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XROSSPHERE~クロスフィア〜蒼の王女と不死身の剣士  作者: 東山小月
第二章:『美しく醜い世界』
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第十一話

 無機質な広間に、乾いた電子音が響いた。

 ホールの天井から投影された巨大なホログラム。そこに映し出されたのは、タブレット端末を片手に、退屈そうに数値をチェックしているカルマンディの姿だった。


『――やあ。エコーズの番犬とレイオンの王女、私はカルマンディだ』


「あなたが……!」


 シオンはフレデリックの背後からその映像を睨みつけた。

 カルマンディは視線を上げず、事務的な口調で続ける。


『単刀直入に言おう。ガレッゾの不始末は、我が社の管理不足だ。そこで提案がある。……シオン王女、君が我々と専属契約を結ぶなら、ガレッゾの身柄を引き渡してもいい』


「……契約?」


『ああ。君の持つ「特殊な生体情報」と、レイオンの資源採掘権。それらを我が社に提供してほしい。君には相応のロイヤリティと、レイオン復興や発展のための資本を約束しよう。……ウィン・ウィンの関係だと思わないか?』


 シオンは拳を握りしめた。

 この男は、略奪も、誘拐も、すべてを「商売」という言葉で塗り固めている。そこには被害者への共感も、命への敬意も一切ない。


「……お断りします」


『ほう? 条件が不満かな』


「貴方が見ているのは『数字』だけです。そんな男に、父が守ったレイオンの未来は売り渡せません!」


 シオンは一歩前に出て、凛と言い放った。


「私の要求は変わりません。ガレッゾの身柄と、奪われたレイオンの秘宝を返しなさい! それが唯一の条件です!」


 無機質な広間に、カルマンディの大きなため息が響いた。


『……非合理的だ。感情で利益を捨てるリーダーは、組織を壊滅させるよ……国もまた然り』


 カルマンディが、カメラ越しに冷ややかな視線を送る。


『交渉決裂だ。これ以上の対話はコストの無駄だな。――確保しろ』


 ガガガガガッ!!


 無感情な号令と共に、周囲を取り囲んでいたドローンと構成員が一斉に発砲を開始した。

 交渉の余地など最初からなかったかのような、機械的な殲滅行動。


「チッ、真向から啖呵を切ってどうすんだ!」


 フレデリックがシオンを抱き寄せ、近くの柱の影へと滑り込む。

 コンクリートの柱が瞬く間に削られ、粉塵が舞う。


「ご、ごめんなさい! でも……!」


「謝ってる暇があったら頭を低くしろ! アル、退路検索!」


『敵包囲網、密度上昇中。……厳しいですね、正面突破しかありません』


 フレデリックはリボルバーを連射しながら身を乗り出し、正確無比な射撃でドローンを撃ち落とす。だが、敵の数が多すぎる。


(私のせいだ……)


 シオンは唇を噛んだ。

 自分が無鉄砲に突っ込んだせいで、罠だと知りながら飛び込んだせいで、フレデリックを窮地に追い込んでいる。このままでは、ジリ貧だ。


(私が……やらなきゃ!)


「……はぁぁぁぁっ!」


 シオンは叫び、フレデリックの制止を振り切って柱の影から飛び出した。

 自身の持つ力を最大限集中させ、掌から蒼い炎を解き放つ。


「おい、待てお姫様! ペース配分を考えろ!」


「くらえぇっ!!」


 シオンの声と共に、蒼い炎が津波のように広間を薙ぎ払った。

 構成員たちが悲鳴を上げながら吹き飛び、数機のドローンが熱で溶解して爆発する。

 圧倒的な破壊力。戦況は一瞬で覆ったかに見えた。


「はぁ……はぁ……ッ!」


 だが、代償は大きかった。

 感情に任せた力の放出。シオンは膝をつき、激しく肩で息をした。

 視界が揺らぐ。動けない。


 その一瞬の隙を、敵無人機は見逃さなかった。


『目標、沈黙。――自爆シークエンス承認』


 瓦礫の山から、半壊したドローンが一機、赤いランプを激しく明滅させながら飛び出した。

 狙いは、動けないシオン。


「――っ!?」


 シオンが顔を上げる。

 目の前まで迫った死の赤色。避けられない。


「チッ、世話の焼ける……!」


 ドローンがシオンに激突する直前、黒い影が横から割り込んだ。

 フレデリックだ。

 彼はシオンを突き飛ばし、自らその爆発の中心へと身を投げ出した。


 ドガァァァァァァァンッ!!


 鼓膜をつんざく爆音。

 シオンは爆風で転がりながら、見た。

 炎と黒煙の中で、フレデリックの上半身が弾け飛ぶ様を。


「フレデリック……!?」


 絶望が喉に張り付く。

 だが、次の瞬間。

 煙の中から、蒼白い光りが明滅するのが見えた。


 シュゥゥゥゥッ!!


 逆再生の映像のように、飛び散った肉片が瞬時に収束する。

 白煙の中から現れたのは、傷一つない姿で再生したフレデリックだった。

 彼は再生したばかりの腕でリボルバーを構え、爆発の余韻に紛れて残っていた敵を次々と撃ち抜いていく。


 ズドン! ズドン!


「……いってぇな、クソが」


 全滅。

 静まり返った広間で、フレデリックは首をコキリと鳴らした。

 シオンは腰を抜かしたまま、声なき声を漏らす。


「あ……ああ……そんな」


「アル! ルート確保できたか!」


『はい、搬入用エアダクトが開きました! 急いで!』


 フレデリックは呆然とするシオンの腕を乱暴に掴み、引き立たせた。


「行くぞ! 増援が来る前にずらかる!」


「あ……は、はいっ!」


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