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XROSSPHERE~クロスフィア〜蒼の王女と不死身の剣士  作者: 東山小月
第四章:『銀色の死神、分かたれる絆』
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第十八話

「――シオン、左だ! 合わせろ!」

「はいっ!」


 荒野にフレデリックの鋭い咆哮が響く。

 三体の機械兵が殺到する中、フレデリックは漆黒の外套を翻し、右手で腰の刀を抜刀。鋭い斬撃で一体を両断しつつ、左手の銀色の大口径リボルバーを放つ。

 轟音と共に二体目の頭部が吹き飛ぶ。

 だが、残る一体がその隙を突き、フレデリックの背後へと回り込む。


(今!)


 シオンは意識を極限まで集中させ、右手を突き出した。

 掌から迸った蒼い炎は、螺旋を描いてフレデリックの身体を避けるように湾曲し、背後の敵だけを正確に呑み込んだ。

 敵影は断末魔もなく、蒼い光の中で霧散していく。


『MISSION COMPLETE』


 無機質な電子音と共に、荒野の景色がノイズのように揺らぎ、真っ白なグリッド線が走る無機質な空間へと変貌した。


「……ふぅ。やりました、フレデリック!」

「悪くない。タイミングも出力も完璧だ。まさか10日間でここまで仕上げてくるとはな」


 現実世界――キャリコのリビングルーム。

 ソファに深く座っていたシオンとフレデリックは、同時にヘッドギア型の端末を外した。

 こめかみに電子端子が埋め込まれたその特殊なヘッドギアは、脳波に直接映像と感覚を送り込む最新鋭の訓練装置だ。


「それにしても、このシミュレーターは便利だな。身体を動かさずに、脳だけで実戦経験を詰め込める」


 フレデリックは手元のヘッドギアをまじまじと見つめた。


「前にニールの野郎が『最新鋭の疑似戦闘訓練端末だ』とか言って寄越してきた時は、何の嫌がらせかと思ったが……」

「とてもリアルでした。炎の熱さも、敵の殺気も、肌で感じるほどで」

「ああ。脳の感覚野をジャックして、幻覚を現実だと誤認させる仕組みらしい。おかげで効率よく連携を叩き込めた」


 フレデリックは満足げに頷くと、大きな掌でポンとシオンの頭を撫でた。


「合格だ、シオン。今の動きなら、実戦でも俺の背中を任せられる」

「せ、背中を……」


 不意の褒め言葉と頭を撫でられた感触に、シオンの頬がカッと熱くなる。


「あ、当たり前です! 私だって、いつまでも守られているだけの足手まといではいたくありませんから!」

「ハッ、言うじゃないか」


 照れ隠しに早口になるシオンを、フレデリックが楽しげに見下ろす。

 その時、リビングルームに白いローブを纏った青年のホログラムが展開されアルの声が響いた。


『お楽しみのところ失礼します。お二人とも、そろそろデート気分から切り替えてください』

「デ、デートではありませんっ!」

『はいはい。本船はまもなく、目的宙域に到達します』


 アルの声色が、冗談めかしたものから事務的なトーンへと切り替わる。


『前方に見えるのが惑星ギブロプスⅡ。通称――アビスマーケットです』


 シオンは表情を引き締め、ヘッドギアをテーブルに置いた。

 特訓の時間は終わりだ。

 ここからはリセットの効かない、命懸けの「現実」が待っている。

 奪われた秘宝と、新たな敵が待つ戦場への扉が、今開かれようとしていた。


          *


「セキュリティ・ゲート、解錠。ルートはクリアです。どうぞ、お進みください』


 アルの冷静なナビゲートと共に、重厚な隔壁が音もなくスライドする。

 惑星ギブロプスⅡの地下深くに広がる巨大闇市場、アビスマーケット。その裏ルートである通風孔を抜け、シオンとフレデリックは疾風のように通路を駆けていた。


 目前に現れた警備ドローンが銃口を向けるよりも速く、フレデリックの『斬鬼丸』が閃く。両断され転がる機械にも目もくれず、シオンは躊躇いなく踏み込む。

 恐怖はない。背中には彼がいる。その確信が、シオンの脚を前へと進ませていた。


 ――作戦は、アビスマーケット到着の直前に立案された。


『正面からオークションに参加するのは下策です。敵は既に網を張っているでしょう』


 キャリコの操縦席のコンソールで、アルは地図データを展開しながら告げた。


『ですので、私が「囮」になります』

「おとり?」

『私のホログラム機能でシオン様の姿を投影し、オークション会場へ潜入します。敵の注意が其方に集まっている隙に、お二人は警備が手薄になった保管庫へ向かい、秘宝を奪還してください』

「なるほど。お前なら、いざとなればドローンを破棄して逃げられるってわけか」

『ご明察です。奪還後は速やかに離脱。追手に関しては、ニール様の手配で近隣宙域に展開しているエコーズ艦隊に座標を送信し、迎撃させます』


 現在、アルの操る偽のシオン王女は、会場でカルマンディの目を引きつけているはず。

 通路の奥、厳重なロックが施された「保管庫」の扉が見えてくる。


『アラート解除。……保管庫オープン』


 扉が開く。その中央の台座に、青白く輝く宝玉が鎮座している。

 レイオンの秘宝だ。

 シオンが駆け寄り、その冷たい感触を手に取った瞬間――。


「――待っていたぞ、クソ忌々しい王女様ァッ!!」


 轟音と共に、保管庫の壁が粉砕された。

 土煙の中から現れたのは、レイオンでシオンの母を屠った多脚戦車だった。しかし、以前のものから改修が施され、数段大きくなったように見える。

 そのコクピットハッチが開き、薄汚れた男――レイオンを襲撃したガレッゾが顔を出した。周囲には武装した構成員たちも展開し、一斉に銃口を向けてくる。


「ガレッゾ……!」


 シオンは自身の中で憎悪が沸きあがるのを感じていた。


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