メイド喫茶「エリア8.8」
新しいパイロットは奏というメイドさんだった。
いや、メイドさんではない。
メイド服を着ている女子大生だった。
あ、いや、ここでは女子大生とかは関係なかったな。
ちなみにメイド喫茶で働いているとか、コスプレが趣味とかじゃなくて、大学の学園祭でメイド喫茶をしたことがあるってだけだった。
なんか俺の嗜好が反映するって言ってたなあ、岬さん。
うん、岬さんは華麗にスルーしてくれている。
ちなみにパイロット適性はCだった。
これでスターファイヤの複座にちゃんと人が収まることになる。
デイモンの種類や数によるけれど、少ない数ならば、単独でセイバーに搭乗して出撃すれば撃墜出来るはずだと岬さんが言ってくれた。
「わあ、メイドさんだあ」
「可愛い」
「ねえ、先場司令。これ私達も着たい」
ハンガーから戻って来た亜里沙と郁がそんなことを言い出した。
「着たいって言われても」
「ポイントを使えば出来ますよ」
岬さんが言った。
なんですと?
「あ、シャワー後の着替えってところで?」
「それは固定の服飾のことで、それとは別でポイントで購入できます」
「なにそれ」
アカシックレコード、どこを充実させてんだ?
「着せ替えプレイが出来るってこと?」
「プレイとか」
「エロ親父なんですか?」
あ、いかん。
自らクリティカルヒットを食らう選択をしてしまった。
「モチベーションの維持に繋がる効果があるんです」
「あ、そうなんだ」
岬さん、そう言うことは最初に言ってくれないと。俺、イレギュラーなんだから。
タブレットのその他の中に、「コスチューム」ってのがあったよ。
食材を含めて俺の裁量で使っていいと、まるでお小遣い制のように与えられたポイント分で、余裕で買えるじゃないか。
「ええと、メイド服か」
ラインナップを見てなかなか驚いていた。
コスプレの定番みたいなのがずらーっとね。
そんでもって水着まであった。
「あ、あった。けど、これサイズとかは?」
「タブがあるでしょう?服飾の上に」
「ある。ああ、これが個人名になっているのか」
タブを押すとそこに「南乃亜里沙」とあった。
「サイズが適正化されてるのか。アカシックレコードってすごいな」
そう呟きながらタップしていく。
合計してもそんなに大きなポイントにならなかった。
「で、決定と」
何も起きない。
「えっと?」
「着替えて来るー」
「失礼しまーす」
あ、そうか。ここで手に入れた服は着替える必要があるのか。
しばらく待つと二人がメイド服で戻って来た。
「どうですか、ご主人様」
「らぶらぶ」
きゃっきゃうふふし始めたぞ。
新入りの奏は少し遠慮気味だがな。
「何ですか?」
そして俺の視線に気付いた岬さんが聞いて来た。
「いや、岬さんの分も買ったんですけど」
「はい?」
「メイド服、岬さんの分も」
何やら葛藤しているご様子。
そして意を決したように立ち上がった。
「分かりました。着替えて来ましょう」
あ、なんか、そんな戦場に向かうような表情で言われても。
なんか、ごめんなさい。
◇
はい。ここはどこのメイド喫茶でしょうか。
美しいメイド4人が戯れるオペレーションルームはまるで異次元。
まあ、異次元って言うかアストラルスペースなんだけれども。
「先場司令」
岬さん、メイド姿めっちゃ似合ってるじゃんか。
「先場司令っ」
「あ、はい。すいません」
「呆けないでください」
「見惚れてたんです」
「な」
おお?
岬さんが照れている?
「搭乗の区分を確認してください」
「あ、そうだったな」
「3人も座って」
「はい」
「はあい」
「はい」
3人のメイドが俺の前に座っている。
うーん、眼福。
「現状、機体はセイバーとスターファイヤの2機だけだ」
3人がうんと頷く。
ちゃんと話を聞く態度なのがとっても嬉しい。
「相手にもよるが、スターファイヤのロケット弾は命中が難しいから、パイロットに亜里沙」
「はい」
「複座には郁」
「はい」
「と言うわけでセイバーには奏」
「はい」
「相手が手強いようならセイバーには亜里沙に搭乗してもらう」
3人が頷いた。
そして奏が手を上げた。
「はい、奏」
「えっと、ロケット弾は近接信管のタイプにしないのですか?」
「きんせつしんかん?」
「先場司令」
「ん?」
岬さんがホワイトボードに映し出してくれた。
ああ、近接信管ってそういう字なのね。
「近接信管は、相手の近くになると勝手に爆発してその破片で相手を撃墜するものです」
「え?それってとっても便利じゃない?命中させなくていいってことだろう?」
「そうですね」
「それを弾薬として購入すればいいのでは?」
「無理です」
「無理?」
なんでさ?
「先場司令のランクと基地としての経験値が足りていません」
「あー、つまりロックされてる状態ってこと?」
「そうです」
アカシックレコードさん、俺達を勝たせたいんじゃないのかよ?
ロックする必要あるか?
って言うか強い機体を最初から使わせてくれればいいじゃないか。パイロットも全員適性Aで出してくれれば。
俺の表情から感じ取ったのか、ホワイトボードにいろいろと表示された。
「これはアカシックレコードからの説明にはなかったことで、私の推測になります。それでもよろしいですか?」
「もちろん。お願いします」
岬さんの予想なら合ってる気がするし。根拠は無いが。
「デイモンと私達人類の意志、意識の戦いという考えです」
「意志?意識?」
「はい。私達がこの基地で戦果を挙げることで、意志や意識のレベルが上がっていくような感じです」
「つまり、基地のレベルってこと?」
亜里沙が質問し、岬さんが頷いた。
「ほぼ同義だと考えてください。私もこれまでの経験から、基地レベルが設定される意味について考えて来ました」
「でも、ロットで適性SとかAとかのパイロットが出ることがあるじゃないか」
「それはあくまで個としての価値です。基地レベルとしてはあまり加算されません」
「じゃあ、機体ですごく強い機体が出たとしたら?」
「機銃は使えるでしょう。でも高性能のミサイルは買えません」
「あー、宝の持ち腐れな感じになるのか」
「そこまでは言いません。優秀な機体は十分な戦果を機体出来ますから」
ふむう。
「私達の意識が、デイモンに対抗するために高まると、使えるものが増えていくことになっているのだと思います」
「アカシックレコードに認められないといけないってことかなあ」
分かったような、分からなかったような。
「ま、いいや。取り敢えず近接信管のロケット弾はまだ買えない。そういうことだな?」
「はい。でももう少し戦果を上げれば、たぶんロック解除されます」
「そうか。じゃあ3人にがんばってもらうしかないな」
3人がやる気満々で頷いてくれた。
とここでレーダーコンタクト。不定期便だ。
3人がハンガーにダッシュした。
いい動きだなあ。
今の話もあってやる気満々って感じだろうか。モチベーションポイントもカンストしてるんだろうか。
「敵影12。多いわ。種別不明、いえ、ジャイアントバット」
『了解。離陸する』
2機が滑走路から離陸して上昇して行く。
「さらに3。合計15体」
『了解』
多いぞ。
「セイバーに亜里沙を乗せるべきだったかな?」
「いえ、奏でもジャイアントバットなら倒せるはずです」
「そうか。信じるしかないな」
でもって戦闘はあっけなくこちらの勝利となった。
「強いな、おい」
「まあ、ジャイアントバットですから」
「数は12もいたけど?」
「ジャイアントバットですから」
「あ、そう」
ジャイアントバットってデイモンの中でも雑魚なんだな。
「戻りました」
3人がキューブを岬さんに渡して俺の前に並んだ。
「無事、撃墜しました」
「うん、ご苦労さん」
まずは亜里沙と郁を撫で撫でする。
「初任務、無事に完了しました」
そして奏が俺の前に立った。
って言うか今気づいたけれど、3人ともメイド服で戦って来たんだね。
パイロットスーツみたいなの着ないのね。
そして俺はタブレットで奏のモチベーションポイントをチェックした。
「えっと?コミック?」
「はいっ。お願いしますっ」
「コミックって漫画だよね?」
「普通そうですね」
岬さんに聞いたらそう返された。
「ってことはロットのその他か?」
「そうです」
ほんとにコミックのタブがあってそれをタップすると、ずらーっと恐ろしい量の漫画がリストアップされていた。
アカシックレコード、すごい。
「えっと、どれがいいとかある?」
「ありますっ」
「じゃあ、選んでよ」
「分かりました」
俺はタブレットを奏に差し出した。
「これ、いいですか?初回任務のお祝いってことで、5巻まで全部」
「転生令嬢?そんなジャンルがあるのか」
ポイントを見たら、メイド服よりはるかに安かった。
「じゃあ、これを。ん?メンバーのタブがあるのは?」
「それぞれの所有しているタブレットで読めるようにするかと言うことです」
「ふーん。全員を選んでもそんなに差がないな」
「まあ、タブレットを回し読みすることも可能ですし」
「なるほど、確かに」
俺は亜里沙と郁に目を向けた。
「読みたい?」
「私はどちらでも。あまり漫画読みませんから」
「私は読んでみたいです」
「ふーん、岬さんは?」
「私ですか?」
俺に話を振られて岬さんがびっくりしていた。
「ま、まあ、読んでみたい気持ちはあります」
「じゃあ、全員っと」
ぽちっとな。
「ありがとうございますっ」
うん、奏のモチベーション、明らかに上がったな。
「先にメンテを」
「了解ですー」
3人がメンテナンスのためにハンガーに戻って行った。
「ん?何?」
岬さんの視線に気付いて尋ねた。
「いえ、今までここに着任した司令はあまり私にさっきのような話をされなかったので」
「ふーん。でも岬さんが頼りだし、岬さんのモチベーションも上がって欲しいし」
「そうですか。お気遣いありがとうございます」
ぺこりと岬さんが頭を下げた。
いやいや。
それは俺の方こそですよ。
「これからもよろしくお願いします。イレギュラーですが」
俺もぺこりと岬さんに頭を下げたのだった。




