第十一章:原初の門
玄耀は、門の前に立っていた。
《原初の門》──
それは、石でも鉄でもない、光そのものが形を成した巨大な門だった。
触れれば、時間すら消し飛びそうな、圧倒的な存在感を放っていた。
だが、玄耀は迷わなかった。
ゆっくりと、手を伸ばす。
指先が門に触れた瞬間──世界が、一気に反転した。
音も、重力も、色彩すら消え、すべてが“無”に還った。
次に目を開けたとき、玄耀は「白」と「静寂」の中に立っていた。
空も地もない、ただ無限に広がる余白。
そこに、ひとつの「影」が、輪郭だけをもって浮かんでいた。
──黒翼の王
いや、違う。
もっと根源的な存在。
(……誰だ?)
声を出そうとしても、音は生まれなかった。
影は、言葉ではなく、直接、玄耀の心に語りかけてきた。
──お前はまだ知らぬ。この世界の真実を
影が指を伸ばし、そっと空をなぞる。
すると、裂けた空間から、幻のように「映像」が現れた。
それは──はるか遠い過去、《最初の世界》。
大地は豊穣に満ち、空は七色に輝き、生きとし生けるものすべてが《源》と繋がっていた。
だが、やがてそこに「影」が生まれた。
それは外から来たものではなく、世界の内部から生じたもの。
──欲望
──恐れ
──支配
「……黒翼か」
玄耀が呟くと、影がわずかに揺れた。
「そう。黒翼とは、“敵”ではない。
世界が己を守ろうとした、自然の免疫反応だ」
玄耀の思考が止まる。
敵と思っていた存在が、実はこの世界そのものの“防衛本能”だった?
戦ってきた相手は、自分と同じく「世界の一部」だったというのか──。
「そして王とは、本来、均衡の象徴。
しかし……その均衡はとうに崩れた。
なぜなら、王たちは“迷った”からだ。
誰も、真の選択をしなかった」
その言葉とともに、玄耀の脳裏に王たちの記憶が流れ込んでくる。
初代の王も、二代目も、すべての王が──
世界を護ろうとしながら、同時に、破壊者でもあった。
選ぶべき瞬間に選べず、愛するものを斬れず、迷いの果てに自らを封じていった。
(……それが王という存在か)
玄耀は拳を握った。
「けど……俺は違う」
影の動きが止まった。
玄耀は一歩、前に出る。白の空間が微かに振動する。
「俺は、神でも器でもない。
ただの人間だ。迷いもするし、傷つきもする。
だけど──俺には守りたいものがある。
俺は、誰かのために剣を振るう。
たとえその“誰か”が、この世界そのものでも──!」
沈黙の後、影の輪郭が淡くほころんだ。
「ならば、進め、新たな王よ」
影が指を鳴らした。
その瞬間、白の世界が音もなく砕け散った。
玄耀は、再び現実に引き戻された。
目の前に広がっていたのは──かつてないほど荒れ果てた、大地。
空には、黒く染まった巨大な城──《黒翼の城》。
そこから無数の黒き兵が、地を這うように降り注いでいる。
世界はすでに、《終焉》の渦中にあった。
だが──玄耀の瞳は、冷たく、しかし確かに燃えていた。
「世界が敵なら、それでも構わない。
俺が……俺の意志で、未来を選ぶ!」
剣を構える。
その身に宿るのは、かつてないほど純粋な《源》の力。
人ではなく、“人であること”を賭けて、この戦いに臨む。
こうして──玄耀と、終焉を望む世界との、最終決戦が始まった。




