眠れません。
もしかしたらR15?
刺激かどうかは読み手さん次第かと。
狗神の少女は、過去の自分に起きたことを既に朧気にしか思い出せないでいる。
人と云う存在を喰われたかつて少年であった彼女は佐倉こはくとしての存在が確立しているからだ。
もっとも、趣味趣向の類いで強く心に残っているものは記憶していたりする。
少年の趣味、自分を可愛く着飾ること。可愛いものを集めたがること。
俗に云う女装癖と呼ばれるものだ。
女装、と聞くと忌避する者も多いだろう。
かつての少年も悩んでいないわけではないが、好きなモノは諦めることは出来ずまた、早くに事故で両親を亡くしていた彼を止める者はいなかった。
ただひとつ、恐るべきことは影で可愛いものを愛でることを人生の清涼剤とする佐倉こよりをもってしても彼を彼と認識せず彼女と勘違いさせたことである。
さて、ここまで長らく語ったのはこはくが以前どのような人物だったかを知ってもらう為で其を踏まえて考えて欲しい。
時刻は夜。こよりの家、今はもうこはくの家でも有るのだがそのベッドの中に案内されたこはくは背中ごしに伝わる女性の温もりと甘い匂いを感じる。
―――つまりは、
「寝れるわけないよ…」
この一言に尽きるわけだ。女装癖が有ろうと中身は男。男は狼なのよ。と昔の歌にも有ったがこはくは狗神で現在は女の子である。
やり場のない悶々とした気持ちの中必死に九九を呟いて誤魔化そうとしたり、素数を数えたり色々やった。しかし、寝ているこよりの悩ましげな寝息や時折寝相で絡み付いてくる攻撃にこはくは息も絶え絶えだ。
―――極めつけは、
「ひゃうっ!…くぅっ……はぁっ、はぁっ……」
寝惚けたこよりが耳をあま噛みしてきたことである。少し面白そうなので観察してみよう。
耳を食まれたこはくは尻尾をブルりと震わせるとパクパクと口が閉じなくなり、声にならない声を上げる。それが暫く続き、急速に高まってくる感じたことのない形容しがたい恐怖感。
もう声を出すことが出来なくなり尻尾の毛がざわざわと逆立つ。
がりっ。
次の瞬間、こよりの歯が耳を強めの力で食む鋭い感触がはっきりと伝わってきた。痛みはない。ただ耳が焼けたように熱い感覚が感じられるだけだ。
「あ……あああぁぁ―――ッ!」
その感覚が深みまで達したと感じた時、犬耳少女の全身がビクンと震えた。大きく見開かれた深く輝く瞳、開かれた口からは犬歯が煌めき――こはくは意識を手放した。
香ばしい生地の焼ける香り。
窓から射す暖かい光にこはくの意識は水面にゆっくりと浮かんでくる小枝のように浮上した。
寝る前の記憶は白い煙のようなモヤモヤがかかりいまいち思い出せない。
ただ、こよりの家に居るのはわかる。
匂いに釣られてフラフラと歩く彼女にこよりがミルクを差しだし、顔を洗ってくるように告げる。
うなずき、コップを手渡され座る。
にちゅ。
お尻を椅子につけるとパジャマから伝わる不快な感触がした。
「ひゃうっ!」
驚きの声を上げ盛大に自分の持っていたミルクを被ってしまった。
「あらあら、寝惚けてるからって大丈夫?お風呂沸いてるから先に入ってらっしゃい」
「…はぃ……くしゅんっ」
朝からやらかしてしまった自分に盛大に自己嫌悪になりながらさっきのが何が考えて顔を真っ赤にさせるこはくであった。




