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12話 徐福、捕虜になる








―――――――――――――――







―――――私の……………。







―――――私の…………何処だ。







―――――私の角は何処だぁぁぁぁ!!!!!!!!!









「――――ッ!?」


「お!?やっと目ぇ覚めたみたいやな」


日陰が目を覚ますとそこにはニカッと笑った張遼の顔があった。


「霞さ………?」


日陰が張遼を認識すると同時に自分の不具合に気がつく。


「まぁ、一応捕虜って形やから手足は縛らせてもらってるで。窮屈かもしれんけど堪忍な」


「…………」


座った状態で辺りを確認する日陰。


なのだが何故か眼だけが動く。


右へ左へ上へ下へ斜めへ。まるで意思を持つ人形のように。


どうやら天幕のようだ。


「ようやく気がついたようね」


とそこで張遼で隠れて見えなかったが、目の前には曹操が椅子に座って足を組んでいた。


「おはよう、と言えばいいのかしら?貴方、今の状況が分かるかしら?」


と足を組み替えて、曹操は日陰に問う。


なので日陰も率直に答えた。


「……下着が見えました」


「?…………ッ!?/////」


日陰は座った状態で曹操は少し小上がりな所に椅子に座っているのだ。見えて当然だろう。


まぁ、それを言ってしまう日陰もどうかと思うのだが………。


「改めて聞くわよ?今の貴方が置かれてる立場は理解してるかしら?」


スカートを押さえ、顔は真っ赤だったが物凄い覇気を出して問う曹操。


「………捕虜です」


ここで天丼をするほど、日陰は空気の読めない男ではない。


後、曹操さんは“絶”を仕舞うことを願います。


「……………」


日陰は考える、いや思い出す。


何故、自分はこの状況にあるのかを……。


「日陰は上から落ちてきた瓦に頭打って気ぃ失ったんや」


そんな日陰を見て、張遼が説明してくれた。


「あぁ、そうでしたか」


ようやく理解した。日陰にとって、今の状況よりも今までの経緯の方が気になるのだった。







「改めまして。僕は徐福です」


「我が名は曹孟徳よ」


改めて自己紹介をする日陰。


「それで何故僕は捕虜に?」


「敵将を捕らえるのはおかしいかしら?」


「普通は斬首ではないかと思いますが……」


「そうして欲しいならするわよ?」


ギラリと“絶”が光る。


「それでいいなら、それで」


対する日陰も自ずから首を出す。


「へぇ。死ぬ覚悟は出来てるのね。敵兵を殺さないからとんだ甘ちゃんかと思っていたのだけれど………。違うみたいね」


そういって“絶”を仕舞う曹操。


「ただの自暴自棄かもしれませんよ?」


相も変わらず、日陰は感情なく答える。


その眼は奈落の底の如く濁ってはいるが、はっきりとした意思で曹操を見ていた。


まるで何かを写しとるかのように………。


「面白いわね。霞と共に私に仕えないかしら?」


「―――僕が?……貴女に?」


その時、日陰の眼が微かに揺らいだ。


「貴女は何の為に戦うのですか?」


次に日陰が発したのはそんな言葉だった。


「腐敗したこの世の中を正すためよ。その為に私は覇道を進むのよ」


「それは何を犠牲にしても?」


「それでより多くのものを救えるのであれば」


まるで選定するかのように幾つかの質問を投げかける日陰。


その間、一切眼を離すことはなかった。


その不躾な視線も堂々と受け止め、答える曹操。


「………ふぅ。やっぱり、貴女は凄いですよ、曹孟徳さん。貴女は正に王です。正しく王であり、厳しく王だ」


そこで日陰は眼を瞑り、一息つく。


「貴女なら僕を上手く使えるのでしょうね。こんな“出来損ない”の僕を………」


ゆっくりと、噛みしめるように語る日陰。


それは予言するくだんのように。


それは宣託する白澤のように。


それは選定する麒麟のように。


「まさに王の器ですね。………でも―――」


ゆっくりと開かれた日陰の眼は奈落のような暗黒ではなく…………。


キラキラと、銀色。


ギラギラと、銀色。


まるで水面のようにキラキラと。


まるで刃物のようにギラギラと。


例えるなら、“鏡”のように―――。


「“私”は貴女には仕えない。否、使えない」


―――しゅるり。


日陰が立ち上がると、拘束していた縄がいとも容易くほどけ落ちる。


「“私”たちはもう既に必要ない。この世界には三人の王がいるのだから………」


民を憂い、想う仁義の王。


仲間を支え、守る侠義の王。


「そして、己の理念を貫く覇者の王」


ギラギラと光る瞳は真っ直ぐに、愚直に曹操を見据える。


「だからこそ、件は死に絶え、白澤は去り………そして麒麟は角を折った」


底の見えない暗黒な眼ではない。全てを見透かすような白銀の眼。


その眼に呑み込まれ、誰も口を挟めないでいた。


日陰はこの場を去るために踵を返した。











―――しかし、それだけではなかった。


「華琳様、事後報告に来ました」


バンと勢いよく入り口から荀イクがやって来た。


そして日陰と目が合う。


―――眼が遇う。


そして…………。


「僕は貴女に仕えます。我が君、荀文若様」


荀イクに膝をつき、かしずく日陰だった。


こうして、不殺ころさずの将は魏へと編入した。



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