異議を立てる。


「いやー、男と女が部屋に二人っきりでやることと言えば、ねぇー」


からかう程イクに顔を真っ赤にする荀イク。


「なんで私が男なんかと………。私は華琳様一筋なんだから………ブツブツ」


「はい、お茶をどうぞ」


日陰は程イクにお茶を出す。


「どうもー。徐福さんは動揺しませんねー」


「荀イク様と僕は主従の関係ですよ?」


そして日陰はいつものように振る舞う。


「それで何の資料をお探しですか?」


「おぉ、そうでしたー。つい桂花ちゃんをからかうのに夢中で忘れてましたー。この辺りのを欲しいのですが………」


書簡に一覧が書き写してあるものを見せる程イク。


「ふむ。いくつかはここにありますが……。書庫の方が揃ってそうですね」


日陰は一覧を見ながら、そう言う。


「荀イク様、僕は書庫まで行って取ってきます」


未だトリップ中の荀イクにそう言って日陰は部屋を出ようとすると……。


「あ、では風も一緒に行きますよー」


と程イクもついて来ることとなったので執務室にある資料を持ち、二人は書庫へと向かう。










「それにしても徐福さんは変わってますよねー」


「何がですか?」


日陰は書庫にて資料を探している。


その後ろで程イクが足をぶらつかせながら訊ねてくる。


「確か、徐福さんは華琳様に仕官しているわけではないのですよねー」


「そうですね。僕は荀イク様を我が君とさせていただいてます」


「それは何故ですかー?」


「……………」


日陰は振り返り、程イクを見る。


程イクはペロペロキャンディーをくわえて目を細めていた。


何を考えているかは分からない。


「さて、どうしてでしょうね」


日陰も煙に巻く。


「おやや?徐福さんも中々意地の悪い方ですねー」


「まぁ、冗談ですよ。ただ僕は荀イク様をお支えしたかっただけですよ」


そうして再び資料を探し出す日陰。


「そうですね、もし僕が貴女と先に出会っていたら貴女に仕えていたかもしれませんね」


何故なら彼女もまた支える者であるから………。










「さて、これぐらいですね」


日陰は探し終えた資料を平積みにして一息つく。


「助かりましたー」


「それではお運びしますよ」


「あらら、そこまでしていただけるのですかー?」


「最初からそのつもりでついて来られたのでしょ?」


「さて、どうでしょうねー」












「……………」


「……………」


日陰たちは程イクの部屋に行く途中の廊下に“あるもの”を見つけ立ち止まっていた。


「………これ、なに?」


日陰にしては珍しく、困った表情をしていた。


「稟ちゃんですねー」


そう廊下の真ん中に郭嘉が倒れている。辺りに血を撒き散らしながら、しかもなにやら至福な顔をしているので、対処に困る。


「また妄想が爆発したのでしょうー。もう仕方ありませんねー」


と程イクは郭嘉の足を持ち、引きずり始める。


「いや、担架を持ってきた方が………。それにその先には段差が………」


――――ガタン。


流石の日陰もそれには少し慌てた。


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