第四話 私、最初の攻略相手に会った。
私達が平行世界に来てから2日が過ぎた。
「ふわぁぁ、お母〜さん、もう朝ご飯出来てる〜?」
「おはよう、琴梨ちゃん、朝ご飯ならもう出来てるよ。」
「あっうん、ありがとう…顔洗ったら食べるね…?」
私はまだ元の世界にいた頃の感覚が変えられなくて、今いる平行世界ではお母さん達は海外で住んでることになっているのにまだ慣れないでいる、だからついエプロン姿のお姉…いや晴南さんをお母さんと勘違いしてしまうのだ。甘えてたの知られるし、なんか恥ずかしい…というか、あの朝に弱いはずのお姉ちゃんが朝に寝坊しないで私より早く起きて、朝ご飯作ってくれてるとかすごい違和感でしかないな…?
「頂きます、スルル、味噌汁美味しい…」
「朝はやっぱり味噌汁だよな。」
「なんかほっとする味、お母さんが作ってくれたみたい。」
「よかった、愛田家の味を100%再現できる自信はないけど食べたいものがあったら言ってね、作ってあげるから。」
「なんか悔しいから自分で作れるようになる。」
「コケッ、そうですか…」
「ふっふん…」
正直嬉しかった、でも言えない、私ってそこまで素直な性格じゃない…
「あっそうだ。週末も終わったし、今日から琴梨ちゃんも学校だよね?着替えとか用意して来ようか?」
「あのね、そこまで子供じゃないから?自分の着替えぐらい自分で用意出来るって?」
「あはは、だよね。」
「それに下着とかを、たとえ同性でも家族以外に見られるのは恥ずかしいから…」
「でも洗濯とかしてるし普通に見ちゃってるんだけどね…?」
「あっ確かに…?」
「兎柄のパンツとか可愛い下着持ってるよね。」
「そういうことを言うな〜!」
「痛たぁ!」
もう、デリカシーが足りなさすぎる、まぁでもそこはお姉ちゃんと少し似てる気がするけど…?とにかく罰としてデコピンをした。
「これで学校へ行く準備はいいと。」
琴梨は制服に着替えて、髪にハート型のヘアピンをつけた。
「そういえば昨日、おね…いや晴南さん、いつもしてるポニーテールとヘアピンを忘れてたな?」
琴梨は姉の部屋に様子を見に行った。
「晴南さん?」
「んっ?どうしたの?」
すでに制服に着替えていて、髪型もポニーテールにしてあり、ヘアピンもつけていた。
「今日はポニーテールもヘアピンもしてる。」
「ああ、こないだは慌てすぎて忘れちゃってたから、この二つは雛のアイデンティティだもんね。」
「なんだ、わかってるじゃん…」
「むっふん、私は漫画の大ファンなんだよ?キャラの特徴ぐらい覚えていて当然。」
「なんかノリうざっ…まぁいいや、先に学校行くから?」
「え〜!一緒に登校しようよ〜!同じ通学路でしょう?」
「仕方ないな…?」
二人は支度をすませて玄関を出た。
「鍵も閉めたし、じゃあ、行こうか。」
「おねえちゃんと一緒に登校とか、本当ならレアなことだな…?」
「あはは、確かに本来の雛って朝に弱くて遅刻ばっかだもんね、漫画で知ってる。」
「ちょっと嬉しいかも…」
「んっ?何か言った?」
「なっ何でもない。」
「あっ!待ってよ!」
琴梨は照れた顔を隠すように少し早く歩いた。
そしてその様子を天界からあの方が見ていた…
《ウフフ、妹ちゃんったら可愛いわぁ。》
「本当ですね、私も琴梨さんのようにツンデレ妹を目指そうかな?」
《それはだーめ、セリーヌは今のおっとりした優しい性格がいいの、人には人の個性があるんだから。》
「はーい。」
《やっぱりあの子にも試練を与えてもよかったかしら?
まぁでもいいわ、いよいよ始まるんだからわたくしのお楽しみ〜、別の世界から来た恋愛経験ゼロのウブな少女が女しか居ない世界に迷い込んで〜わたくしの選んだ5人の女性を攻略、恋人にして最高のハーレムを作る百合物語〜!》
やばいテンションで歌う女神様の歌声は神殿中に響いた。
−一方、現世の雛達はというとそれぞれの学校に行くために離れた。
「じゃあ、私はこっちから曲がるから、ここで。」
「うん、学校、頑張ってね!」
「そっちもね?くれぐれも"お姉ちゃんの名"に傷をつけるような行動だけはしないように?わかった?」
「あはは、気をつけるね、それじゃ。」
「本当かな、心配…」
漫画で主人公の愛田雛が通っている高校は家の近所にあって、前の世界では共学だったのですが、そこは女しか居ない世界!ちゃんと女子高になっています!ちなみに前世の私が通っていたのは共学なので女子高自体が楽しみでもあります!
「いよいよこの門をくぐったら始まる!私の愛田雛としての学生生活が!あの素晴らしい百合が私を待ってるんだ!」
私はこれから待っているはずの百合漫画の展開を思い出しながら期待で胸を膨らませて学校の門をくぐりました!
するとさっそく私のテンションを上げる人物と会えました!
(あっあのジャージの先生は確か!)
「藤崎先生、おはようございますー。」
「おう、おはよう!」
「おはようございます。」
「おはよう!」
「藤崎先生、おはようございます!」
「おう、おは…えっ!?
愛田、おまえ、今日は寝坊せずに来れたのか…?」
「はい!」
「ぐすんっ…偉いぞ、先生は感動した…
あの遅刻記録最多のおまえがな…やっと改心してくれたんだな…」
「あはは、そこまで喜ばれると本望だと思いますよ。」
(やっぱり漫画に出てきた熱血体育教師の藤崎先生だー!)
「この調子で遅刻しないように頑張れよ?」
「はーい。」
私は漫画の登場人物に会えて、ウキウキ気分で学校の玄関に入ると雛の靴箱の靴に履き替えて迷わずに教室に向かいました。
「1年A組、ここだ、雛のクラスの教室は…
スゥゥ、はぁぁ、よし、入ろう!」
私は期待と不安を抱きつつ、深呼吸してから教室に入りました!
「えっ!?」
「愛田さんが遅刻せずに学校に来た!?」
「うそ、マジ…?今日は台風にでもなるんじゃないの…?」
「おっおはよう…」
(あはは…さっきの藤崎先生といい、みんな、面白いぐらいに驚いてるなぁ…
もしかして物語に影響があったりして、まさかね…?)
「おはようー!ひよっちー!」
「ひゃっ!おっおはよう!」
(きゃぁぁ!あの豆っちだぁぁ!)
私は思わず叫んでしまうんじゃないかというぐらい興奮しちゃいました!
なぜならこの無邪気に抱きついてきた、背が低く幼い顔立ちをしたツインテールのこの可愛い子は豆山兎姫、あだ名は豆っち!
一人目の攻略相手の鶴子ちゃんと同じ雛の幼馴染で物語上、その明るいキャラ性で主人公達を笑顔にする重要な親友キャラなのです!
「今日は遅刻しないで来れたかー!めずらしいこともあるんだなぁー!」
「まっまぁね!」
くぅぅ、小さくて可愛いすぎるぅぅ!本当に同い年の高校生なのかって思うレベルなぐらい幼い!小動物って感じで抱きしめたくなる!
「おっおはよう、雛ちゃん…」
「はっ!あなたは!」
きゃぁぁ!ついについに現れました!
この大人しい雰囲気の三つ編みおさげの眼鏡少女こそ、主人公の雛、つまり転生したオレが最初に攻略しなくてはならない攻略相手!幼馴染の鏡原鶴子、鶴子ちゃん、その人ですーー!
「あっあれっ…?雛ちゃん…?」
「おーい、ひよっちー?」
「はっ!おはよう!鶴子ちゃん!」
「よかった…いきなり固まるから体調でも悪くなったのかなって、心配したよ…?」
「鶴子ちゃん…」
漫画の通り超優しいぃ…それに漫画じゃわからなかったけど、すっごい癒やしのボイス…
あの声で子守唄とか歌ってもらったら速攻で寝ちゃいそうですぅぅ…
「雛ちゃん、今日は早起きなんだね…?」
「だろー!うちも驚いてた所だー!」
「あはは、頑張ったら、起きられたよ。」
「そっか、偉いね…」
「偉い、偉い!」
「ぐおっ、二人とも可愛いすぎる…」
主人公の雛と攻略相手と友達キャラは全員、漫画ファンの私にとって推しキャラなのでその中の二人が目の前にいると思うと、尊さのあまり鼻血が出そうになりました!
「どっどうかしたの…?」
「なっ何でもないよ…」
「熱でもあるんじゃないか確かめてやるよ。」
豆っちが額と額をくっつけてきた。
「ちょちょっと!兎姫ちゃん!」
「かっ顔が近い!」
「うん、熱はないみたいだな?」
「だっ駄目だ、ぶふっ!」
鼻血が出ちゃってハンカチで拭きました。
「鼻血が出るなんて!?」
「大丈夫か、ひよっち!」
「つい興奮しちゃって…」
«興奮…?»
二人は首をかしげた。
「あっいや、こっこれは朝食に大量のチョコを食べてきたからかなぁー!」
「そっそうなの…?」
「あっうん、だから心配しないで!」
「あはは、ひよっちも子供っぽいことするんだなぁー?」
「ふっふ、雛ちゃんもそんなことするんだね…?」
「まっまぁね、あはは、あはは。」
ふぅ、とっさの言い訳だったけど、何とか誤魔化せたみたいです…
でもまさか推しキャラとはいえ、同性の女の子に興奮して鼻血を出すなんて…
気づかなかったけど私って元から女好きだったのかな…?
「雛ちゃんの新たな一面が見れて嬉しいな…」
はっ!そうだった!テンション上がっちゃってすっかり本来の目的を忘れてたけど!転生して今は私が主人公の雛なんだ!最初の攻略相手、鶴子ちゃんを攻略することに集中しなくちゃ!
「チャイムが鳴ったぞ、皆、席につけ。」
「んじゃ、二人ともまた休み時間にな。」
「あっうん!」
「またね。」
豆っちとは少し席が離れているけど、攻略相手の鶴子ちゃんとは隣の席なのです。
「もし体調が悪くなったら言ってね…?保健室に一緒に付いて行ってあげるよ…?」
「ありがとう、本当に優しいね。」
「そっそんな…」
くぅぅ、女神すぎる〜、って本当の女神様がいるから怒られちゃうかな…?
でも本気でそう思っちゃいます。
この子を攻略する方法は漫画で見たから知っている。鏡原鶴子は主人公の雛に幼い頃から一途に片想いをしていておとなしい性格からずっとそれを押し隠してきた子、だから彼女を攻略する方法はただ一つ『彼女から告白されること。』
なぜ告白されなくてはならないか、それは自分から告白することは駄目!攻略不成立になるからです!それが女神様から与えられた試練のただ一つの掟、だから漫画で雛は攻略に一か月ぐらいかかりました。しかし私は元いた世界に帰りたい琴梨ちゃんのためにも主人公よりも最速で告白されることを目指さなくては!頑張らなくちゃ!
−ちょうどその頃、妹の琴梨はというと−
「イメチャンしたんだ!」
「超可愛いじゃん!」
「眼鏡外したら美少女だったんだね!」
「どっどうも…」
(そっか、この世界の私っておさげ髪の眼鏡女子だったもんね…?忘れてたや…)
自分の席に戻った。
「ハァ、疲れたぁ、おね、晴南さん、しっかりやってるかな…?今頃、推しキャラに会えたとか言って興奮とかして鼻血とか出してたりしなきゃいいけど…?」
琴梨の予想は見事に的中したのだった。
「琴梨、心配そうな顔して何か悩み事?」
背が高く大人びた綺麗な女の子が声をかけてきた。
「あっいや、何でもないよ。」
「そう?急にイメチャンとかしたから何かあったのかと思ったよ?」
「心配してくれてありがとうね、岬ちゃん。」
「あっ当たり前だよ、友達なんだから…何かあったらいつでも相談してよね?」
「頼りにしてる。」
(岬ちゃんはこの世界でも大人びてるし優しいなぁ、つい甘えたくなる。)
彼女は眼路乃岬、琴梨の中学からの友達で偶然にも二年間、同じクラスだった。しかし琴梨は知らない、前の世界では友達未満だったが岬が琴梨にかなり重い片想いをしていることを。
【眼鏡を外して髪型まで変えた…
こんな大きくイメチャンするなんて…琴梨、誰かに恋でもしてるの…?
やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、そんなの絶対に許さない!
仮にもそんな相手がいるなら、そいつを◯してやる…琴梨は誰にも渡さないんだから…】




