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10話 洛陽門前にて








―――――――――――――――




袁紹軍陣内。


「斗詩さん、まだ洛陽へは入れませんの?わたくし、もうそろそろ飽きてきましたの」


「飽きてきたって………。それが中々難儀してるみたいなんです」


「なぁ~にを、たかが一人に手間取っているのですの!?それでも名門袁家の武将ですの?」


「それが…………」








袁術軍陣内。


「ウハハハ、七乃、はちみつ水を持って参れー」


「はーい、美羽さま♪」


これは間違い。





「ねぇ、冥琳」


「駄目だぞ」


「ぶーぶー。まだ何も言ってないわよ」


「どうせ、前に出たいと言いたいのだろ?」


「流石、冥琳。分かってるじゃない♪」


「だから、駄目だと言ったのだ。それにだな………」








義勇軍陣内。


「なぁ、桃香。あの門の前に立ってる人って………」


「多分、徐福さん……なのかな?」


「いや、俺に聞かれても………」


「おそらくはそうだと思いますよ、ご主人様」


「え!?愛紗ちゃん、見えるの?目、いいんだね~」


「いえ、そういうわけでは………」


「なら、訳を話して通してもらえないかな?」


「あわわ!?ご、ご主人様、桃香様、た、たた、大変ですぅ!」


「ひゃッ!?どうしたの、朱里ちゃん?」


「そ、それが………」








曹操軍陣内。


「へぇ、董卓にはまだあんな将がいたのね」


「霞、何故黙っていたのだ?まさか、貴様……」


「いや、ウチも驚いとんねん。まさか日陰が出てくるなんて思ってもおらんかったわ」


「どういうことだ?」


「あいつの名前は徐福っていうんやけど……」


「徐福?秦の時代の方術師の名ね」


「多分、同じ名前なだけやと思うで。それにアイツは馬の世話役なんや」


「はぁ?馬の世話役がなんで門前にいるのだ?」


「だから、ウチにも分からんって言うとるんや。まさか月がそない命令するわけもないやろし………」


「か、華琳様!?」


「どうかしたの、桂花?」


「そ、それが…………」









洛陽門前。


日陰は折れた卒塔婆をその場に捨てる。


「はぁ、諦めることは………無いですよね。まぁ時間さえ稼げれば僕はそれでいいので、精々こちらに目を奪われて下さいね」


日陰は連合軍を睨む。


いや、正確にはそうではない。


確かに目は、眼球は、瞳はそちらを見てはいるのだが、焦点は結ばれていない。


こんな戦場のど真ん中で他事を考えている日陰だった。


(そういえば華雄さんが『この戦いが終わったら絶対に勝負してもらうからな!約束だぞ!』って言ってたなぁ。どうしようかな………)


とそんな事を考えて、何十万といる連合軍に対峙している日陰だった。


「………まぁ、後のことは後で考えればいい」


そして日陰は地面に刺さった卒塔婆を一本引き抜く。


「聞け、連合の者よ。何故、宮中を踏み荒らそうとするか?如何なる理由があろうとも帝の鎮座する洛陽へ戦を持ち込むなど言語道断であるぞ。それを踏まえた上でもこの門を潜るというのであれば…………」


ビュンッと卒塔婆を一振り、横に薙ぐ。


「―――この場を死地と思うがいい」








「それでもう一度言ってもらえるかしら?」


連合軍では軍議が開かれ、そしてその場で曹操が発言する。


「あら、華琳さん、聞こえませんでしたの?背が小さいと大変ですわね」


「…………」


袁紹の言葉を軽く受け流す曹操。


――――ピクピク。


いや、微かにこめかみが動いていた。


「小さな華琳さんが聞き逃してしまったみたいですのでもう一度言いますわよ。…………全軍で門を突破しますわ」


『…………』


各陣営の代表者がその言葉に唖然とする。


門前の戦いでは戦える場所が限られてくる。2、3軍程度ならまだいいだろう。それを全軍で行うのだ。混沌とすることは火を見るより明らかだ。


しかも敵は1人なのだ。過剰すぎるだろう。


「ちょっと待てよ、袁紹。相手はたった1人なんだろ?それに全軍を当たらせるなんて大袈裟過ぎないか?」


公孫賛が全員を代表して言う。


「そうね。一騎討ちでもさせれば済むことでしょ」


それに曹操が乗っかる。


他の者も頷く。


「あぁ~。それがダメなんッスよ、それ」


それに文醜が答える。


「ダメって、どういうことなんですか?」


劉備が当然の疑問を持つ。


「それが――――」











「アタイは袁紹軍の二枚看板が一人、文醜だ。いざ、尋常に一騎討ちしようぜ!」


文醜が日陰の前に来て、高々とそう宣言する。それに日陰は…………。


「―――嫌です」


普通に拒否した。当たり前のように拒否した。







「―――てなわけで。普通、あの場面で断ると思いますか?そりゃないぜって感じだぜ」


「それなら一人で攻めにいってはどうなのだ?」


「どうもそれも無理っぽいんですよ」


代わりの提案をした周瑜に次は顔良が答える。


「一人で攻めていった場合、相手にしないんです。かといって門を通ろうとすれば邪魔をする。それでこちらも反撃しようとすれば逃げるばかりで…………」


「なんだそりゃ?相手は何がしたいんだ?」


「まさか我々の兵糧がなくなるのを待っているのか?」


公孫賛は呆れ、周瑜は相手の心理を推測する。


「ですから、わたくしが名案を申し上げましたでしょ」


「名案?愚策の間違いでしょ」


「なぁ~にか仰いまして、おチビさん?」


「おばさんはこれだから困るのよ。耳が遠くて敵わないわ。悪戯に我が兵を損う策など私たちは従わないわ。もうちょっとその足りない頭を使ってみたら?」


「きぃー!このおチビさんときたら!!」


「なによ、おばさん!!」


曹操と袁紹が睨み合う。


「ふん。もっといい策を考えてから呼んでちょうだい。私たちは戻るわ。行くわよ、桂花」


「御意」


そして曹操が席を立ち、軍議の場から去っていった。


「なら私たちも失礼させてもらおう」


と次に周瑜たちもその場から去る。


そしてなし崩しに軍議はお開きとなった。








曹操軍陣内。


「全くあんな馬鹿の下に付かなくちゃいけないなんて………」


軍議から帰った曹操は苛立たしげに言う。


「まぁ、いいわ。それで桂花、あの男を退かす方法は思いついたかしら?」


「……いえ、それが……」


自軍の筆頭軍師たる荀イクにそう訊ねるとなにやら渋い顔をする。


「こちらも間諜を放ち、調べてみたのですが、どうやら袁紹の考えもあながちち外れではないかと………」


「………それはどういうこと?」


「はい、それが門前に立つ男はどうやら一師団を相手取ってもあの場を引きはしなかったようなのです」


そう最初は、5、6人の小隊が当たった。そして次には倍の10人、そして更に倍、それが続き、今では一師団が当たっていた。


しかも、もれなく全員が戦闘不能状態になるというオマケ付きだ。


「そりゃ無理やで」


そこで横から入ってきたのは張遼だった。


「日陰――徐福はあの呂布とやり合う程の実力者や。一師団やろが一軍やろが軽くいなすことは容易いやろな」


「それは本当なのか、霞!?」


その話に食いついたのは魏の猪―――もとい大剣、夏侯惇だった。


「ホンマ、ホンマよ。呂布から直接聞いたんやから」


「それでは何故、武官でなく馬の世話役などをやっているんだ、そやつは?」


「ん~………よう分からんのやけど、戦うのが嫌いなんとちゃうか?ウチが話した感じはそんなんやったな」


それに、と話を続ける張遼。


「日陰が強いんは対多の時みたいやな。対一の時は顔良なんかとどっこいどっこいやと思うで」


「うん?霞、お前は先ほど呂布と同程度の実力者だと言わなかったか?」


「そやねん。よう分からんのやけど、日陰の強さって変わるんよ」


「変わる?それはどういうことだ?」


今まで黙していた夏侯淵までもがその話に食いついてきた。


「なんちゅうか、こう……相手が強ければ強いほど強いって言うか………。そうやな………鏡」


「鏡?」


「そうや、鏡や。自分を写す、言うんかな?呂布が言っとったんよ。まるで自分とたたこうとるみたいやったって………」


「相手によって強さが変わる、か………」


「……?なぁ、秋蘭。つまりはどういうことなのだ?」


話の流れがややこしくなり、どうやら理解出来なかった夏侯惇。


「つまりは強ければ強いほど燃える、と言うことだ、姉者」


「おぉ!?そういうことかッ!」


粗方をかみ砕いた説明に納得する夏侯惇。


「それでその男を退かすことは出来るの?」


一通り話を聞いた曹操は張遼へ問う。


「対多戦はむこうさんの土俵、かと言って対一ではこちらに分があるとは言い難しやで。無理ってもんやで、孟ちゃん」


「なら貴女が話をつけると言うのはどうかしら?」


と曹操は張遼へ言う。


「ウチがか?う~ん、どうやろか……。正直微妙としか言えんわ」


「構わないわ。出来ることなら捕虜にしたいわね」


イヤらしい笑みを浮かべる曹操。


「もしかして、孟ちゃん、日陰を軍に入れようとか思っとん?」


「えぇ」


『ちょ、華琳様!?』


と声を揃えたのは二人。曹操ラブな二人だ。あえて言わなくてもこの外史を見てる諸君なら分かるだろう。


「まぁ、実際に加えるかどうかはこの目で見て決めるとしましょう。霞、頼めるかしら?」


「了解や」


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