第二章 魔法の特訓と日常の崩壊
ルナの正体を知ってから一週間が経った。
「田中君、今日も放課後お疲れさま」
彼女は僕の机に近づくと、小声で囁いた。
「例の件、お願いします」
例の件とは、ルナの魔法制御の特訓に付き合うことだった。魔界では当たり前に使えていた魔法が、人間界では不安定になってしまうらしい。
屋上で特訓を始めて三日目、ようやくルナは小さな火の玉を安定して作れるようになっていた。
「見て見て、田中君!今日は消えないよ」
手のひらの上で踊る炎を誇らしげに見せるルナ。その時、屋上のドアが開いた。
「あー、やっぱりここにいたのね」
現れたのは生徒会長の氷室雪菜先輩だった。完璧な黒髪のストレートヘアに眼鏡、いつも冷静沈着で有名な人だ。
「氷室先輩...」
僕が慌てる間もなく、ルナの手の炎が消えた。でも遅かった。
「魔法使い、ね」雪菜先輩は眼鏡を押し上げながら言った。「実は私もよ」
先輩の指先から氷の結晶が現れ、宙で美しく舞った。
「え?先輩も魔法使いなんですか?」
「正確には魔法使いの血を引く人間よ。この学校には意外と多いのよ、そういう人が」
ルナが驚いたような顔をする。
「つまり、この学校は...」
「魔法関係者の隠れた集合場所。偶然じゃないわ、星野さんがここに転校してきたのは。ルナ姫…失礼、星野さんを一人前にするのが私たちの仕事」
その日の夜、僕は一人で考え込んでいた。ルナだけじゃない。雪菜先輩も魔法使い。この学校には他にも魔法に関わる人たちがいる。
僕だけが普通の人間で、みんな何か特別な力を持っている。
翌日の昼休み、食堂で昼食を取っていると、隣のテーブルから聞こえてきた。
「最近、田中って星野と一緒にいることが多いよな」
「まじ羨ましい。あんな美少女と二人きりで何してるんだろ」
僕は慌てて席を立った。このままじゃルナに迷惑をかけてしまう。
でも、廊下で彼女に会うと、ルナは困ったような顔をしていた。
「田中君、実は相談があるの。昨日の氷室先輩の話なんだけど...」
彼女の表情は今まで見たことがないほど深刻だった。