第十一話 私、風邪になっちゃった。
琴梨と姉である雛(晴南)に家に送ってもらった後、岬はすぐに部屋に閉じこもり、壁のあちらこちらに張られた琴梨の写真の中からたまたま雛が写っているのを親指を噛みながら睨んでいた。
【今日ではっきりした、やっぱり琴梨は姉である愛田雛に恋をしてる…でも琴梨本人はそれに気づいてない…
あの女、姉で一緒に居る時間が長いってだけでも羨ましいのに…その上、心すら独占してるなんて…
琴梨があいつを想い続ける限り、私の恋は一生成就しない、そんなの嫌、嫌、嫌、嫌、嫌だ!】
雛(晴南)の写る部分だけを破って、クシャクシャにした。
【ハァハァ…こうなったら琴梨の心を私に夢中にさせるしかない…】
その頃、すでに家に帰ってきていた雛(晴南)はクシャミばかりしていた。
「へクシュッ、へクシュッ!」
「ほら、言わんこっちゃない…?風邪引いたんじゃないの…?」
「大丈夫、大丈夫、お風呂に入って温かくすればすぐに治るよ。」
「本当かな…?」
しかし次の日の朝、琴梨の予想通り、雛(晴南)は風邪を引いてしまった。
「体温計で測ったけど、熱、37.8℃あるみたい…」
「あはは…昨日の琴梨ちゃんの言ったこと当たっちゃったね…へクシュンッ。」
「笑い事じゃないってば、病院行く?」
「風邪薬飲んだし、寝てれば治ると思う…」
「わかった、とにかく今日は学校を休んで安静にして熱がもっと上がるようだったら、病院に行くってことで?」
「それでいいよ…」
「一人で大丈夫?看病ってことで私も学校休もうか?」
「平気、平気…琴梨ちゃんは学校行って…」
「そう…?何かあったらすぐ連絡してね…?」
「はーい、行ってらっしゃい…」
「行ってきます…」
心配そうに部屋を出ると琴梨は家を出た。
「そうだ…鶴子ちゃんがまた公園で待ってくれてるはず…連絡しなくちゃ…ついでに風邪で休むこと担任の花咲先生へ伝えてもらおうかな…」
スマホで鶴子に電話をした。
『鶴子ちゃん、今日も公園で待っててくれてる?』
『うん、今日は遅いんだね…?何かあった…?』
『実は風邪を引いちゃって…今日、学校休もうと思うんだ…』
『風邪!ひどいの?』
『心配しないで…そこまで熱も高いわけじゃないし…風邪薬飲んだから、寝てれば治ると思うから…』
『わかった…担任の花咲先生には私から伝えておくから…?』
『ありがとう、助かるよ…』
『安静にしてなきゃ駄目だよ…?』
『はーい…』
『放課後になったらお見舞いに行ってもいいかな…?』
『来てくれたら嬉しいかも…』
『じゃあ、必ず行くから!』
『うん…待ってるね…』
鶴子との電話を終わらせると、雛(晴南)は眠りについた。
「鶴子ちゃんも優しいな…」
一方、学校に向かっている琴梨はまだ自分のせいで風邪を引かせてしまったと後悔していた。
(晴南さんには申し訳ないことしたな…明日は学校も休みだし、帰ったら日頃の感謝も込めて家事を頑張ろう…)
「琴梨。」
「えっ?」
振り向いたら岬が居た。
「岬ちゃん。」
「今日もお姉さんと一緒に登校して来てないんだね?」
「ううん、晴…おねえちゃんが風邪引いちゃってね…」
「昨日、夜遅いのに迎えに来て私の家まで送ってくれたからな?」
「だと思う…帰りに寒いからってコート貸してくれたし…そのせいだろうなって…」
「コートを…」
「優しすぎるんだよ、晴、おねえちゃんは…」
【私だって、昨日、遅くまで遊んだのに…】
「えっ?何か言った?」
「あっううん、言ってないよ。」
「だから動くの辛そうだし、普段は家事を任せっきりなんだけど、今日は帰ったら私がやろうかなって。」
「それは逆に心配だな、あの琴梨が家事をやるなんて?」
「もうー、それってどういう意味?」
「私も手伝ってあげようか?」
「えっ?」
「こう見えても私、家事なら大抵の事出来るよ。」
「いいの…?」
「友達だから頼ってよ。」
「ありがとう!正直一人だと不安だったんだ!お願いしてもいいかな?」
「いいよ。」
「心強いな。」
【これ以上、あいつにリードされてたまるか…琴梨の心は私のものなんだ…】
「そうだ、明日、休みだし、よかったら家に泊まっていって。」
「いいの?」
「岬ちゃんが良ければだけど。」
「泊まりたい!泊まりたい!」
「じゃあ、決まりだね。」
【このチャンス、絶対に活かしてみせる…】
岬にもう迷いはなかった。
「雛ちゃん…」
「つるっち!」
「うぐっ。」
兎姫が思いっきり鶴子の背中を叩いた。
「痛いよ、兎姫ちゃん。」
「あはは、わりぃ、わりぃ、ひよっちが居なくて元気がないの、丸わかりだったからさ、励ましてあげうと思って。」
「そうなんだ、ありがとう…?」
「でも珍しいよな、ひよっちが風邪で学校休むなんて、うちと同じくらい滅多に風邪引くことないのに。」
「心配だよね…」
「お見舞いには行くのか?」
「うん、そのつもりだよ…兎姫ちゃんも一緒に行く…?」
「本当は来てほしくないくせに?」
「そっそんなこと!」
「あはは、今日も部活の助っ人するからな、お見舞いはつるっちに任せるよ。」
「そっか…」
「ここが愛田雛さんがいるクラスで間違いないかしら!」
「えっ?」
教室の扉を勢いよく開けて入ってきたのは雛(晴都)の二人目の攻略相手で、鶴子が前に言い合いをした多歌宮葉月だった。
「ねぇねぇ、あの子って校則にめちゃ厳しくて、先生よりうるさいって有名な風紀委員の多歌宮葉月だよね?」
「私も前に彼女と校内でイチャついてたら、風紀を乱すな!って怒られたよ。」
「先輩にも容赦なく怒るらしいよ、恐いよねー。」
「何か?」
ギロッと睨んだ。
«ゴクッ、いえ…»
「ふん。」
そして一瞬で黙らせた。
「あなたはこないだの…?」
「愛田さんと同じクラスだったのね?」
「そっそうですけど…?」
「つるっち、こいつと知り合いだったのか?」
「まっまぁ…」
「あっあんたは!問題児の豆山兎姫!」
「誰が問題児じゃい!」
「二人とも知り合いだったんですか…?」
「よく怒られるんだよ、前も部活終わりに更衣室からスポブラ姿で出たら、学校の風紀を乱すなって、ガチギレ!うち、ペチャパイなんだし、見られるもんないんだから、いいじゃんかな?」
「それは…?」
「そういう問題じゃないでしょう!公衆道徳を弁えなさい!」
「あー、聞こえません。」
「きぃぃ、あんたって人は〜?」
「あっあの、雛ちゃんに用があって来られたんですよね…?」
「はっ!そうだったわ!雛さんは…?」
目的を思い出し顔を赤くして尋ねてきた。
「今日は風邪でお休みです…」
「そっそう、風邪…お邪魔したわね…」
「まっ待ってください!」
教室を出ようとしたのを引き止めた。
「何かしら…?」
「雛ちゃんに何の用があったんですか…?」
「あんたには関係ないでしょう…?」
「関係あります…雛ちゃんは彼女ですから…」
「わかったわよ…?でもここじゃ話せない、場所を変えてもいいかしら…?」
「はい…」
二人は保健室に来た。
「だからって何で保健室を選んだのかな?ここは体調が悪い人や怪我した人が来る所だぞ?」
「昨日の捻挫を診てもらうついでならいいですよね?」
「ハァ、しゃーないな、そういうことなら。」
「ふん。」
「足を捻挫されたんですか…?」
「ええ、まぁ。」
「それで愛田に運んでもらったんだよな?」
「えっ!雛ちゃんに!」
「もう、先に言わないでください、話しがごちゃごちゃになっちゃいますから!」
「どうしてそんなことに…?」
「実はね…」
多歌宮は昨日、注意して逆上した不良三人に襲われそうになった時に雛が助けてくれて、さらに足を痛めた自分を保健室まで連れて来てくれたことを話した。
「そんなことがあったんですか…」
「あなたの彼女さん、雛さんにはお世話になったからお礼をしなきゃと思って、作ったお菓子を持ってきたんだけどあいにく休みだったってわけ、納得してくれた…?」
「はっはい…」
「捻挫した所は腫れが引いてきてる、これなら明日には治るぞ。」
「診てくれてありがとうございます。」
「だが、今日一日いっぱいは過度な運動は控えるんだぞ、授業で体育があったら休め。」
「先生に話しておきます。」
すると予鈴のチャイムが鳴った。
「ほら、二人とも早く教室に戻れ。」
«はい。»
二人は保健室を出た。
「納得してくれたみたいだし、これで失礼するわね?」
「まっ待ってください!」
「まだ何か?」
「今日、放課後に雛ちゃんのお見舞いに行くんですけど、一緒に行きませんか…?」
「えっ、いいの…?」
「お礼のお菓子を渡したいんですよね…?」
「えっええ…?」
「じゃあ、行きましょう。」
「あっありがとう…あんた、いい奴ね、誤解してたわ…?」
「お互い様です。」
「フッ、言うわね、あんた名前は?」
「鏡原鶴子です。」
「鏡原さんね、放課後、ついて行くわ。」
「わかりました。」
二人は放課後に校門前で集まることにした。




