家族ができました。
ところで、こよりさんは美人である。
初めて見たときはその、あまりに過激な…紫色のアレとかこぼれ落ちそうな果実に同様してしまったので、ホントいろんな意味で天女さんな印象が強かったのですが、今目の前で若干凹んでいる最中の彼女は一流企業のオフィスとかにいそうなキャリアウーマンを思わせる格好だ。(徹夜明けの)が頭につきそうなくらい暗くなってはいるけど…
クリーム色の髪を結わえて琥珀色のバレッタで留めている。
僕の身長は160に少し届かないくらいなのですが、それよりも目線が少し高め、スラリとした長い手足と抜群のプロポーション。濃紺のパンツスーツにキリリとしたややつり目の栗色瞳は隙のない感じがして独特の色気を感じる。
そんなこよりさんが責任を取ってくれる。それを聞いただけでさっきまでの涙目な僕と打って変わって今は隠しきれない嬉しさで尻尾がブンブン、耳がピョコピョコと忙しなく動いている。
やっと自己嫌悪から回復したこよりは爛々と輝く瞳と激しく動くフワフワの尻尾の狗神の子を見て一昔前の庇護欲を誘う小型の愛玩犬の出てくるCMを連想した。
「ちょっと待ってね、今考えを纏めるから」
ピタッ。
そんな効果音が似合うように尻尾の動きが止まる。
しかし、狗神の子に対する今後の対応を考えるあまりこよりは気がつかなかった。
思考の海より浮上したのはそれより5分ほど経った頃だ。
狗神の子はピクリとも動かず、しかし黒曜石の瞳からウルウルと雫が零れ落ちてきそうだ。
(…なにこのカワイイいきもの)
今すぐ撫で繰りたい衝動に刈られる。
確かにわたしは≪少し待って≫と言ったが何故こんな表情をして固まっているのだろう?
そこに一つの閃きが浮かぶそして、冗談半分に
≪よし。≫
と言ってみた。
ブンブンブンブン!
≪まて。≫
ピタッ!
≪よし!≫
ブンブンブンブンブン!
≪まて!!≫
ピタッ!!!
さっきまでの難しい顔は何処へやらニヤつきが止まらない。
まさか、いくらなんでも狗神そのものとなった少女(元少年)が飼い犬のように自分の言葉を待っているとは思わなかった。
ここで、お手、おかわりと言うのはベタすぎる。
そうわたしは怪奇現象保全事務局の一流保護官。ここでの正しい言葉は分かっている。
冷静に、タイミングを見極め
それは…
「GO!!」
その言葉を聞いた途端目視出来ないくらいのスピードで僕はこよりさんに抱きついた。そして顔をペロペロ。もう邪なことも考えず本能的にこよりさんに愛情表現をする。
クリーム色の髪はみはみ。こよりさんはくすぐったそうに身動ぎをしているが笑顔。
それが堪らなく嬉しくていとおしくて今度は彼女のバレッタに頬を擦り付ける。自分の存在を刻み付けるようにすりすりと夢中になっていると彼女の声が身体の芯、僕の存在に突き刺さるように、けれど優しい声音で一言
「こはく」
全身が震えた。この感覚。この感情は――。
「キミの新しい名前は≪こはく≫でどうかな?他にも考えてはいたけど今のキミを見ていたらわたしのバレッタを偉く気に入っているようだったから…どうだろう?」
歓喜だ!
心、いや、魂を揺さぶるような歓喜によりいっそう彼女にすりつく。
「あっ!ちょっとこら!やめっ」
制止の声が聞こえたがこよりさんの声も笑っているのでこれはOKだろう。
僕は嬉しくてたまらない、コレがこの世で名付けられた僕の存在証明なのだから。
「ねぇ、こはく」
そこで一度溜めたあと
「わたしの家族にならない?」
「か…ぞく?」
「ええ、コレがわたしに出来る一番の責任かなって」
と、いうことは…
「こより…ママ?」
「お、お姉ちゃんじゃダメかな?」
「こよりお姉ちゃん!!」
こうして僕に新しい名前と家族が出来た。
僕はこの瞬間を忘れない。昔のことは少しずつなくなっていくだろうけれど
この瞬間だけは、
僕の魂が、存在が、そして、あの時の子犬がここに確かに存在して。世界で一番大好きなお姉ちゃんと出会ったのだから。
「こよりお姉ちゃん、もし僕がバレッタにすりすりしなかったらどんな名前を考えてたの?」
「ん〜ボブか、ダニーかポチで最後まで悩んでたけどやっぱりダニ…「こはくっていい名前だね!!」
大好きなお姉ちゃんはセンスが無いらしい。
どんどん幼く犬化していくこはくちゃん。
もうコレホントにTSモノなのだろうか?