第四章 王女防衛隊
グラディウスの燃え尽きた灰が床に散らばる中、教室の扉が次々と開かれた。
「ルナ姫!」
現れたのは雪菜先輩だけではなかった。体育教師の熊田先生、図書館司書の白川さん、用務員のおじさんまで、一斉に教室に駆け込んできた。
「無事でしたか」
雪菜先輩がルナの前にひざまずく。その姿を見て、田中は驚いた。あのクールな生徒会長が、こんなに感情を露わにするなんて。
「氷室先輩…みなさん…」
「素晴らしい」雪菜先輩の瞳が輝いていた。「ルナ姫、あなたがこんな短期間でグラディウスを倒すまでに成長されるなんて。私たちの計画は間違っていませんでした」
熊田先生が興奮して叫んだ。
「魔剣ヴォーパルまで持ってたんですよ!あの伝説の魔剣を!俺たちの訓練の成果が出たってことですかね」
「訓練って何も…」ルナが困惑する。
「いやいや、我々の見守りがあったからこそです」
用務員のおじさんまで胸を張っている。まるで自分が重要な役割を果たしたかのように。
田中はその光景を見ながら、自分の手をそっと動かしてみた。右手を雪菜先輩の方向に向けると、彼女の周りの空気がわずかに揺らめいた気がする。左手を熊田先生に向けると、今度は先生の体が少しふらついた。
(これが僕の能力か…)
繰り返していると、次第に要領がつかめてきた。魔力を持つ者の方向に手を向けると、その魔力が弱まる。範囲も調節できそうだ。
ルナがその様子を不思議そうに見つめていた。
「田中も、ルナ姫を守ろうとして立ちふさがったそうじゃないか」
雪菜先輩が田中に向き直った。
「勇敢でした。人間でありながら、姫をお守りしようとするその心意気…」
「でも結局、守ってもらったのは田中の方だったけどな」
熊田先生がそう言うと、みんなが笑った。
「しかし従者に一番大事なのは勇気だ。それは認めてやる」
用務員のおじさんが田中の肩を叩いた。
人間初の従者として認めてもらえた、ということか。
「田中君…」
ルナが小さく微笑んだ。その笑顔が、田中にはどんな賞賛よりも価値があった。