第七章:青き槍、白銀の剣
夜の帳が降りる前の静寂の中、玄耀は、辺境の村に足を踏み入れた。
村は荒れ果て、街道沿いにひしめく家々は無惨に焼け落ちていた。
それでもなお、玄耀は歩みを進めていた。
荒野を越えて、僅かに残された命を守るため、彼はここへ来たのだ。
「なぜだ……こんなところまで……」
呟くのは、村人たちの助けを求める声だ。
戦の後遺症、暴政、貪欲な支配者──
その全てがこの村を蝕んでいた。
だが、玄耀の意志は揺らがない。
その時、突然、目の前に鋭い槍の穂先が現れた。
「……止まれ」
玄耀は反射的に剣を抜き、槍の穂先と交わった。
「……お前は?」
槍を構えた男が、無言で立ち上がってきた。
その瞳は冴え渡り、冷徹な輝きを放っていた。
彼の背には、白銀の双剣が輝き、手に持つ槍は蒼い光を放っていた。
その姿からは、どこか高貴な気品すら感じられる。
「……村を守っているのか?」
玄耀は、一歩前に進みながらその男に問いかける。
「守っている、というか──助けているだけだ」
蒼蓮は冷たく答えた。
彼の声には、感情がほとんど感じられなかった。
無口で、皮肉屋なその言葉が、玄耀には少しだけ痛い。
「助けるだけ?それで終わりか?」
玄耀が少し近づくと、蒼蓮は目を細めて見つめる。
「お前には関係ない。お前がどうしようと、俺のやり方がある」
その一言に、玄耀は思わず眉をひそめた。
だが、反論はしなかった。
彼の冷徹な態度は、決して無駄にしてきたものではないと、直感で感じ取ったからだ。
その時、村の奥から叫び声が響く。
──再び、暴君の兵士たちが現れたのだ。
蒼蓮が無言で振り返り、槍を構えた。
「……来る」
玄耀は一歩踏み込む。
蒼蓮の視線を感じた瞬間、二人の間に言葉は不要だった。
信頼が自然に交わり、共に戦う覚悟が生まれる。
次の瞬間、暴君の兵士たちが村に踏み込んできた。
「戦いの時間だ」
玄耀が低く呟き、剣を構える。
蒼蓮はそれに答えるように、槍を力強く振り下ろす。
戦いは凄絶を極めた。
蒼蓮の槍は疾風の如く、敵を切り裂く。
玄耀の龍脈剣は青い光を放ち、剣閃で次々と敵を迎え撃った。
その動きは一体となり、まるでひとつの生命が流れるようだった。
蒼蓮の槍が一振りで敵の大軍を引き裂くと、玄耀はその隙に横から飛び込んで、敵将の首を落とした。
その瞬間、蒼蓮はちらりと玄耀を見て、短く吐き出す。
「……手際がいいな。面倒なことが増える」
皮肉めいた笑みが口元に浮かぶ。
玄耀はその言葉に笑顔を返す余裕はなかった。
ただ、ひたすらに剣を振るい続け、蒼蓮と共に次々と敵を倒していった。
戦いが終わり、荒野に静寂が訪れる。
蒼蓮は蒼い槍を軽く払うと、玄耀を一瞥した。
「……悪くない」
彼の無表情な顔に、僅かに笑みが浮かぶ。
「お前も、な」
玄耀もまた、少しだけ頬を緩めた。
だが、それ以上言葉は交わさなかった。
無言のまま、二人は肩を並べて歩みを進めた。
「……どうする?」
玄耀がふと問いかける。
蒼蓮は答える前に立ち止まり、遠くの荒野を見渡した。
「この村は救った。ただ、俺が来た意味は……まだ終わってない」
「終わっていない?」
玄耀が立ち止まって尋ねると、蒼蓮は冷徹な目を向け、静かに答える。
「俺は、今も戦っている。あいつら──暴君の残党を、必ず討つ」
その言葉に、玄耀は無言で頷いた。
彼もまた、同じ目標を持っているからだ。
「なら、共に行こう。俺は玄耀だ」
玄耀が短く言うと、蒼蓮は一度だけ、薄く目を細めた。
「俺は蒼蓮。背中、預けるか?」
その問いに、玄耀は頷く。
「お前こそ、遅れるなよ」
一瞬、沈黙が流れた。
「……お前は、先に行け」
蒼蓮が静かに言った。
玄耀は驚き、蒼蓮の顔を見つめる。
「どうしてだ?」
蒼蓮は無言で槍を振りかざし、遠くを見つめた。
「俺は、ここでまだやるべきことがある。お前は、お前の道を先に進め」
その目には、戦いに挑む覚悟が込められていた。
玄耀はしばらく黙って蒼蓮を見つめた後、静かに頷く。
「分かった。それじゃ、お前もお前の道を進め、蒼蓮」
言葉を交わし、玄耀は足を踏み出した。
振り返ることなく、蒼蓮の背を見送りながら、玄耀は思った。
──また、必ず会おう
そして、彼は一歩、また一歩と歩みを進めた。
蒼蓮との別れが、少しだけ胸に重く残るが、彼の道はまだ続いている。
そしてその先には、いずれ“王”が待っている──。




