ケイオスを渡るもの
「くっ。ちょこまかとっ」
私はセイバーの機体を反転させた。
すでに爆弾は投下した。
最初はそこそこにまとまってケイオスの上を走っていたブラックハウンドの群れの真ん中に落とせた。
8体のうち、3体は吹き飛ばした。
郁の乗ったスターファイヤの空対空ロケットでさらに2体を倒せた。
そこからは私の出番。
機銃で1体を倒したのだが、その後ブラックハウンドがジグザクに走るようになった。
知恵もそこそこあるわけね。
こうなると当てるのが難しい。
何しろ速度差があるので、射撃のタイミングはほとんど一瞬なのだ。
「くっそー」
いけない。
どんどん基地が近付いて来ている。
もう低高度からでも視界に入っている。
デイモンは基地のレーダードームを攻撃するはずだが、基地の人間をついでに襲うこともあるらしい。
先場司令。
私の頭を撫でてくれる人。
「このおおおっ」
やっと命中して1体のブラックハウンドが倒れた。
あと1体。
反転。
間に合え。
間に合え。
間に合って。
『亜里沙、少し上昇』
「え?」
突然の岬さんからの通信に戸惑いつつ、操縦かんを引いて上昇する。
基地の屋根から銃弾が放たれる。
ブラックハウンドが数秒それを躱すがとうとう命中してぶっ倒れた。
「キル。キルですっ」
『こちらからも確認した。戻って』
「了解。リターントゥベース」
はあああと息を吐きながら私は基地に機種を向けた。
すでに着陸していた郁が出迎えてくれた。
「亜里沙、見た?」
「見たわ。あれ、ひょっとして先場司令」
「うん、そうみたい。よかったねえ」
「本当に」
私達は戦闘の様子を記録したキューブを持ってオペレーションルームへと向かった。
「帰還しました」
「帰還しました」
「おお、ご苦労様」
キューブを岬さんに渡して先場司令の前に立った。
「初めてのケイオス上のデイモン。がんばったな」
頭を撫でられる。
ふわーっとするこの感じ。
ああ、無事でよかった。
郁もとっても嬉しそう。
「先場司令。最後の迎撃、お見事でした」
「いやあ、銃なんて初めて撃ったよ。何とか命中してほっとしてる」
私と郁は視線を交わした。
「先場司令」
「先場司令」
「ん?」
「偉い偉い」
「偉いですー」
「うおっとお?」
郁と二人で先場司令の頭を撫で撫でしたのだった。
◇
「先場司令」
「はい」
屋上の銃座から撃ちまくった感覚をにぎにぎしながら、確かめていたところ。
いやあすごい迫力だったよ。
反動っていうの?それがすごかった。
「戦果を確認したのですが」
「ああ、ブラックハウンド8体だろう?」
「それはそうなのですが、最後の2体はレア種だったようです」
「あ、そうなんだ。お?ってことは?」
「はい、ロットを引く余裕が出来ました」
「おおー」
パイロット欲しいところだったんだよねえ。
いや、待てよ。
機体か?
「ロットは1回分だよね。何のロットを引くべきだと思う?」
「諸々の経費、ランニングコストを考えると1回分ですね。種類はぶっちゃけ全部必要です」
「そうなんだよなあ」
悩ましいところだ。
「パイロットを引けば、複座のスターファイヤをちゃんと運用できるようになるし」
「そうですね」
「メカニックを引けば、郁をパイロットとして専任に出来るよね。メカニックでパイロット適性は低くても複座には乗せられるよね?」
「出来ます」
「あるいは機体。単座の戦闘機が出ればとてもありがたい」
「その通りです。特にある程度爆装が可能が機体だとありがたいですね」
「なるほどー」
腕組みして考えちゃう。
「亜里沙達に意見を聞くのはあり?」
「全く問題ありません」
俺は呼び出しボタンを押して、ハンガーで整備中の二人を呼ぼうと思ったけれど、だったら自分で行こうと席を立った。
ハンガーでは二人がスターファイヤの先端部分を開いて整備をしていた。
「あれ?先場司令?」
「あー、作業しながらでいいから、ちょっと聞いてくれるかな」
「はい、どうぞ。って言うか手、止めます」
「はい、どうぞ」
なんかすまん。
「さっき仕留めたブラックハウンドの最後の2体。あれ、レア種だったんだ」
「あら」
「道理で動きが」
「で、結果ロットを1回分引けるんだけど、何を引くべきか迷ってて、二人の意見も参考にしたいなと思って」
俺の言葉に二人が顔を見合わせた。
「私達に意見を求めるだなんて」
「先場司令が決めればいいのでは?」
「まあ、それはそうで、最終決断は俺がするけれども、意見を聞きたいんだよ」
「まあ、そこまで言うのなら」
「いいですけど」
なんかすごい渋々感が痛いんですが。
少し後悔してる俺です。
「私はもっと仲間が欲しいからパイロット」
「私は機体です。単座戦闘機欲しいです」
あら、思い切り即決。
しかも理由が明瞭。うん、若いっていいね。
「そっか。分かった。ありがとう」
「先場司令が決めてくれればいいんですからね」
「あくまで参考ですよ、参考」
というわけでオペレーションルームに戻った俺。
「決まりましたか?」
「パイロットにするよ」
「理由を聞いても?」
俺はいったん椅子に座った。
「デイモンの不定期の出現が増える可能性がある」
「そうですね」
「夜間も」
「そうです」
「その都度、彼女達に出撃してもらうことになるけれど、オーバーワークが怖い」
「確かにおっしゃる通りです」
「人が足りない職場は体力も精神も削る」
そこは俺、実体験しまくり。
「だからパイロットなのですね」
「うん、いいかな?」
「決めるのは先場司令ですから」
「そうか。そうだったな」
俺はタブレットを手に取った。
ロットの画面を呼び出して、パイロットの画面をタップする。
そしてドアが開いた。
「失礼しまーす。藤尾奏でーす」
な。
巨乳メイドだと?
いや浪漫でしょ。メイドさんは出さないと。




