第九章:龍の門の彼方
《龍の門》を越えた瞬間、玄耀は目を見張った。
そこは、現実の理から外れた空間だった。
空は深い蒼に満ち、無数の星々が、まるで生きているかのように光の川をなして流れている。
地面はなく、ただ光の道が、遥か彼方まで続いていた。
そして、その道の先──
玉座に座るひとりの存在がいた。
黒衣に身を包み、黄金の王冠を戴く者。
その姿は、静寂そのもの。
顔立ちこそ玄耀に似ていたが、その瞳には、世界そのものの悲哀が宿っていた。
──真の王
彼は、静かに玄耀を見つめていた。
「来たか、継承者よ」
声は、直接心に響いてくる。
玄耀は、剣を握りしめながら、問いかけた。
「あなたが……この地を創りし王か?」
王は、わずかに首を振り、深い溜息と共に続けた。
「我らは――龍脈より生まれし存在。世界そのものが意思を持ち、王を必要としたのだ」
(世界そのもの……?)
玄耀は困惑した。
王は続ける。
「かつて、世界は均衡していた。だが、文明が進み、人が力を求めるにつれ、龍脈は乱れた。それを正すために《王》という存在が生み出された」
「……じゃあ、王は世界の代弁者ってことか?」
「そうだ。我らの使命は、均衡を保つこと。だが──」
王は、低く微笑んだ。
「力を持った者が、必ずしも賢者とは限らない」
過ち。
欲望。
裏切り。
それらが《王》自身をも蝕み、黒翼の騎士団を生んだ。
世界を護るはずだった者たちが、世界を壊す者へと変わった。
そして、王自身が過ちの果てに迷い、選ばなかったのは“人を許す決断”だった。
だからこそ、賢者になれなかった王は、自らを封印した。
「次なる継承者が現れる、その時まで」
玄耀は、剣を地に突き立てた。
「……俺がその継承者だっていうのか」
「否、お前が選ぶのだ」
王は、玉座から立ち上がった。
マントが、星々を払うように揺れる。
「継ぐか、拒むか。守るか、壊すか。世界の均衡を担うか、己の信念を貫くか。すべては、お前自身の意思に委ねられる」
その言葉と共に、王の掌に黒い光が収束し、──一振りの剣が現れた。
漆黒の剣、《黎明の刃》。
「さあ、玄耀よ。我がすべてを超えてみせよ」
雷鳴のように響く声とともに、王は剣を振るった。
刹那、空間が震え、光の道が割れる。
玄耀は、己の剣を引き抜いた。
(ここで、終わらせる……!)
運命に導かれた、戦いが始まった──




