カルボナーラ大好評
「おいしー」
郁が頬を緩めて言った。
「まあ、今回のは全部、メーカーのお手柄だから」
今回のパスタは、棚にあったインスタとのカルボナーラを使ったものだ。
少しだけ黒コショウを足して、ラー油をちょびっとだけ入れたけれど、ほとんど素の味に近いはずだ。
「パスタの茹で具合は先場司令の腕前では?」
「まあ、時間決まってるし」
「なるほど。こちらのスープもインスタントですか?」
岬さんがスープカップを手に聞いて来た。
「そっちは俺の手作り」
「スープも美味しいです」
「ええ、確かに美味しいです」
「美味しいわね」
なんか気を遣われている気がしないでもないけれど、褒められれば嬉しい。
「ご飯の後は定期便だよね?」
「そうね。そろそろ準備しましょうか」
「はい」
「はい」
食事を終えてまったりしていた二人が立ち上がって、ハンガーへ向かった。
「郁のモチベーションポイントって何だろうな?」
パイロットのモチベーションポイントは帰還してからじゃないと分からない。しかも時に変わることもあるみたいだ。
亜里沙はスキンシップで撫で撫ですればOKなのだが、今後は変わるかもしれないってことなのだ。
「ポイントが掛からないものだといいのですが」
「モチベーションが下がると働かなくなるっていう仕様がなあ」
「最低限の意欲と、技能も下限になる、ですね」
「まあ、そうだけど」
そうなるとほとんど役に立たないって言ってたのは岬さんですよ。
「あ、出ました。今回の定期便はまっすぐこっちですね。離陸して。ジャイアントバット5体よ」
『了解』
『了解』
2機の戦闘機が離陸して行く。
それを見送ってから、岬さんに尋ねた。
「プロペラ機って出ないの?」
「出ます」
「ゼロ戦とか?」
「いえ、どうもジェットエンジンが実用化されて、戦闘機として活躍するようになった時代が境目になっているみたいです」
「へえ、そうなんだ。じゃあゼロ戦は出ないんだな」
「出ません。ちなみに先場司令のレベルが上がっていけば、機体のバリエーションも増えていきます」
「強い戦闘機が出るってことなんだな?」
「そうです」
逆に言えばレベルが低く、司令ランクがまだC級な俺が引いた機体は、弱いってことなんだよなあ。
「あと、どうでもいいこと聞いていい?」
「何でしょう?」
「なんでセーラー服なの、二人とも?」
「学生だからでしょうか」
「ふーん」
「すいません。実は司令の嗜好が反映されています」
「うえ?」
お、お、お、俺にセーラー服の趣味がっ。
は、恥ずかしい。
確かにセーラ服のえっちな動画を見たことはあるけれどもっ。
これ以上の会話は危険だ。
「ちなみに、服は彼女達がシャワーを浴びた後で、その都度再構築されていますから」
「ああ、そうでしたね」
各個室にはシャワーがあって、それを浴びることが可能だ。
なんか一日一回のシャワーが推奨されていて、怠ると能力低下とか起きるらしい。
前任者の引いたパイロットでは正にそうなっちゃった子がいたらしい。
でもって、トイレはある。あるけれど基本的に使わない。
排泄しないのよ、ここでは。
おしっこはしようと思えば出るらしいけれど、いわゆる尿意を覚えるという状態にはいかないらしい。
不思議空間ですね、はい。
◇
「無事に帰還しました」
「帰還しました」
「ご苦労様」
二人は接敵してすぐにジャイアントバットを撃墜していた。
「まずは亜里沙」
「はあい」
にこにこ顔で俺の前に立つ亜里沙。
その頭を撫で撫でする。
「がんばったな」
「はいっ」
うん、とってもいい返事。
続いて郁。
タブレットで彼女のモチベーションポイントをチェックする。
「ん?」
郁もスキンシップなんだが?
「えっと、じゃあ、撫で撫でと」
「ありがとうございます」
モチベーションポイントの維持にポイントがいらない二人だった。
これはさらに当たりなのでは?
そう思って岬さんを見ると、小さく笑顔で頷いてくれた。
あー、なんか嬉しい。
「さて、先場司令」
「おう」
「やはりスターファイヤのコストが問題になりますね」
「あ、やっぱり?」
「はい、やはり空対空ロケットはコストがかかります。今回の定期便でぎりぎりプラスが出てるという感じです」
「そりゃ困ったなあ」
俺が腕組みすると郁がすまなそうな顔をして近づいて来た。
「すいません。私が上手に出来ないので」
「あ、ごめん。そういうことを言ってるんじゃないんだ」
「となると、やはり亜里沙にセイバーに乗ってもらう方がいいかもしれません」
「確かに一人で倒せていたしな」
郁が来る前までは彼女一人で定期便は楽勝だったわけだし。
「編隊を組んでいるので、撃墜による経験値は入ります。ただし、亜里沙が全部倒すと、その技能値は亜里沙にしか入りません」
「郁のレベルアップが遅れるってことか」
「あの、そもそも郁はメンテナンスでそっちの経験値が入るのでは?」
亜里沙が言うと、岬さんが頷いた。
「そうですね。でもその場合はメカニックとしての技能値なので、パイロットとしての技能値には入りません」
「なるほどー」
難しいもんだな。
「また白いレア種が出ればいいのですが」
「なかなか出ないからレア種だもんな」
取り敢えず、次からはセイバーに亜里沙が乗ることにして話が決着した。
亜里沙と郁はメンテナンスに早速行くと言って、ハンガーへと向かった。
でもって、俺はタブレットでお勉強である。
このエリア8の司令が集まる「司令会議」ってのがあるんだと。
新任の俺が着任したことで、臨時の会議が開催されるわけだ。
俺は他の基地の司令についての資料を読み込んでいるところだ。
「岬さん」
「はい」
「司令って全員日本人なんだね?」
「エリア8は日本人ですね」
「あー、じゃあ、他のエリアはそうじゃないってことなんだ?」
「そうです。「司令大会議」で各エリアからの代表が集います。そこではいろいろな人種の人が集まります」
「ふーん。エリアが全部で64もあるしなあ」
「いえ、現状は63です」
「え?そうだっけ?」
前に聞いた時には64って言ってたような?
「今朝、大規模ウェイブが起きて、エリア53が壊滅しました」
「うえ?」
「タブレットのトピックに書いてあったと思いますが?」
「すまん、見てなかった。ちゃんと見るようにする」
「そうしてください」
これは真面目に反省だな。
「そんで、壊滅するとどうなっちゃうわけ?」
「他のエリアでデイモンの不定期発生率が高まるようです」
「負担が増えるってことか」
「そうです」
「壊滅したエリアはもうもとに戻らないんだな?」
「はい」
ん?もしかして?
「ひょっとして、すでに壊滅したエリアがあったってこと?」
「そうです。元々は72のエリアがあって、現状は63までに減っています」
「形勢不利ってことなんだ?」
「なんとも言えません」
「ん?なんで?」
「大規模ウェイブを撃退した結果、その後デイモンが出現しなくなったエリアが3つあります」
「人類が勝利したってこと?」
「恐らくそう言う事なんだと思います」
そこのところはアカシックレコードからの説明もされていないのか。
話を戻そう。
「エリア53とうちのエリア8だと大きく離れているから、不定期な出現はあまり関係ないとか?」
「いえ、エリアごとの距離は無意味です」
「あ、そうなのか。じゃあ、うちにも不定期出現が増加の可能性があるってことなんだね?」
「そうです」
まあ、そんな会話をしていたらフラグが立っちゃったのかもしれない。
「レーダーに感アリ」
「行ってるそばから不定期かよ」
「あ、ケイオス上ですね」
「あ、海を渡って来るってやつか」
どんな原理か知らないが、ケイオスの海を歩いて来るらしい。
「亜里沙、郁。ケイオス上に出現よ」
『了解。爆装して搭乗するわ』
『私もスターファイヤで出ていいですか?』
ちらっと岬さんが俺を見る。
「出撃してくれ」
『了解です』
「確認数8よ。種別はまだ不明」
『了解。爆装が終わり次第離陸します』
俺としては初めての地上、じゃなかったケイオス上を移動して来るデイモンだ。なんか少し緊張する。
って言うかデイモンが来るたびに緊張してるけれども。
「種別判明。「ブラックハウンド」、結構俊敏よ。気を付けて」
『了解。爆装完了した。離陸する』
窓の外をスターファイヤとセイバーが離陸して行った。
「先場司令」
「ん?」
「先ほど言った通り「ブラックハウンド」は俊敏です」
「ああ、黒いでっかい犬みたいなのだよね?」
「そうです。もしかすると撃ち漏らす可能性があります」
「え?マジで?」
ケイオスはこの基地のレーダードームに向かって攻撃を仕掛けて来るらしい。そこそこの耐久力はあるが、それがもし壊されると、このエリア8.8の防衛失敗と判定されるらしい。
どんな仕組み何だよ。
「こちらへ」
「ああ」
俺は岬さんに続いてオペレーションルームを出た。
市販のソースの美味しいことと言ったら。




