ワイバーン強襲
「奏。私は囮になる。背後からロケット全弾ぶち込んで逃げて」
『…了解』
一瞬の躊躇を感じさせる間はあったけれど、受け入れてくれた。
たぶん、この方法しかない。
真っ向勝負を挑んだら、私達の戦力ではワイバーンを落とせない。
スターファイヤの機動ではワイバーンの攻撃を躱せない。このセイバーでも怪しい。
「行くよっ」
ワイバーン目掛けて加速していく。
幸いこちらが上の高度を取れている。降下の加速も加えて、銃撃を加えながら横をすり抜ける。
案の定、私に食いついた。
後ろを下降してくる。
『撃ちますっ』
操縦かんを引いてロケット弾に巻き込まれないように機動する。
首を振って後ろを確認すると、ロケット弾がワイバーンにずばずば命中していた。
ナイス、奏と郁。
「ダメか」
あわよくば撃墜できるかと思ったけれどまだダメだった。
でも竜麟が結構はがれた感じだ。
スターファイヤを追おうとするワイバーンに向かって機銃を放つ。
竜麟に弾かれる銃弾と、肉を爆ぜさせる銃弾と。
ああ、左の翼が結構ダメージ入っていて、飛び方がよたっている。
行けるかも。
そう思った時にワイバーンがブレスを吐いた。
とっさに操縦かんを動かす。
一瞬視界が赤く染まるがすぐにそのブレスから抜けた。
危なかった。
と、エンジンが咳込んだ。
機首のエアインテーク、エンジンを燃焼させるために空気を取り入れる口からブレスを吸い込んでしまったのだ。
大丈夫。
まだ止まってはいないっ。
私はこちらに顔を向けているワイバーンに向かってトリガーを引いた。
堕ちろ。
堕ちろ。
堕ちろっ。
◇
『先場司令。ワイバーン撃墜しました』
「おお、マジか」
銃座でほうっと息を吐いた。
『滑走路へ向かってください』
「お、おう」
これは初めてのパターンだ。
嫌な予感がする。
走ってハンガーへまず到着すると、スターファイヤから奏と郁が降りて来たところだった。
「先場司令、亜里沙が」
「どうなったんだ?」
「結構やばい感じです」
「やばいって何だよっ」
走って滑走路に出る。
あれか。
目を向けた先に煙を吐きながら飛んでくるセイバーが見えた。
エンジンが燃えているのか?
高度を下げているのに車輪が出ていないぞ。
「ギアが出てない。胴体着陸だわ」
それって不時着ってやつだ。
そしてそのセイバーの機体の腹が滑走路にもうすぐで付くところで、セイバーのエンジンがボンと音を立てた。
バランスを崩したセイバーがつんのめってごしゃっと機種が潰れた。
「くそっ」
俺はセイバーに向かって走り出した。
そのままセイバーは機体を横に回転させながら滑走路を滑り、そして止まった。
キャノピーが開いてパイロットの亜里沙が降りて来る。
良かった、無事だ。
そう思ったのだが、そのまま亜里沙は滑走路に倒れた。
「亜里沙っ」
駆け寄って抱き上げる。
胸が上下しているので呼吸はしている。
「先場司令っ」
駆けつけた二人が消火器をエンジンにかけるが焼け石に水。
「離れろっ」
「はいっ」
結局それ以上エンジンは爆発を起こすことはなかったが、セイバーはほぼ燃え落ちた。
亜里沙を抱いたままオペレーションルームに戻る。
隣接する医務室のドアを開いて亜里沙をベッドに乗せる。
何を大事に持っているのかと思ったら、キューブだった。
そのしっかり握られた手の指をゆっくりはがしてキューブを取り出した。
「岬さん、これを」
「偉いわね、亜里沙」
岬さんが亜里沙を見て言った。
「そんな言い方、ちょ」
俺は言葉を飲み込んだ。
そうなのだ。
恐らくセイバーがもうダメだと亜里沙は悟っていたはずだ。
このワイバーン撃墜のキューブがあれば、たぶん追加のロットが引けるはずだ。
このキューブが無かったら、正直詰んでいく道しかなかったかもしれないのだ。
だがそれはここでランクAの亜里沙を失えば、同じことだ。
「メディカルチェック」
ポイント消費。
胸骨の骨折と出ている。
「メディカルケア」
ポイント消費。
「後は?何が出来る?」
「ここまでです。後は亜里沙が意識を回復するまで待ちましょう」
俺は脱力してベッドの横に座った。
亜里沙の頭を撫で撫でする。
「亜里沙、がんばったな。偉いぞ」
いつの間にか楓と郁も横に並んでいた。
「先場司令。報告を聞いてあげてください」
「あ、ああ。そうだな」
俺は立ち上がった。
「ワイバーン、撃墜しました」
「ああ、ご苦労」
俺は郁を撫でようとしたが、郁が小さく首を振った。
タブレットで確認したら「ハグ」になっていた。しかも奏まで。
「がんばったな、二人とも」
俺は二人を抱き寄せてぎゅっとしたのだった。
◇
「ん」
目が覚めた。
見慣れない天井。
これは個室じゃない。
そして横に顔を向けてぎょっとした。
先場司令がベッドに倒れ込むみたいに寝ていた。
ああ、医務室だ。
そうか。無事に生還できたんだ。
たぶんセイバーはもうダメだろうけれど。
手にしていたはずのキューブは見当たらないけれど、たぶん回収できたのだろう。
ワイバーンを撃墜したとなれば次の機体も楽々買えるはずだ。
ほっとしながら先場司令を見た。
顔、近いなあ。
心配して横にいてくれたんだろうなあ。
それにしてもよく倒せたなあ、ワイバーン。
放った銃弾が目に当たったから倒せたんだと思う。
もう一度やれと言われてもやれる自信はないなあ。
「亜里沙。起きたのね」
「あ、岬さん」
医務室に岬さんが入って来た。
「先場司令。亜里沙、起きましたよ」
岬さんが先場司令の肩をゆすった。
ああ、ちょっともったいなかったかも。
先場司令の寝顔、もう少し見ていても良かったんだけどな。
「んあ?おおっ、亜里沙っ」
「ご心配を掛けたようで」
「胸は?」
「胸?」
「胸骨折れてたんだ。メディカルケアを使ったから大丈夫だと思うが?」
「ああ、たぶん、平気です。どこも痛くないです」
「そっかあ」
先場司令がすごいほっとしてる。
嬉しいなあ。
「ワイバーン、撃墜しました」
「ああ、ご苦労様」
ぎゅっとハグされた。
思わず私は手を先場司令の背中に回して、ぎゅっとし返してしまった。
一瞬先場司令の身体が強張った気がしたけれど、すぐにそれも無くなって、私達はしばらく抱き合っていたのだった。
一応ここがクライマックスなのでした。




