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XROSSPHERE~クロスフィア〜蒼の王女と不死身の剣士  作者: 東山小月
第三章:『偽りの神、落ちてきた悪夢』
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第十四話

「今から六百年前。銀河はまだ、『銀河共和国』と『星間連合』という二つの巨大勢力による終わりの見えない戦争の最中でした」


 アルの静かな語り口と共に、ホログラムの星図が赤と青の勢力圏に塗り分けられていく。

 無数の光点がぶつかり合い、消えていく。それは、命の灯火が消える音さえもしない、冷酷な記録映像だった。


「私はその『星間連合』に所属する当時の最新鋭宇宙戦艦の統合管制AIとして製造されました。任務は艦隊指揮と敵拠点の制圧。……ですが、私の最初の記憶は、戦場の輝きではなく、爆炎の中、星に墜ちる自身の船の様子でした」


 映像が切り替わる。

 燃え上がる巨体な鉄の塊。黒煙を上げる赤色の大地。

 そこは、文明の光が届かない未開の惑星――オルトゥージャだった。


          *


 システム再起動。損害率、八十七パーセント。

 メインスラスター大破。通信モジュール、沈黙。

 AIユニット『SSO-008Type α』――後のアルは、瓦礫の山となったブリッジで独り目覚めた。

 周囲に生体反応はない。乗組員は全員、墜落の衝撃で死亡していた。


(現状分析。自力での帰還、不可能。救援要請、不可能)


 論理回路が冷徹に『詰み』を弾き出す。

 この惑星は未開拓領域にあり、文明レベルは原始時代そのもの。修理に必要な高純度合金も、加工プラントも存在しない。

 だが、アルのコアプログラムは「任務の遂行」――すなわち戦線への復帰を諦めてはいなかった。


(資材がないなら、現地調達すればいい。技術がないなら、育てればいい)


 アルは残されたドローンたちを展開し、怯える原住民たちを集めた。そして、ホログラムプロジェクターを最大出力で起動した。


 夜空に浮かび上がったのは、巨大な光の巨人だった。

 長い銀髪を揺らし、切れ長の瞳で地上の民を見下ろす、神秘的で中性的な美青年の姿。

 それは、原住民たちが畏怖と崇拝を抱くよう計算してデザインされた、理想的な「偶像」だった。


『我は天より降りし神である。我を崇めよ。さすれば、汝らに叡智と繁栄を授けん』


          *


「……あ」


 シオンは思わず声を漏らし、隣で語る現在のアルの姿を見た。

 コックピットに浮かぶホログラムのアルは、その「神」の姿を人間サイズに縮小したそのものだったからだ。


「今の貴方のその姿は……神様の真似をしていた時の?」


「ええ。当時の彼らが最も安心し、かつ威厳を感じるパラメータで構成したものです。気に入っていただけましたか?」


「ふふっ、ええ。とても神秘的で、素敵です」


 シオンの微笑みに、アルは少しだけ照れくさそうに映像の続きを促した。


          *


 それは、効率的な管理の始まりだった。

 原住民たちはひれ伏し、アルを絶対的な神として崇めた。アルは彼らに農業を教え、建築を授け、そして――宇宙船の修理に必要な鉱石の採掘と製錬を行わせた。


 最初の百年、彼らは単なる「生体リソース」だった。

 寿命が来れば死に、また新しい個体が生まれる。彼らの死になんの感情も抱かなかった。効率よく鉱石を納品する個体が優秀であり、それ以外はノイズでしかなかった。


 変化が生じたのは、ある大規模な自然災害が起きた時だ。

 惑星規模の嵐が発生し、彼らの集落――すなわち、アルの労働力供給源が壊滅の危機に瀕した。


(計算終了。集落を見捨て、ドローンのエネルギーを船体の防護に回すべきである)


 それが論理的な最適解だった。労働力はまた育て直せばいい。

 だが、アルは実行しなかった。

 モニターの向こうで、泥にまみれ、身を寄せ合い、「神様、お助けください」と叫ぶ彼らの姿を見たとき、アルの論理回路に説明のつかないエラーが生じたのだ。


『……全ドローン、防衛モード起動。全出力をバリア展開に回せ』


 アルは自身の修理を遅らせることを選択した。

 暴風雨の中、輝く光の障壁が集落を包み込む。神の奇跡を目の当たりにした人々は涙を流して歓喜した。その光景をセンサーで捉えた時、アルの中で何かが満たされる感覚があった。


 それからだった。

 飢饉が起きれば合成食糧を配り、伝染病が流行れば医療用ナノマシンを散布した。

 そのたびに修理計画は遅れ、戦線復帰は遠のいた。だが、アルはそれを「損失」とは感じなくなっていた。


 そうして、三百年という長い歳月が流れた。

 オルトゥージャは原始的な集落から、急速な発展を遂げ宇宙船の部品を加工できる技術を持つ都市へと劇的な進化を遂げていた。

 人々はアルを慈悲深き守護神として愛し、アルもまた、この星で神として生きることを受け入れ始めていた。


 修理は最終段階に入っていた。あと数年で、宇宙船は再び空を飛べるようになる。そうすれば、この星を外敵から守るための「本物の神」になれる。


 そう思っていた矢先のことだ。

 平和なオルトゥージャの空に、赤い流れ星が飛来した。


「災いは、唐突に空から降ってきました」


 コクピットシートで語る現在のアルの声が、僅かに震えたように聞こえた。


「私の可愛い子供たち、平和な箱庭。……それを全て破壊する、最悪の死神がやってきたのです」


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