ダメなんだそうです。
どうも。佐倉こはくです。あの後こよりお姉ちゃんが電話一本入れただけで正式に戸籍上の家族になりました。
曰く、やることはやるけどユルい組織だからこのくらい問題無いとのこと。
でもチラリと聞こえた電話先の人が泣いていたように感じましたがどうなんでしょう?
この人に逆らったら大変なことになりそうですね。
どんなお仕置きされちゃうんだろうと考えたらゾクゾクしましたが
こよりお姉ちゃんに逆らうこと自体がありえないことでした。お姉ちゃんが一番です!LOVE!
「それにしても、こはくがあんまり舐めるからべとべとよ。お風呂入らなきゃね」
と、クスクス笑っていますが、おおおお風呂ですか!!健全な男の子としては湯上がり美人なお姉ちゃんを想像してそわそわしてしまいます。尻尾がピクピクしちゃいます!わふん!
「こはくも一緒に入るのよ?」
なんと!
「女の子の身体のことわからないでしょ?」
…そう、でした。僕女の子になっちゃったんだ。
今までも可愛い格好は好きだったけどいざ本当に女の子になるとなると別問題。以前は胸が無いと可愛くない服を衝動的に買ってしまってパットを着けるか真剣に一時間くらい悩んで諦めたものでしたが…。
あるんですよ。あくまでも男ですからやっぱりソレは不味いのではと悩むことが…。
と、耳も尻尾も萎れているとお姉ちゃんが申し訳なさを含ませながら撫でてくれます。
「ごめんなさい。でも、わたしは少し嬉しいところもあるの。こんな可愛い子がわたしの妹になったんだもの。」
泣き笑い。
そんな言葉が似合う今の表情で言われたら納得するしか無いじゃないですか。
今の身体で生きていくことに不満は無い。
この身体は狗神、もう人間じゃない。それに貰ったのは大切な名前と大切な居場所。心は男だけど今度はもっと可愛い服も着れると前向きに考えればいいじゃないか。
決意し、伝えようとお姉ちゃんを真っ直ぐみて口を開く。
ぐるきゅ〜〜っ!!!
「……。」
「………。」
「お腹…空いたのね?」
「…はぃ。」
「先にご飯にしましょう。」
そっか、狗神だったもんね。と呟きながら真剣な様子で歩きだすこよりお姉ちゃんについていくと台所には大きな冷蔵庫。
家庭用とかじゃなくてお店のキッチンに置いてありそうなソレ。
開くと中には鮮やかな赤一色。
赤いのが大きな冷蔵庫いっぱいに敷き詰められている。
「コレは…」
「お肉よ。」
うん。見れば分かる。
確かに美味しそうなお肉だ。スーパーとかで見るパックのお肉と比べ明らかに鮮度が違う
でも…
これは酷い。
「お姉ちゃん!」
「ん?」
「そこに正座!」
「えっと…どうしたの急に?」
「いいから!」
毛を逆立てながら言う。身体に良くない。野菜もしっかり取らないと駄目だ。女の子の身体について詳しくはないけど明らかに健康に良くない。お姉ちゃんキレイなんだからもっと考えないと駄目だよ。そんなんだから…
「こはくさん?」
「何ですか!」
「コレあなたの分。まあ支部長がお肉しか用意しなかったのは悪いと思うけど。あとここわたしの家じゃないから誤解しないで。野菜ちゃんと食べてるから」
どういうことなんだろう。じゃあここは何処で、何で僕はお肉?野菜は?
視線で問いかけたことが分かったのかゆっくりと答えてくれた。
「まず、ここはこはくの為にウチの支部長が用意した部屋なの。」
「…怪奇何とかの?」
「怪奇現象保全事務局ね。保護した怪奇に住みやすい場所を提供するのも仕事の一つ。まぁ、こはくはコレからわたしと暮らすから必要無いんだけどね。本題はここから…」
それからはお肉の説明。
狗神はその存在の成り立ちから飢餓感が強く、とんでもない大食漢になるそうだ。もの凄い量のお肉も二、三日もつかすらわからない。
そして、普通の犬と同じで玉葱や茸なども駄目。
死ぬことは無いけど軽い貧血くらいにはなる。
でも、高カロリーで消化不良とかは無いから食べられるものも結構あるそうだ。凄くショックだ。
「玉葱が駄目…」
「そんなに好きだったの?」
玉葱が大好きという訳じゃない。だけど玉葱が入っている料理で大好きなものがあった。茸のソースかけるものもある僕の大好物。
「…ハンバーグ。」
ショックで凹んでいると
こよりさんが微笑みながら少し待っていてと部屋から出ていってしまった。どうやら外へ行くらしいけど
見送りする元気は無かった。
それから数分
僕は未だに動けずにいると勢い良くドアを開けたこよりさんが汗だくになりながら帰ってきた。手にはビニール袋を下げている。
「さ、作るわよ!」
つ…くる?
袋から取り出すのは卵とパン粉。そして巨大冷蔵庫の下段からは大量の挽き肉。
「味覚も変わってるからきっと美味しいわよ?シェフの腕は普通だけどね」
そう言ってチラリと舌を出すこよりお姉ちゃんに抱きついた。
確かに辛かったけどこんなに急いで汗をかきながら僕の為にしてくれるこよりお姉ちゃんが嬉しくて涙が止まらなかった。
「もう、作れないでしょ
座って待ってなさい。」
こくりと頷いて待つ。でも嬉しくて嬉しくて、尻尾だけは振ってしまった。
いい匂いをさせながらお姉ちゃんも鼻歌を歌って楽しそうだ。
「そう言えば…」
フライパンに大量のハンバーグを焼きながら此方を向かずに聞くこよりお姉ちゃん。
「さっき、《そんなんだから…》のあと何て言おうとしたの?」
「…なんだっけ?」
「忘れちゃったならいいわ。もう少し待っててね」
上機嫌にまた鼻歌を歌いながらお皿に盛り付けていくお姉ちゃん。
嘘です。本当は覚えていました。《そんなんだから恋人出来ないんじゃないの?》なんて酷いことを思ってしまったなんて。
気が付いて無いみたいだけど今のこよりお姉ちゃんはさっき僕がいっぱい舐めて髪の毛もくしゃくしゃ、スーツもしわしわ。
それで全速力で買い物する女性。
もしかしたら引いていた男性もいたかもしれませんが…。
「ほら、出来たわよ。食べましょ?」
「わふん!」
そんなお姉ちゃんが大好きです。
普段うちで作るハンバーグは挽き肉と卵とパン粉に玉葱なんですけど他の家はどうなんでしょうかね?
それと焼いた後の肉汁でソース作ります。