第八章:忘れられた王都
──朽ちた王都
荒野を越えた先に、それはあった。
かつてこの地を治めた古代王朝の中心、今は誰にも忘れられ、瓦礫と化した都。
玄耀は、剣を杖にして、瓦礫の海を踏みしめた。
空はどこまでも灰色。
風に乗って、誰かの囁き声が聞こえる。
──裏切り者
──裁きの時
──王を守れ
まるで亡霊たちの声が、都の空間に絡みついているようだ。
(……ここに、“王”がいるのか)
玄耀は、奥へと歩を進めた。
そして、半壊した聖堂の前に立った瞬間──
「よく来たな、継承者よ」
白銀のローブを纏い、静謐な佇まいの男が現れた。
背後には淡い輝きを放つ《龍の門》、まるで門そのものが生命を持つかのようだ。
「我が名は、セフィロス。かつて、王に仕えし《竜印の従者》のひとりだ」
彼は淡々と語り始める。声色は穏やかだが、言葉の一つ一つが重く、過去の重責と後悔を孕んでいた。
玄耀は剣を構えた。
「“王”とは何だ?なぜ、黒翼が俺を襲った?」
聖堂の奥、崩れかけた柱の間から差し込む光が、セフィロスの白銀のローブを淡く照らしていた。
「それを知るには、語らねばなるまいな。すべての始まりを」
そう言ったセフィロスの声は、まるで時の底から響いてくるようだった。
玄耀は剣を下ろし、静かに息を整えながら彼を見つめた。
「始まり?」
セフィロスはうなずくと、目を細め、かつての光景を想い出すかのように空を見上げた。
「遥か昔、この地には“光の王”がいた」
セフィロスの声が、風に溶けるように響く。
「彼は龍脈を操り、世界を繋いだ。均衡の象徴──だった」
玄耀は眉をひそめる。
「……地脈と天脈を束ねる力。それが《龍脈》か」
「そうだ。だがその力は、同時に呪いでもあった」
セフィロスの声がわずかに沈む。
「王の周囲には、多くの才ある者たちが集った。私もそのひとりだ。だが……その中に、龍脈の力に魅入られた者たちがいた。
彼らはこう考えた。王など不要だと。
“力を持つ者こそが、この世を治めるにふさわしい”と」
玄耀はその言葉に驚きを隠せなかった。
「……それが、黒翼の騎士団?」
セフィロスはうなずいた。
「かつて王の守護者だった彼らは、やがてその誓いを裏切った。
王都は夜に包まれ、血と炎に染まった。
民は死に、龍脈さえも乱れた。
王は選ばねばならなかった。彼らを討ち、均衡を保つために……だが──」
玄耀は背筋が寒くなる思いがした。
「だが?」
セフィロスは悲しげに笑った。
「王は“選べなかった”のだ。
彼にとって彼らは、ただの反逆者ではなかった。
信じてきた仲間であり、この地を共に守ってきた戦友だった。
その情が、王の手を止めた」
「……だから、滅んだ」
玄耀の言葉に、セフィロスはうなずいた。
「いや、滅びることを──選ばせられた。
王は自らの罪として《龍の門》を封じ、自身を眠らせた。
世界の均衡を再び図る“継承者”が現れる、その時まで」
「……だったら、あの黒翼の騎士も」
「そうだ。かつての王の騎士たち──彼らは“護る”という誓いに、今も囚われている。
だがその誓いはもはや、意味を失っている。
王の意思を見失った今、彼らは継承者を試す“影”となったのだ」
玄耀は冷徹な目でセフィロスを見据えた。
「……試したのか。俺を」
セフィロスは、静かに玄耀を見つめた。
「継承に相応しき者かを確かめる。それが彼らに残された、最後の“正義”だった。
……痛ましいことだが、それが現実だ」
玄耀は目を伏せたまま、拳を握った。
黒翼の騎士――あの強さの奥に、そんな哀しみがあったのか。
ただ敵だったわけじゃない。
彼らもまた、迷い、捨てきれなかったのだ。
玄耀は、胸が痛んだが、覚悟を新たにした。
「……なら、俺は進む」
過去に囚われた彼らの想いも背負って。
「王に会う。すべてを、終わらせるために!」
セフィロスは、ゆっくりと頷いた。
「では、進め。《龍の門》の先に、お前を待つ“真の王”がいる」
龍脈の脈動が光の扉に集まり、ゆっくりと開いていく。
玄耀は《龍脈剣》を握り直し、足を踏み出した。




