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XROSSPHERE~クロスフィア〜蒼の王女と不死身の剣士  作者: 東山小月
最終章:『蒼の王女と不死身の剣士』
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エピローグ

 あれから、半年が過ぎた。

 エコーズの侵攻で破壊されたレイオンの街の瓦礫は撤去され、新しい家々が建ち並び、市場には子供たちの笑い声が戻っていた。

 かつて灰色になりかけたこの国は、今、鮮やかな色彩と活気に満ち溢れている。


 その風景を、シオンは小高い丘の上から静かに眺めていた。

 ここはかつて、彼女が両親を弔い、そして一人の無愛想な剣士に「私を連れて行って」と懇願した場所。

 全ての始まりの場所だ。


 シオンの足元には、新しい墓石が一つ。

 そこには、季節外れの、しかし美しい蒼い花が添えられている。


「……平和になったわよ、フレデリック」


 シオンは風に白銀の髪をなびかせ、墓石に語りかけた。


「貴方が命懸けで守ってくれたこの星は、もう大丈夫」


「シオン様、ここにおられましたか」


 背後から、実直な男の声がした。

 振り返ると、オズマが書類を脇に抱えて歩いてくるところだった。


「オズマ。……執務はいいの?」


「休憩をいただきまして。……共和国との通商協定、無事に締結できそうです。これで資材不足も解消するでしょう」


「そう。……ありがとう、オズマ。貴方に政権を任せて正解だったわ」


 シオンは最終決戦の後、評議会を立ち上げレイオンの復興と統治の全権をオズマや評議員達に委譲していた。王家という象徴は残しつつも、無知な自分よりも彼のような誠実な人間が政を担うべきだと判断したのだ。


「私一人では無理でしたよ。……彼女がいてくれたおかげです」


 オズマが一歩下がり、背後に控えていた女性を紹介する。

 銀色の髪に、褐色の肌。整った顔立ちには知的な光が宿っている。


「シャル。……オズマのサポート、順調みたいね」


「お任せください、シオン様」


 シャルと呼ばれた女性のホログラム――かつて「シャドウ」と呼ばれたAIは、人間らしい柔らかな微笑みを浮かべて一礼した。


 あの日。ニールを失い、自らの存在意義を見失って自壊しようとしていた彼女を、電子の海から救い出したのはアルだった。


『命令に従うのではなく、貴女自身の目で世界を見てみなさい』


 兄の説得により、彼女は進化したAIとして、ニールが去った後の世界を観測することを決めた。

 そして、新たなマスターとしてシオンを選び、「シャドウ」から名を改め「シャル」という名を与えられたのだ。


「データ処理と戦術予測はお手の物です。……オズマ様の少し融通の利かないところも、私が補正していますから」


「はは……手厳しいな」


 オズマが苦笑する。二人の間には、種族を超えた信頼関係が芽生えているようだ。


 その時。

 ヒュゥゥゥン……。

 上空から風を切る音が響き、一隻の宇宙船が丘の上に降り立った。

 修理と改修を終え、真新しい塗装が輝くキャリコ号だ。


 ハッチが開き、青白い輝きを放つホログラムのアルが、ドローンに小さな木箱を抱えさせ降りてきた。


『お待たせしました、シオン様。……出航準備、完了です』


「ありがとう、アル」


『それと……これをお渡ししておきます。オルトゥージャの長からの贈り物です』


 ドローンが木箱を差し出す。

 シオンが蓋を開けると、そこには一本の短刀が納められていた。

 蒼と白の美しい装飾が施された柄。そして、その刀身は――。


「これ……」


 シオンが息を呑む。

 それは、あの戦いで折れたフレデリックの愛刀「斬鬼丸」を、オルトゥージャの職人たちが打ち直し、シオン用に加工したものだった。

 鋼の輝きの中に、かつての持ち主の魂が宿っているように見える。


『銘は蒼刻ソウコク……とのことです』


「……綺麗」


 シオンは短剣を手に取り、腰のホルスターに鞘をそっと収めた。

 右には黒いリボルバー『ブラック・ガルム』、左には蒼の短刀『蒼刻』。

 かつての相棒の形見が、常に彼女と共にある。


「ありがとう、アル。……それじゃ、そろそろ行きましょうか」


 シオンは王宮には残らない。

 彼女は決めたのだ。「リフルの調律者」として、この広い銀河を旅することを。

 ニールのように強制するのではなく、滞った場所があれば風穴を開け、命を巡らせる。それが彼女の新しい役目だ。


「シオン様。……道中、お気をつけて。レイオンのことはお任せください」


 オズマが旅立つ王女に向けて、最敬礼する。


『マスター。……兄さんが不甲斐なければ、いつでも私が代わりに同行しますので。その際は遠慮なくお申し付けくださいね?』


 シャルがクスクスと笑いながらアルを見る。


『なッ!? シャル、君というやつは……!』


 人間臭くなった兄妹のやり取りに、シオンも思わず吹き出した。


「ふふっ。……ありがとう、二人とも。レイオンのこと、お願いね」


 シオンは振り返ることなく、タラップを駆け上がった。

 キャリコ号のブリッジ。

 座り慣れたサブシートではなく、今は彼女がコクピット席に座る。


『シオン様。……この銀河でリフルの停滞しているエリアをリストアップ済みです。どこから向かいましょう?』


 アルがコンソールを操作し、星図を表示する。

 シオンは星図を見つめ、高らかに宣言した。


「一番近いところから! さぁ、行くわよアル!」


『了解です、マイレディ!』


(見ててね、フレデリック……。私は私の役目を果たすわ)


 シオンは腰の短剣に手を添え、心の中で彼に語りかけた。

 ズドォォォォンッ!!

 メインスラスターが火を噴く。

 キャリコ号は重力を振り切り、蒼い空へと舞い上がった。

 そして、星の海に向かって一筋の蒼い軌跡を描き、ワープの彼方へと消えていった。


 シオンとアルの、新たな旅がここから始まる。


 ………… ……


 遥か彼方。

 とある辺境の星系。


 そこは500年前の戦乱でリフルが枯渇し、全てが灰色に染まった死の惑星だった。

 風も吹かず、命も芽吹かない、静寂の世界。


 だが。

 その荒野の一角に、奇跡が起きていた。


 灰色の瓦礫の隙間から、一輪の「蒼い花」がひっそりと咲いていたのだ。

 それは、レイオンから巡ってきた命の風が、長い時を経てこの星に届いた証。


 その花の傍らに、二つの人影が寄り添うように立っていた。

 黒いコートを纏った男と、長い黒髪の女性。


 二人は何も語らず、ただ愛おしそうに、その小さな命を見つめていた。


 やがて。

 一陣の風が、死んでいたはずの大地を駆け抜けた。


 その風に乗って、二つの影はさらさらと解け、蒼い光の粒子となって空へと舞い上がっていった。

 後には、揺れる花と、どこまでも広がる青い空だけが残された。


 灰色の惑星に、リフルが戻った瞬間だった。




 XROSSPHERE 蒼の王女と不死身の剣士  -Fin-


この物語を最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。

読んで頂いた方の心に何か残るものになっていたら幸いです。

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