5話目 ~無料で貰えるほど甘くない 中篇~
この作品は、失業給付金の受給方法を小説風にまとめたものです。
実際の手続きを行う場合、詳細などは最寄りのハローワークにお問い合わせ頂くよう、よろしくお願い致します。
私と正登は夕飯を食べ終わると、のんびりとテレビを見ていた。
私としては、ニュース番組がみたかったのだけど、正登がどうしても観たい番組があると言ってきかないのでそちらを観る事にした。
まぁ、バラエティ番組なんだけどね。
「そういえば優希姉……」
「何?」
「昼間の話の続き、しなくていいの?」
「そういえばそうね」
私は自分のお茶を飲み干した後、急須に入っていた茶がらを捨て、新しく茶葉を入れてお湯を注いだ。そのほんの一瞬の間、何故かテーブルの上には煎餅が入っている受け皿が用意されていた。
「……何でそれがあるの?」
「いや、この話をする時の定番かなと思って」
「まぁ、いいけどね」
話す前に一口お茶を飲んだ。これで準備万端。
「で、お昼はどこまで話したんだっけ?」
「えっと、給付制限期間と仕事がある状態についてだった気がする」
驚いた。まさか正登がここまで覚えているなんて。自分の興味ないことは一切覚える気がなかったのに……。
「優希姉……俺、何か間違った?」
「えっ……?」
正登の声で我に返った。よく見ると正登が凄く怯えている。
「ううん、当たってる。よく覚えていたね」
「本当に……?」
「本当よ。というか、何でそんな怯えているのよ」
「いや、凄い勢いで俺を睨んでいたから……」
いけない。
多分今までの不満が顔に出ていたのかも知れない。いや、可愛い弟に不満なんてないはずなのに。
「そんなことないよ」
「本当に本当……?」
「本当よ。お姉ちゃんを信じなさい」
「……わかった」
何か引っかかるような気がするけど、まぁいいわ。ここでこんなことを追求しても時間の無駄だし。
「じゃあ、簡単でいいから説明してごらん」
「うん。えっと、給付制限期間っていうのは……」
・給付期間は3ヵ月
・これは就業者が自己都合退職した場合にかかる制限
・会社都合で退職した場合はこの給付期間はかからない
「そうね。正登の場合は自己都合退職になるから給付期間がかかるというわけ」
「3ヵ月かぁ……長いな」
「文句を言わないの。じゃあ次は仕事がある状態ね」
「うん。仕事がある状態っていうのは……」
・仕事したとき
・再就職(パート・長期アルバイト・契約社員なども含む)
・日雇い・臨時・短期アルバイト
・自営業をはじめた(準備期間も含む)
・会社役員に就任(収入や報酬の有無は問わない)
「その通り。要するに、少しでもお金が発生するような事をしたら『仕事がある』という状態に見られるわけ」
「……あのさ、質問があるんだけど」
「何かしら」
「仕事をしたらその時点で基本手当は打ち切りになるの?」
「まぁ、一概にそうとは言えないんだけど」
「そうなの?」
「じゃあ、そのあたりについてちょっと説明しましょうか」
再びお茶を飲んで呼吸を整える。ちょっと長丁場になるので事前に体制を整えたいのよね。割と複雑な部分だし。
「軽く復習。基本手当、つまり失業保険給付とは何?」
「えっと、仕事を探してる人の生活を安定させるために給付されるんだっけ?」
「その通りよ」
正登がちょっと胸を張る。
「で、当然仕事見つかるまで支給されるんだよね?」
「そんなわけないでしょ。ちゃんと支給される日数は決まっているわよ」
「えっ?そうなの?」
「あんた……本気でそう思ってたの?説明会で言ってたでしょ?」
「……あぁ、何か言ってた気がするなぁ」
私は思わずため息を漏らす。どうして正登はこうなんだと考えてしまいそうになるが、それを言及したとことで時間の無駄なのは明白なので、正登が覚えていることを前提で進めていくことにした。わからなければ向こうから質問してくるでしょうし。
「で、再就職すれば収入が発生するわけだから支給する必要がなくなるわけ」
「じゃあ、やっぱり打ち切られるんだ……」
「まぁ待ちなさい。まだ話の続きがあるわよ」
「?」
「実は、早期就職を促すために別の支援制度があるのよ」
「どんなの?」
「こんなのがあるわ」
・再就職手当支給
・常用就職支援手当支給
・就業手当支給
「これらはどう違うの?」
「ちょっとややこしいけどね。こんな違いがあるのよ」
・再就職手当支給
普通に再就職したとき
・常用就職支援手当支給
就職したときに一定の年齢以上(※条件あり)や障害があるなど、再就職が困難な人
・就業手当支給
1年を超えないような短絡的な就業
簡単だけどさらっと説明して、お茶を飲む。さすがにここまで説明すると喉が渇く。きっと正登も頭から煙が昇っているだろうし。
「……ふぅ、たまには煎餅以外のも食べたくなるわね」
何となく正登に話を振ってみた。しかし返事がない。私はもう一度だけ声をかけてみる。やっぱり返事はなかった。不安になった私は正登に視線を向けた。
「ちょっと!大丈夫!?」
完全に思考が停止している正登の姿があった。頭から煙が昇っているとかではなく、完全に停止している状態になってる。
「……ん?」
「正登……大丈夫?」
「うん」
「そ……そう」
いつものテンションやノリがない分、怖いというか不気味に感じさせた。例えるならば嵐の前の静けさ。これ以上の説明を行うのは危険であると判断した私は、正登に入浴することを勧めた。ここで壊れたらもっと大変なことになるのは目に見えている。
正登が浴室に行ったことを確認した後。
「この量が……限界ね」
無意識のうちに言葉が出ていた。
まぁ、正登の学習限界容量も確認できたし、それにあわせて教えていけばいっか。
その思う事にした私は、お茶を飲みきった。
さて、もう一杯飲もうかしら。