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#10−1:強さを証明する者は、まだ不安なのだ



✦✦✦ 《支配の崩壊》 ✦✦✦


 魔王取引所の最上階。

 そこはゼグラントが市場を掌握し続けるための中枢であり、

 各地の魔王たちと投資家たちが彼に膝を折る場だった。


 広大な会議室の中央に、魔王市場のリアルタイムデータが投影されている。

 そこには、Kの市場価値が異常な速度で上昇している様子が明確に示されていた。


 Kの市場評価:+35.7%(過去最高値)

 黒炎の覇者ドラム:▲12.3%(急落)

 鉄獄の支配者ヴェルト:▲9.8%(下降傾向)


「Kの市場評価がついに過去最高値を更新……?」

「影鬼の王・K、驚異の成長速度だ……!」

「市場の流れが、完全にKへ傾き始めた……!」


 取引所の魔王たちは動揺し、投資家たちは新たな投資先としてKを再評価し始める。

 市場の流れが変わった。

 誰もが気付いていた。


 ――市場の支配構造が、ついにKの手で覆されようとしている。


 ゼグラントは無言のまま、椅子に座り、静かにグラスを回した。

 しかし、その金色の瞳には、冷徹な光が宿っている。


 「なるほど……。市場の流れが変わった」


 ゼグラントの側近であるカリオンが、焦った様子で報告を始める。


 「ゼグラント様、このままではKが市場の新たな中心になりかねません。

 影鬼の存在が市場に価値を持ち始め、投資家がゼグラント様からKへと資金を流しています」


 他の側近たちも慌ただしく報告を続ける。


「Kの……この勢い、止まる気配がありません……!

このままじゃ、俺たちの……いや、ゼグラント様の支配が……崩れかねません!」

「Kは、これまでの魔王とは違います。……市場操作では、対応しきれないかもしれません」


 しかし、ゼグラントは微動だにせず、冷静に答えた。


 「市場の操作で対応できないなら、もっと単純な方法で排除するまでだ」



✦✦✦ 《王たちの選択》 ✦✦✦


 ゼグラントは静かに言い放った。

 

「……Kの拠点を、破壊する」


 ゼグラントが言い放つと、会議室は張り詰めた静寂に包まれた。


 誰も動かない。


 グラスを傾けたその手には、わずかな震えがあった。

 それを見た者はいない。ゼグラント自身すら、気づいていなかった。


 グラスに注がれた液体が、氷の溶ける音とともに小さく揺れる。

 ゼグラントは、それをじっと見つめたまま、指先で軽くグラスの縁を弾いた。

 透明な音が空間に響く。


 側近たちは、ただ息を呑んだ。

 だが、やがて、緊張に耐えきれなくなったカリオンが口を開く。


「……つまり、市場戦ではなく、物理的な排除に移行するということですか?」


 その言葉が落ちた瞬間、ゼグラントが微かに口角を上げる。


「市場での戦いに敗れるなら、残るはひとつ――奴の拠点を破壊し、

存在そのものを市場から消し去る。

影鬼が強くても、Kが“根”を失えば、投資家は信頼を撤回するだろう」


「……Kの拠点を攻撃しろ。徹底的にな……迷いが残らぬようにな」


 一瞬の静寂の後、側近たちは即座に頷いた。


「すぐに準備に取り掛かります」


 一方、Kの拠点では、影鬼軍が拠点の防衛体制を整え始めていた。

 Kは、市場での勝負が変化しつつあることを察知していた。


 「ゼグラントが市場操作を続けるだけの男じゃないことくらい、わかっている」


 影鬼たちは闇の中から滲み出るように姿を現し、その眼光が赤く光った。


 「奴が市場戦で勝てないと判断した時、次に何をするか……」


 ……もしそう思った時……次は、恐らく実力行使かもしれない。


 エリシアが冷静に言葉を添える。


「……物理的に、支配を……奪い取るつもりね。

市場じゃなく、Kの“領域”を破壊して。

……その構造ごと、ねじ曲げる気よ」


 Kは低く笑った。


「そう簡単にやられるつもりはない」


 ……俺を駒だと思ったのか。浅いな、ゼグラント。


「その判断、見誤ったな」


 ゼグラントが市場での勝利を諦め、武力に頼ること――それ自体が、Kにとっては想定済みだった。

 拠点の魔力障壁、影鬼の防衛網、そして情報戦……すでに布石は打ってある。


「……俺を狩るつもりか? なら、俺は“獲物”じゃなく、“狩る側”でいる。――その覚悟、持って来いよ、ゼグラント」



✦✦✦《闇の開戦》 ✦✦✦


 ゼグラントが市場操作から実力行使へと踏み切った。

 Kとゼグラントの戦いは、もはや交渉や市場操作の範疇を超え、

 実力による支配戦争へと移り変わろうとしていた。


 市場ではすでに、その兆候が見え始めている。

 影鬼による市場支配が拡大し、ゼグラント派の魔王たちが次々と動き出した。

 投資家たちは揺れ動き、誰が本当の支配者になるのか、固唾を飲んで見守っている。


 そして、決定的な転換点が訪れる。

 魔王取引所に速報が流れた。


 

【魔王市場速報】

「Kの支配領域にゼグラント派が進軍を開始!」

「影鬼軍 vs. ゼグラントの魔王軍――市場戦争が、実力闘争へと変わる!」


 もはや交渉の余地はない。

 影鬼の王として、Kはこの戦争に決着をつける必要があった。


 だがその矢先、Kの陣営内で不可解な異変が起きる。

 影鬼たちの挙動が――わずかに、狂い始めていた。


 


✦✦✦ 《誤認の刃》 ✦✦✦


 影鬼たちの異変は、最初は小さな“齟齬”として現れた。

 Kの命令が伝達されているはずなのに、微妙に遅れた反応。

 敵と判断すべき対象が、わずかにずれた挙動で処理される。


 そして、事件は起きた。


 取引所に設置された監視眼〈魔眼翼〉の記録から、

 ロゼルの最後の姿がK陣営の影鬼と共に確認された――。

 

【魔王市場速報】

 ――高位投資家ロゼル・ミルディア、失踪

 ――K陣営の影鬼と接触の痕跡あり

 ――Kの影鬼、誤認による“暗殺”か?


 ロゼル・ミルディア――中立投資家として知られ、Kと水面下で協力交渉を進めていた人物。

 一方で、ゼグラントの市場独占に対して明確に反旗を翻していた数少ない声でもあった。


 取引所の空気が一変する。


「……ロゼルは、反ゼグラントではあっても、Kに敵対していたわけじゃない……!」

「影鬼が判断ミス? それとも、そもそも“命令を受けていない”?」


 魔王たちの間に、不安が広がっていく。

 Kは事態を把握すると同時に、眉をひそめた。

 

「これは……俺の命令じゃない」


 だが、影鬼は確かに動いた。

 その“判断基準”はKの影から導かれたはずだった――にもかかわらず、

 その影は、どこか歪んでいた。


「ゼグラントの細工……?」


 Kの胸に不穏な確信が芽生える。

 エリシアがそっと言葉を落とす。

 

「影鬼は、あくまで“影”の存在……。"主"を誤れば、その刃はどこにでも届くわ」


 アルカナは静かに頷いた。

 

「……このままだと、影鬼は“見守る者”じゃなくなる。

“支配の恐怖”として、記憶されるかもしれないわ。

誰も命令していないのに殺す――それは、独裁者と同じよ」


 Kは深く息を吸い、影鬼たちに問いかける。


「お前たちは、誰の影だ」


 影鬼たちはわずかに震え、その答えを、まだ探していた。


 アルカナは魔導スクリーンに投影された魔眼翼からの映像を見て

 口にした。

 

 「ゼグラントの軍が動いたわ」


 影鬼たちは静かに共鳴し、戦の気配を帯びる。


 エリシアが腕を組みながら微笑む。


 「来るわね。奴らの攻撃が――迷いなく、ね」


 戦地――拠点南側の前線にて。

 影鬼たちの布陣が乱れ、情報混乱が広がる中、静かに前に歩み出る男がいた。


 セルバス。影鬼軍を統率する黒き騎士は、仮肉体のまま前列に立ち、沈黙のまま周囲を見渡す。

 部下たちの動揺を見抜き、低く、だが明確に命じた。


 「全員、俺の後ろだ。……すべて、俺の責任で動く」


 その声には迷いも怒りもない。ただ静かな決意だけがこもっていた。

 そして、遠く離れたKのもとへと視線を向け――そのまま、短く言葉を紡ぐ。


 「K様。戦は、信じた者が勝ちます。俺は信じています」


 その瞬間、影鬼たちの姿勢が変わった。

 乱れていた気配が一つにまとまり、再び“軍”としての輪郭を取り戻していく。


 それは、命令ではなく“信念”だった。

 だからこそ、影たちは従った。


 Kは影の魔導通信――思念と影を媒介とした特殊な遠隔連絡術――に意識を繋ぎ、遠隔でセルバスら前線部隊とリンクを結ぶ。

 声を発することなく、思念だけが影を伝い、軍全体に届いていく。


 Kは影鬼たちに向けて、静かに命じた。


「迎え撃て」


 その言葉と共に、影鬼たちは一斉に動き出した。

 影が波のように広がり、闇夜の中へと溶け込んでいく。


 影鬼と魔王軍がぶつかる時が来た。




 【次回予告 by セリア】

「壊すためじゃないのよ。生まれた“声”があっただけ」


「名を持つ影と、制度への反旗」

次回《その影に、名前を》、『価値の外に、個が立つ』。

戦場に光はなくても、そこに立つ誰かの意志は、確かに燃えてる。


「セリアの小言? そうね……“影”に名前を与えた時点で、あなたはもう、ただの観測者じゃいられないわよ。……覚悟は、できてる?」



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