第二十一話 私、ピンチをチャンスに変えた。
「グスン、グスン、姉貴のドアホ…」
「ハァハァ、見つけましたよ、鴎さん…?」
海の家を飛び出した鴎はビーチの端にある岩場に隠れて泣いていて、雛は息を切らせながら歩み寄った。
「何しに来たんや…?」
「心配だから探しに来たんです。」
「お人好しかいな…?ワテ、あんたにも妹にもひどい事を言ったちゅうに…?」
「琴梨ちゃんも私も、あんな程度のディスりで傷ついたりするほどメンタル弱くありませんから。」
「喧嘩売ってるのかいな…?」
「そう聞こえますか?」
«ふふふっ。»
二人は思わず笑った、そして砂浜に体育座りで並んで座り、海を眺めながら話し始めた。
「姉貴は心配しとった?」
「えっ、あっはい、心配してましたよ…?」
「雛って嘘が下手やな、絶対にしてなかったやろ、正直に言ってええんやで?」
「してなかったです…」
「やろうな、姉貴らしいで…」
「あっでも。」
「それにしても琴梨の奴、昔会った時と雰囲気変わとった事には気づいてたけど、まさかあんなに強気な性格になっとるとは思わなかったで。」
「でっですね。」
(本当はこの平行世界の琴梨ちゃんとは別人なんだけど…)
「さっきはすまんかったな、みんなの悪口言うて…?」
「鴎さん。」
「ほんまはな、みんな頑張ってくれてるんはわかってるんや、ただ…」
「大好きなお姉さんが自分じゃなく私達を手伝いに呼んだのが許せなくて焼いちゃって、ムキになってるだけなんですよね。」
「なっ何でそんなことわかるん?」
「あっいや、そうかもなって!」
「雛ってエスパーなんか…?」
「かもしれませんね…あはは…」
(またつい漫画で知ってるからって口走ってしまった、危ない、危ない…
というか過去に女神に同じセリフ言われたような…?)
「なんやそそれ、でも合ってるぞ…ワテは姉貴が大好きなんや、ワテだけの姉貴でいて欲しいって思うとるくらいに…」
鴎は砂の上の小さな貝を手にとり、それを眺めて切ない表情をした。
このセリフで気づいたと思うが、三人目の攻略相手、恋野鴎は姉に恋愛感情に似たものを抱いているのである、もちろん、雛(晴南)は漫画でこの事を知っている。
「その想いをお姉さんは知らないんですよね…?」
「伝えたことなんか一度もあらへん、そら当たり前やろ、実の姉妹なんやで…?そう簡単に伝えられるはずないやん…」
「そうですよね…」
(琴梨ちゃんもこんな風に悩んだのかな…)
「それにや…」
「えっ?」
「姉貴のやつ、彼女さんとの思い出の場所を守りたいんやろうけど、海の家を始めちゃってさ…」
「そっそれって…?」
(漫画であったあれじゃ!)
「姉貴が彼女さんと初めて会った場所があの海の家やったらしいんや…」
「そうだったんですか?」
「当時、中学三年生だった姉貴は可愛がってくれてたお婆ちゃんのためにわざわざ泊まり込みで海の家にお手伝いに行っててな、その時にたまたま友達と海に遊びに来て食べに来た彼女さんと出会って仲良くなったらしい。」
「そんな出会い方を?」
「あの頃の姉貴はバリバリのヤンキーでな、えろうかっこよかったんだぞ、うちはめっちゃ憧れてたんや。そして好きだった、ガチで結婚したいぐらいに。」
「ガチで結婚したいぐらいに?」
(やっぱりかー!)
「でも彼女さんと知り合ってから急にヤンキーをやめ出して受験を頑張りよってさ、目指した高校に一発合格したんや。」
「もしかして水琴さんがその高校に行った理由って?」
「そう、彼女さんがその高校を行くって聞いてたらしくてな…?その頃にはもう姉貴は彼女さんにベタ惚れしてたし…それで高校を選んだんや、アホらしいやろ?」
「動機が不純ってやつですね…?」
「そういうことや、けど結果、姉貴とその彼女さんは付き合った…あの時にワテの初恋は終わったと思ったよ、同時に姉貴以外、誰も一生好きにならんとも…」
「誰も一生好きにならないですか…」
(そろそろだ!あの重要なシーン!)
「せやけどな、ここ最近、姉貴の知り合いから聞いたんや、遠距離恋愛してる二人が上手くいってなくて別れるんじゃないかって…」
「だから会いに来たと?」
「ああ、今なら実の血の繋がった妹でも振り向いてくれるんじゃないかって思うてな、だけど反対やった、姉貴はオレに冷たくするし…うぐっ、うぐっ…」
鴎は見た目には似合わないくらい、まるで子供のように泣き始めた。
「鴎さん…」
「きっとそんなこと考えたからバチが当たったんやろうな…最低だわ、ワテ…」
「そんなことないですよ。」
「えっ…?」
琴梨は優しい眼差しをしてそっと手を握った。
「泣き終わるまで側にいてもいいですか?」
「本当にお人好しすぎへんか、あんた…?」
「かもしれませんね。」
「でもサンキュな…」
くぅぅーー!重要なシーンをこんな早くクリア出来たーー!漫画では二日後に別の理由で水琴さんと喧嘩して海の家を飛び出して、夜の星空を見ながら聞くことになるからシチュエーションが全く違うけど!心開いて見せるこの涙目の笑顔、最高すぎるーー!
「なんかニヤけてるけど、どないした…?」
「あっいや!落ち着きましたか…?」
「ああ、落ち着いたで…」
「海の家に戻れそうですか?」
「戻れる…」
「よかった。みんな心配してるはずですから戻りましょう。」
「待ってくれ!」
「えっ?」
立ち上がった雛(晴南)の腕を掴んだ。
「鴎さん?」
「励ましてくれた、お礼させてくれ。」
「お礼ですか?」
(はっ!あれか!)
「チュッ。」
顔を近づけられて頬にキスをされた。
「かっ勘違いはせえへんでくれな、このキスはあくまでお礼や、お礼。」
「ひゃひゃい…?」
(そうでしたぁぁ!シチュエーションが全く違うせいでキスされるのをすっかり忘れてたぁぁ!
はっ!ということはもしかしてこの続きは…?)
「さっ、海の家に戻るで、"ひよ"。」
「そっそっそっそのあだ名は!」
「すまん。親近感の湧いた奴にはあだ名をつけるのがワテの癖なんや、嫌だったか?」
「嫌じゃないです!嫌じゃないです!」
「あはは、そか。それと敬語もせんでええで?」
「敬語まで!?」
「おまえはもうワテのダチや、当然やろ。ひよもワテのこと、呼び捨てでええんやで。」
「じゃじゃあ、鴎ちゃん…?」
「ちゃん呼びか、恥ずかしいけどそれでええ。行くで、ひよ。」
「うっうん!」
(思った以上に階段をかなりすっ飛ばしてるぅぅー!漫画では友達認定されるのはもっと先なのにー!)
思わぬピンチがチャンスに変わり、三人目の攻略相手、鴎の攻略へ大きく前進した。そして海の家に戻った鴎はまず琴梨に謝った。
「すまんかったな、ひどい事言った上に殴りかかろうとして…?」
「いえ、今思うと私も鴎さんは年上なのに生意気だったかなと、私もごめんなさい…」
「つまりお互い様ってことだな。」
「豆山先輩、上手くまとめましたね?」
「ふふん、だろ。」
「姉貴はまだ怒っとるか…?」
「怒ってないで、ただ今後はみんなと仲良くやれよ、ええな?」
「うん…」
「そっそれと叱るためとはいえ、ぶってわるかったな…?痛かったか…?」
「痛くはない…でも初めてぶたれたから驚いたけど…」
「へぇ、初めてなんですか?」
「確かに意外かも?」
「何や、うちを見境なく暴力振るう女とでも思ってたんか?」
「だって元ヤンキーだって言ってたから?」
「そんなことせえへん、姉貴は仲間のために喧嘩する時以外は暴力は振らないことをモットーにしてた人なんや。」
「そんなかっこいいモットーを…?」
「恥ずかしいこと言うなや…」
「かっこいいよな、ワテはその逆や…自分のために暴力を振るおうとした、かっこわりぃよな…」
「これから直せばええ、おまえにだって誰かのために戦う時があるはずや。」
水琴はそっと肩を叩いた。
「姉貴…」
「そうだよ、鴎ちゃんも水琴さんみたいになれるはず。」
「ひよ…おおきにな。」
「えへへ。」
「おいおい、いつの間にあだ名呼びになったんだよ?」
「えっ、それは。」
「それに敬語でもないよな?」
「そういえば?」
「気づいたか、ワテらダチになったからな、あだ名をつけて敬語やめてもらったんや。」
「鴎がそこまで他人と仲良くなる日が来るとは思わへんかった。」
「ちょ、姉貴、泣くなや。」
「だって嬉しいんやから、しゃーないやろ。」
「相変わらず涙もろいんやから。」
「あだ名呼びまで進んだか…」
「琴梨?」
「あっいや、何でもない…」
琴梨は攻略を応援している気持ちとまた好きな雛(晴南)に彼女が出来るんだと複雑な感情になっていた。
「決めたで。今日はお昼までの営業にして午後からは自由時間にしてええぞ。」
「本当か!」
「いいの?」
「息抜きも大事やろ?海で遊んだり好きにしてくれ。」
«やったぁ!»
「あっでも後片付けは誰が?」
「んなもん、うちがやっておくわ。」
「一人じゃ大変やろ、ワテも手伝うよ!」
「いいって、おまえは雛以外とも遊んで距離を縮めた方がええやろ?」
「そっそないなこと…?」
「いいから、行って来いや。」
「わかった…?」
次回、色んな意味でドキドキなビーチ回。




