1話目 ~退職しました~
この作品は、失業給付金の受給方法を小説風にまとめたものです。
実際の手続きを行う場合、詳細などは最寄りのハローワークにお問い合わせ頂くよう、よろしくお願い致します。
「優希姉、俺、仕事辞めたから」
「……はい?」
開口一番、私にとって理解し難い言葉が出てきた。
「俺、仕事辞めた。昨日で」
「ちょっと……正登。あんた何勝手な事……」
「俺さ、バンドやる事にした!」
最早、私の声など届いていない。仕事を辞めた後の自分の姿、おそらくはバンドで大成功した姿を妄想して盛り上がっていた。
「……まぁ、正登の人生だからいいけどさ。それより、これからの生活はどうするつもりよ?」
「優希姉にた……」
「断る。出てけ、今すぐここから出てけ」
多分、これが脊髄反射というやつだろう。言葉を全て聞く必要はなかった。
「じょ……冗談だって。働くけど、前の所見たいに残業大安売りみたいなところじゃなくて、定時で終われる仕事をしたくてさぁ」
溜息を吐いた。
「あんたねぇ、このご時世すぐに次の仕事が見つかると思ってるの?新卒の人間ですら、就活留年するぐらいなのよ」
「……な、なんとかなるって」
正登の渇いた笑い声。これは完全に勢いで辞めたタイプだ。
「で、どうなのよ?」
「何が?」
「貯金よ、貯金。次の仕事が見つかるまでの間、十分に食べていけるだけの貯金はあるんでしょう?」
正登が私から視線をそらした。仕方がないので、強制的に私に視線を向ける様に頭をがっちりと固定してあげた。正登の首がら鈍い音がしたけど、聞こえなかった事にした。
「十分に食べていけるだけの貯金はあるんでしょ?」
「……いえ、ありません」
ほんの少しだけ、正登の頭を掴んでいる手に力を込める。
「もう一回チャンスをあげるわ。十分に食べていけるだけの貯金はあるんでしょ?」
「……ごめんなさい、ありません」
再び溜息を吐いて、正登を解放する。
「どうするつもりなのよ?仕事もないし、お金もない。私だって、自分で食べていく分で精いっぱいなのに」
「その事について、お姉さまにご相談したくて……」
「あんたってば……まぁ、方法はあるにはあるけど……」
「ホントっ!?是非ともその方法を教えて下さい、御姉様!!」
仕方ない。
こんな男でも、私にとっては可愛い弟だ。しっかりと方法を教えてやりましょうか。