第二十六話
地下ドックの奥にある作戦会議室。薄暗い部屋の中央に設置されたホログラムテーブルを囲むように、シオン、アル、長、そしてオルトゥージャ重工の幹部技師たちが顔を突き合わせていた。
空気は重く、しかし停滞はしていない。そこにあるのは、困難なプロジェクトに挑む職人たち特有の、静かな熱気だった。
『……状況を整理します』
アルがテーブル上に銀河マップを展開する。無数の星々が光の粒子となって浮かび上がる。
『この三日間、私は銀河共和国およびエコーズのネットワークに対し、バックドアを用いた深層ハッキングを行いました。目的は、行方をくらませたカルマンディとフレデリックの所在特定です』
アルの指先が動くたびに、膨大なデータログが流れては消える。
『ですが、奴らは完全に足跡を消しています。船籍IDの偽装、囮ルートの使用、あるいは亜空間通信の封鎖……。広大な銀河のどこに潜んでいるのか、現在の情報だけでは特定不可能です』
「クソッ、逃げ足の速い野郎だ」
技師の一人が悪態をつく。フレデリックを見つけ出さなければ、救出作戦など立てようがない。手詰まりかと思われた。
『ですが、一つだけ――』
アルが言葉を続けようとした、その時だった。
「……いるわ。一人だけ、彼らの居場所を知っているかもしれない人物が」
シオンが鋭い声で遮った。彼女はアルの言葉を待つまでもなく、自分の頭でその答えにたどり着いていたのだ。
『……ほう?』
アルが試すように片眉を上げる。シオンは、忌々しい記憶を呼び起こすように、その男の名前を告げた。
「ガレッゾよ」
『……正解です。シオン様』
アルは満足げに頷いた。
『私も同じ結論に至り、すでに検索を終えています。ガレッゾはカルマンディファミリーの構成員です。彼はカルマンディの拠点、あるいは連絡手段を知っている可能性が極めて高い』
『そのガレッゾの現在地ですが……ここです』
アルがマップの一点を拡大表示する。そこに映し出されたのは、荒涼とした岩肌に覆われ激しい嵐が吹き荒れる死の星だった。
『エコーズに囚われたガレッゾは現在「監獄惑星タルタロス」に収監されています』
タルタロス。絶対脱出不可能の要塞監獄だ。
「潜入でもせんかぎり話を聞くことすらできないわけか……」
長が重い溜息をついた。情報源は、あまりに分厚い壁の向こう側にある。
だが、シオンの瞳は揺らがなかった。彼女はテーブルに両手をつき、身を乗り出した。
「会えないなら、会いに行くしかないわ」
「お嬢ちゃん、まさか……」
「忍び込むのよ。こっそり入って、情報を聞き出して、こっそり出てくる。……簡単なことでしょう?」
シオンは不敵に笑ってみせた。その無茶苦茶な論理、リスクを顧みない発想。それはまるで――。
『……ふふっ』
アルが電子的な笑い声を漏らした。
『驚きました。今の言い回し、マスターにそっくりですよ』
「え……そ、そう?」
シオンが少し赤くなる。
アルの言葉に、部屋の空気が緩んだ。長も、呆れたように、しかし嬉しそうに髭を撫でる。
「違いない。……だが、それは共和国への明確な反逆行為だ。王女様がそんなことをして、タダで済むとは思えんが」
「構いません」
シオンは即答した。
「フレデリックを助けるためなら、泥棒にでも反逆者にでもなるわ。……それに、この国のみんなには迷惑はかけない。私とアルだけでやるから」
「何を水臭いことを!」
長が一喝した。彼は立ち上がり、シオンの肩を強く叩いた。
「相手はあのフレデリック様を捕まえた連中だ。生半可な装備じゃ返り討ちに遭うぞ。……俺たちを誰だと思ってる? オルトゥージャの職人だぞ! 守り神様の船を最高の逸品に改造してやるさ!」
技師たちが次々と声を上げる。彼らは共和国の法など気にしていない。彼らにとっての法は、義理と人情、そして「英雄への恩」だけだ。
「皆さん……ありがとう」
シオンは深く頭を下げた。こうして、前代未聞の「監獄惑星侵入作戦」の幕が上がった。




