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XROSSPHERE~クロスフィア〜蒼の王女と不死身の剣士  作者: 東山小月
第六章:『監獄の死闘、芽生える疑心』
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第二十九話

 アルの警告通り、大気圏に突入した瞬間、世界が一変した。


 ガガガガガッ!!


 船体が悲鳴を上げるような激しい振動。窓の外は、視界を遮るほどの暴風雨だ。


『外気温、上昇中。大気成分は高濃度の硫酸。風速は秒速200メートルを超えています』

「硫酸の雨に、竜巻みたいな風……!?」

『シールド出力、80%……70%。酸性雨による腐食が想定以上です。外壁が持ちません』


 警告音が鳴り響く。

 船体のきしみは激しさを増し、装甲の表面がジュウジュウと音を立てて溶け始めているのが、船内モニター越しにも分かった。


『シオン様、最短ルートで降下します。……少し揺れますよ』

「少しで済むの!?」

『善処します!』


 アルがスラスターを全開にする。キャリコは暴風に逆らい、垂直に降下を開始した。

 だが、前方から巨大な影が迫る。暴風に巻き上げられた岩塊だ。


『障害物接近! 回避不能!』

「させない!」


 シオンは座席から立ち上がり、両手を窓に向けた。

 脳裏に浮かぶのは、フレデリックとの特訓。感覚を研ぎ澄まし、船の外へと意識を飛ばす。


(イメージして……蒼い炎を、槍のように!)


「はぁっ!!」


 シオンの掌から放たれた蒼い閃光が、船外で蒼い炎を形成し迫りくる岩塊を直撃した。

 轟音。岩は瞬時に粉砕され、熱で蒸発していく。


『ナイスショットです、シオン様!』

「まだ来るわよ! 右舷、3時方向!」

『了解! 操舵、右へ30度!』


 アルが神業的な操縦で風の切れ目を読み、シオンが蒼い炎で道を切り開く。

 かつてフレデリックと背中合わせで戦った時のように、今の二人もまた、言葉を交わさずとも呼吸が合っていた。

 酸の雨を切り裂き、岩の弾幕を突き抜け、キャリコは一直線に地表を目指す。


『シールド残量5%……外壁限界まで、あと30秒!』

「見えた! あのドームよ!」


 紫の霧の向こうに、巨大な黒いドーム状の施設――タルタロス監獄の威容が現れた。

 その下部にある排気ダクトを目指す。


『システムハッキング完了! 防護シールドを強制開放します!』


 排気ダクトを守るように展開されたバリアが消失し、キャリコは滑り込むように突入した。


 ズザザザザッ……!


 火花を散らしながら、船体は排気ダクト内の床を滑り、ようやく停止した。

 静寂が戻る。

 外の暴風雨の音が、分厚い壁の向こうで唸っているのが聞こえる。


「……生きてる?」

『バイタル正常。船体損傷軽微。……完璧な着陸とは言えませんが』


 アルのホログラムが、どこか誇らしげに親指を立てたように見えた。


『お見事でした、シオン様。貴女の援護がなければ、今頃私たちは酸の海に沈んでいました』

「ふふ、貴方の操縦も悪くなかったわよ、相棒」


 シオンは汗を拭い、ニカっと笑った。

 その笑顔は、いつの間にかフレデリックのそれに似てきていた。

 二人は顔を見合わせ、頷き合う。

 地獄への侵入は成功した。次は、この広い迷宮からガレッゾを見つけ出し、真実を吐かせる番だ。


          *


 排気ダクトを抜け、シオンはタルタロス監獄の内部通路へと降り立った。

 無機質な灰色の壁。冷たい金属の床。空気は澱み不快な臭いが漂っている。

 ここは銀河最悪の犯罪者たちが収容される、絶望の檻だ。


『右へ。15メートル先に巡回ドローンが2機。……3、2、1、今です』

「了解」


 シオンはアルの指示に従い、物陰を縫うように疾走した。

 ドローンのセンサーが背後を通過していく。本来なら感知されるはずの距離だが、アルがリアルタイムでカメラ映像をループさせ、センサーを欺いているのだ。


「ありがとう、アル。貴方がいてくれて心強いわ」

『お礼は脱出後に。……シオン様、緊急事態です』


 アルの声色が硬くなった。


『タルタロスのメインサーバーより、入港データを傍受しました。上部ドックにエコーズ艦艇が接舷しています』

「エコーズが?…どうしてこのタイミングで…」

『ただの視察ではないようです。乗船しているのは「エコーズ特務部隊」。……全身を戦闘用義体に換装した、戦闘のエリート集団です』

「特務部隊……!?」


 シオンの背筋に悪寒が走る。そんな危険な部隊が、なぜここへ?


『目的は「重要参考人ガレッゾの身柄引き渡し」。……彼らは、ガレッゾを連れ出しに来たのです』


 エコーズが特務部隊を使ってでも口封じをしないといけない情報をガレッゾが持っている。そう考えるのが妥当だった。もしかするとフレデリックの居場所だけではなく、更に重要な情報を得られるかもしれない…シオンは思考を巡らせていた。


「急ぎましょう! 彼らが接触する前にガレッゾに会わないと!」

『了解。最短ルートを検索……セキュリティ・ゲート、強制解錠!』


 シオンは通路を蹴った。腰の『ブラック・ガルム』に手をかけ、行く手を阻む警備ドロイドを次々と撃ち抜いていく。

事前に戦闘訓練を行ったことで問題なく『ブラック・ガルム』を扱えている。

 しかし、喜びはない。腕に響く重い反動、その痛みさえも今の彼女には焦りを加速させていた。


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