第五章 暗黒将軍バルログ
「暗黒将軍バルログが動いたという報告が入りました」
参謀の冬木先生が重々しい口調で告げると、職員室に集まった王女防衛隊の面々は静まり返った。
つい先日まで意気揚々としていた雪菜先輩の顔が青ざめる。
「バルログ...まさか、あの」
「全ての光を飲み込みあらゆる闇を操る魔界の将軍です。古代魔王の血統に最も近いと言われる正当魔族です」
冬木先生が資料を広げた。
「問題は、バルログの暗黒は炎の光すら飲み込むと言われていることです。王女の得意な炎魔法が通用しない」
熊田先生が拳を握りしめた。
「じゃあ、どうやって戦えばいいんだ?」
「魔界に戻って魔王軍と合流し、籠城戦に持ち込むしか...」
暗い雰囲気が職員室を包んだ。
「グラディウスが敗れただと?あの魔剣王が?」
部下の報告を聞いて、バルログは驚愕した。
「はい。しかも魔剣ヴォーパルまで使っていたとの情報です」
「ヴォーパルを使ってなお敗北するとは...」
「王女防衛隊は魔王軍の残兵力と合流しようとしています」
バルログは眉をひそめた。
「王女防衛隊とやらが組織されていたのか。人間界に落ち延びた魔法使いたちが結束したとなると、話は違ってくる」
部下が恐る恐る尋ねた。
「バルログ様、作戦を変更されますか?」
「当然だ。グラディウスを倒すほどの組織相手に、正面突破は愚策」
バルログは指で地図を指し示した。
すると小さな真っ黒な炎がヨチヨチと歩き出し、王女防衛隊とは違うところを示した。
(フッ、炎は炎を呼ぶ。隠密行動は甘かったな、ルナ姫)
「奇襲だ。私一人で行く」
バルログの暗黒の炎が、一層激しく怪しく揺らめいた。
田中はその間、本を読んで寝そべってる。へとへとになったルナがふらふらになって戦っている。
「無理しないで、仲間呼んだら?」
「いいの、あいつら田中君をバカにして」
「僕は気にしてないって」
田中が魔力を抑える能力がある事を知られたら、きっとみんなは田中を脅威に考え始めるだろう。それをルナは案じた。
「やっと倒した…強かったぁバルログ」
ファイアーボールを300発、いや500発は打ち込んだであろう。呪文の詠唱でルナの喉が枯れていた。
「お疲れ」
田中は本を閉じ、倒れ込んだルナの体をマッサージした。
「ありがどゔ」
「ご飯できてるから、休んだら一緒に食べよう」
返事はなく、ルナはスヤスヤと眠りに落ちていた。