第十九話 私、三人目の攻略相手に会った。
次の日、海の家がオープンしてお手伝いが始まった、しかし、琴梨が失敗の連続だった。
「いらっしゃいませ。」
「いっいらっしゃいましぇ!あっ…」
「噛んじゃって可愛い。」
「ねっ。」
「はっ恥ずかしい…」
「どんまい、琴梨。」
「岬ちゃん…」
まず慣れない接客に噛み噛みだったり。
「おっお待たせしました!」
「あのー、注文したの焼きそばじゃなくて冷やし中華なんだけど…?」
「えっ!」
「定員さん、焼きそばはこっちだよ?」
「もっ申しわけありません!」
「いいよ、いいよ。」
「ハァ…」
「元気だせよ、ことりん。」
「あっありがとうござます…?」
注文された料理を間違って運んだり。
「どわっ!」
「大丈夫、琴梨!」
「ううっ、最悪〜。」
さらにはお盆の扱いに慣れておらず運ぼうとした料理を落としてしまったり、そして途中から参加した厨房では…
「出来た、味見お願いします!」
「OK、うぐっ、まずっ!?」
「あれれ!レシピ通り作ったつもりなのに!あっ、調味料を入れる量を間違えちゃってる…」
「こりゃもはや毒レベルだぞ…?」
「ごめんなさい…?」
「しゃーない、しゃーない、次から気をつけてな?」
「はっはい…」
「琴梨ちゃん、ファイト。」
「晴、おねえちゃん、ありがとう、ハァ…」
料理の味付けを間違ったり、海の家のオープン初日は琴梨にとって散々な結果となった。
«疲れたぁぁ。»
「ハハハッ、みんなご苦労さん、ほんまに助かったで。」
「私は迷惑しかかけてないような…?」
「ああ、落ち込まないで!」
「そうだよ、ドジっ子接客、お客さんには可愛いってウケてたよ?」
「はっは、ドジっ子っか…」
「気を取り直して、後片付けして晩御飯食ったら、みんなで銭湯に行こうや。」
「今日は開いてるでしょうね…?」
「開いてるって、ちゃんと自前に連絡しておいたし。」
«よかった…»
でもみんな忘れていた、水琴の知り合いがやっているという銭湯をタダで入るには掃除しなくてはならないことを…
「しっかり、頼むっすよ、皆さん。」
«はーい。»
番台をしている水琴の知り合いの金髪の上唇にピアスしてるお姉さんと話しがすでに通っているらしく、掃除が終わるとお風呂に入らせてもらえた。
«はぁぁ。»
「疲れた後のお風呂は格別だよね。」
「だよなぁ、お湯が体に染み渡るぞ。」
「ですね。」
「ハハハッ、そうやろ?適度な運動をして疲労があるからこそ、そう感じられるんや。」
「適度な運動ね…?あの1時間ぐらいかかった掃除が…?」
「あかんなー?そんなネチネチした性格しとったら、モテへんぞ?」
「よっ余計なお世話だつーの!」
«あはは。»
「ことりんは本当に面白いな。」
「だよね。」
「だな。」
「あんた達ね…?」
「大丈夫。」
「えっ?」
隣にいる岬がお湯の中でわからないように手を握ってきた。
「私をここまで惚れさせてるんだから、琴梨は魅力で溢れてるよ。」
「岬ちゃん…」
その後、お風呂を上がると番台のお姉さんが気前よく冷蔵庫で売っている瓶の飲み物を一人一本選んで飲ませてくれた。
「ぷはー!うんめぇ、風呂上がりはコーヒー牛乳に限るでー!」
「水琴さん、オジサンみたい。」
「オジサン?何んや、それ?」
「琴梨、私も初めて聞いたよ?」
「琴梨ちゃん!」
「あっそっか!この世界には女の人しか居ないんだもんね、何でもない、忘れて…?」
「うん…?」
「そか…?」
二人は首を傾げた。
「明日も風呂の掃除お願いしますね、先輩。」
「おう、任せとけ。」
「水琴さんのこと先輩って呼んでますけど、陽子さんは後輩さんなんですか?」
「陽子はな、うちの中学の後輩ってか、子分だったんだんや。」
「こっ子分ですか…?」
「水琴さんは中学ではヤンキーだったらしいよ。」
「おうよ、バリバリ番長してたんやで。」
「へぇ、番長ですか、凄いですね…?」
「そっす!凄いんす!当時の水琴先輩は仲間思いで喧嘩じゃ負け無し、あちきのずっと憧れの人だったんす!」
「よせや、照れるやん。」
「でも先輩、中学卒業して高校生になってからはすごく真面目になりましたよね?」
「そうなんですか?」
「部活始めてからな。」
「初耳、何の部活してたの?」
「陸上や。」
「なるほど。」
「というかそこで彼女さんが出来てからっすよね?」
「ちょ、おまえ!」
水琴は顔を赤くした。
「いいじゃないっすか。」
「彼女さんが、部活で?」
「マネージャーだったらしいんすよ。」
「そうなんですね?」
「彼女いたんだ…?」
「まっまぁな。」
「確か今も付き合ってるんじゃ?彼女さんは元気っすか?」
「元気やと思うで…」
「思うって?」
「なんだってええやん、ご馳走さん…」
「あの、どこに?」
「風にあたりたい気分やから外で待っとる…」
水琴は飲みきった空の瓶を渡すと、どこか後ろ姿に哀愁を漂わせて外に出た。
「水琴さん、どうしたんでしょうか?」
「急に暗い顔になったよね…?晴、お姉ちゃん、もしかして…?」
「うん、琴梨ちゃんの想像してる通り…」
「やっぱり…?」
「あの噂は本当なのかもしれないな…」
「あの噂って何ですか?」
「去年に高校を卒業してからすぐ彼女さんが東京の大学に行っちゃって、遠距離恋愛してるらしいんすけど…」
「遠距離恋愛を?」
「どうやら上手く行ってないらしくて、別れるかもしれないって聞いたんっすよ。」
「だからあんな態度を…」
「悪いこと聞いちゃったみたいですね…」
「いや、自分のせいっすよ!二人とも落ち込まないでください!」
「着替え終わったから私も外で待ってるね…」
「あっ待って、琴梨ちゃん!」
「琴梨!」
居ても立ってもいられなくなった琴梨が外に出ると、店の前でポケット灰皿で煙草を吸う水琴の姿があった。
「居た。」
「琴梨だけか、ほかは?」
「まだ着替えてる。」
「そか。」
「聞いたよ。」
「んっ、何をや?」
「彼女さんと上手くいってないんだって?」
「あいつ、また余計なことを。」
水琴は頭を掻いた。
「元気だしなよ。」
「随分と上から目線やんか、琴梨、恋愛経験ないやろ?」
「グサッ、慰めてあげてるのに、バカ!」
「バカはないやろ、下手なツッコミやで。」
「だから漫才してるわけじゃ…」
「でもおかげで元気出たで、サンキュ。」
「ならいいか。」
琴梨はそれ以上は話さないで一緒に待った。
「こよりん、励ましに行ったんだろうな。」
「そうだと思います、琴梨は優しい子ですから。」
「漫画では雛が行くはずだったんだけどね…」
「漫画っすか?」
「雛はお姉さんですよね?」
「あっいや、何でもないよ。」
「大丈夫だ。」
「えっ?」
「何も変わらない。」
兎肩をポンと叩いたら兎姫も外に出た。
「兎姫ちゃんの今のどういう意味だろう…?」
それから海の家に戻り、水琴が店の鍵を開けようとした、すると後ろから。
「探したで!」
耳にピアスをした紫メッシュの短髪の女の人が居た。
「だっ誰?」
「私にもわからない…?」
「あちゃー、やっちゃったぁぁ…」
「お義姉さん…?」
「まっまさかその反応って…?」
琴梨は雛(晴南)の反応で何となくわかった、この人物が…
「おまえこそ、何でここにおるんや…?」
「去年に高校卒業して家出て一人暮らし始めてからあまり連絡してくれへんから心配して会いに来たに決まってるやんか!」
「しっ仕方ないやろ、色々忙しかったし。」
「お婆ちゃんから聞いた住んでるっていうアパートにも行ったけど、全然帰ってこんかったし。」
「当たり前やん、海の家の準備でここ一週間は泊まり込みしてたもん?」
「そんなん知るわけ無いやろ!姉貴のドアホ!」
「ドアホっておまえな…?」
「この方、水琴さんの妹さんなんですか…?」
「おっおう、こいつはうちの妹の恋野鴎や。」
「やっぱりか…」
「なんてこっちゃぁぁ…」
(こんな重要なシーンを忘れてたなんてぇぇ!)
雛(晴南)は店の手伝いをした後の風呂掃除の疲労と新たに出た兎姫の謎の一言に頭が混乱していて、
三人目の攻略相手、恋野鴎がこの時間に訪れることをすっかり忘れていた。




