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XROSSPHERE~クロスフィア〜蒼の王女と不死身の剣士  作者: 東山小月
第四章:『銀色の死神、分かたれる絆』
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第二十話

 黒煙がドックを支配していた。

 右舷を大きく抉られ、傾いたキャリコの姿は、まるで翼を折られた鳥のようだった。


「ッ……! シオン、下がってろ!」


 フレデリックはシオンを背に庇い、油断なくリボルバーと刀を構えた。

 二人の視線の先。爆心地に佇む銀色の影が、ゆっくりと首を傾げる。

 感情のないレンズアイが、獲物を値踏みするように明滅した。


 ブォン、という低い駆動音と共に、銀色の胸部装甲が展開される。

 空間にホログラムが投影された。映し出されたのは、腕を組み値踏みするような視線でこちらを見据える男――カルマンディだ。


『やあ、ご両人、ご機嫌いかがかな?』

「カルマンディ……!」


 フレデリックが睨みつけると、男は愉快そうに笑った。


『そう殺気立つな。私はビジネスの話をしに来たのだよ。……単刀直入に言おう。その「秘宝」と、そこにいる「王女様」を渡したまえ、支払いはクレジットを言い値で払おう』


 フレデリックが鼻を鳴らす。


「断ると言っ――」

『まあ、君が取引に応じる訳はないな。時間が惜しい――ゼロ、王女を確保しろ、男は殺せ』


 フレデリックが言い終わるのも待たず、カルマンディは命令を下す。

 ゼロと呼ばれた銀の死神。その動きは、引き金を引くよりも早かった。


「――ッ!?」


 フレデリックの動体視力ですら、銀色の閃光を捉えるのがやっとだった。

 ゼロが消失したかのような超高速移動。

 本能で刀を盾にする。ガギィンッ!! という凄まじい衝撃音が響き、フレデリックの体が紙切れのように吹き飛ばされた。


「フレデリック!」

「来るなッ!!」


 壁に叩きつけられたフレデリックが叫ぶ。だが、ゼロは既に次の動作に入っていた。

 流体金属の腕が鞭のようにしなり、シオンへと迫る。


「させません!」


 シオンは蒼い炎の障壁を展開する。銃弾さえ蒸発させた絶対防御。

 だが、ゼロの銀腕は炎をものともせず突き破り、シオンの腹部を殴り飛ばした。


「が、はっ……!?」


 シオンの身体が宙を舞い、コンテナの山へと突っ込む。


『シオン様!』


 アルの悲痛な叫びが響くが、今の彼にはハッキングによる支援すら封じられているようだった。


「貴様……よくも!」


 フレデリックが吼える。リボルバーの全弾を発射し、リロードも待たずに斬りかかる。

 至近距離からの45口径弾と、鉄骨をも断つ斬撃の嵐。

 だが、ゼロはそれを避ける素振りすら見せなかった。

 弾丸は銀色の装甲に弾かれ、刃は流体金属に受け流される。


(硬いだけじゃない……! 攻撃の衝撃を逃がしてやがる!)


 これが、最新鋭の殺戮兵器。

 ガレッゾ戦で見せた連携など、児戯に等しい圧倒的な暴力。

 ゼロが無造作に裏拳を放つ。それだけでフレデリックの肋骨が砕け、血反吐を吐いて崩れ落ちる。


「……あ、う……」


 瓦礫の中で、シオンが身じろぎした。

 蒼い炎を灯そうとするが、腹部に受けたダメージと恐怖で炎は頼りなく揺らぐだけだ。

 ゼロが、無慈悲にシオンへと歩み寄る。その右腕が、巨大な銀色の槍へと変形していく。


『殺すなよゼロ。手足の一本や二本なら構わんがな』


 カルマンディの無慈悲な指示が響く。

 銀色の槍が、動けないシオンの太腿を狙って振り上げられた。


「や、やめ……」


 シオンが絶望に瞳を見開いた、その時。


「――俺のツレに何しやがる!」


 ドサッ、という鈍い音。

 シオンを庇うように、ボロボロのコートを纏った背中が割り込んでいた。


 ――グシャアアアッ!!


 肉が弾け飛び、骨が粉砕される嫌な音がドックに木霊した。

 ゼロの槍は、フレデリックの胸部を貫通し――そのまま上半身の半分を吹き飛ばしていた。


「フレ、デリック……?」


 シオンの顔に、温かい液体が降りかかる。

 それは紛れもない、彼の血だった。

 心臓も、肺も、生きるための機関がすべて消し飛んでいる。誰がどう見ても、即死だった。


 ホログラムの向こうで、カルマンディが満足げに頷く。


『フン、盾になったか。……まあいい。回収しろ』


 だが。

 その命令が実行されることはなかった。


 ザザッ、ザザザッ……。

 肉塊となったフレデリックの身体から、青白いノイズが奔ったのだ。


『……なんだ? あの光は』


 カルマンディが怪訝な声を上げる。

 次の瞬間、世界にエラーが生じる。


 飛び散った血肉が、映像を逆再生するように収束していく。

 砕けた骨が繋がり、失われた臓器が虚空から再構成され、吹き飛んだ皮膚が瞬きする間に元通りに縫合されていく。

 ナノマシンによる修復? いや、違う。

 あれは「治癒」ではない。「因果の巻き戻し」だ。


 ――リセット完了。


「……ッ、はぁッ!!」


 何事もなかったかのような五体満足の姿で、フレデリックが大きく息を吸い込んだ。

 死の苦痛だけを脳に焼き付けられ、脂汗を流しながらも、その瞳には凶暴な光が宿っている。


『ば、馬鹿な……!?』


 カルマンディの仮面が剥がれ落ち、驚愕の声が漏れる。


『上半身が消し飛んでいたはずだ! 如何なるナノマシンでも、コアとなる脳や心臓がなければ再生などあり得ん! 貴様、一体……何なんだ!?』


 理解不能な現象を前に、カルマンディの論理が崩れ去る。

 フレデリックは口元の血を拭い、ニヤリと笑った。


「死にたくても死ねないんでな…!」


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