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#幕間6:幕間ニュース



✦✦✦ 《魔導スクリーンが映す戦争》 ✦✦✦


 魔王取引所の中央広場。

 夜の帳を切り裂くように、巨大な魔導スクリーンが光を放つ。


「速報です――魔王市場に、激震が走りました!」


 おなじみの『魔導スクリーンLIVE』のテーマ曲が響き渡り、広場に緊張が走る。

 集まった群衆が、スクリーンに目を凝らした。


 映し出されたのは、冷静な眼差しのキャスター、リュシア・ファーレン。

 隣には、“毒舌”で人気の市場アナリスト、バルゴ・ストライダーが座っていた。


「こんばんは。緊迫する市場戦争の最新情報をお届けします」


 リュシアが神妙な面持ちで切り出すと、バルゴはホログラムを操作し、

 最新の市場データを浮かび上がらせた。


「……入りました。Kがゼグラントを抜きました。市場の覇者が、ついに交代です」


 スクリーンには、現在の市場ランキングが大きく映し出される。


「K、現在の支配率は41.8%。一ヶ月で12.7%、まさに“影が市場を呑み込んだ”格好ですね」


 リュシアが一度息を呑む。

 

「一方、ゼグラントは38.9%。前月比で10%以上の下落です」


「……わずか一ヶ月で12.7%。この伸びは、前代未聞です」


 バルゴが腕を組み、やや皮肉を含んだ笑みを浮かべる。


「まさかゼグラントが崩れるなんて……想像もしなかったさ。

だが現実は、玉座に影が座る時代に入ったということだな」


 ホログラムにはゼグラント派の魔王たちの影響力推移が映し出される。


「バルゴン、ロズマール、ダガルト――影響力のあった彼らの消失は、

市場のバランスに決定的な亀裂を生みました」


 リュシアが頷き、続ける。


「一部では、何者かが意図的に“市場要人を排除している”という話も出ています。

もし、それが本当なら――これは、単なる経済戦争じゃ済まないかもしれませんね」


「さて、ここで現場の魔王取引所前にいるレポーター、マリネスさんに繋ぎます」


 リュシアが呼びかけると、画面が切り替わる。


「はい、リュシアさん。こちら魔王市場の取引広場、マリネスです!」


 背後には巨大な魔導スクリーンの光が夜の闇を割き、赤や青の情報グラフが空中をせわしなく踊っている。

 観客たちはその光を顔に浴びながら、まるで神託を待つ信者のように息を殺していた。

 

「スクリーン前には、数百人の魔族投資家が集まり、Kとゼグラントの動向に注目しています」


 背後では騒がしいざわめきと、ホログラムを指差して議論する投資家たちの姿が映る。


「では、現場の声をいくつか拾ってみましょう」


 投資家A(中年の魔族)

「Kは危険だが……今、動いてるのは彼だけだ。

ゼグラントは……もう、時代に取り残されたよ」

 

 投資家B(若いデモン系)

「この粛清、偶然じゃないだろ? 何か見えない“力”が動いてる……!」


 投資家C(女性型ヴァンパイア)

「私は逆に安心してる。“選ばれた者”しか残れないのなら、価値の証明になるから」

 

 投資家たちの声が消えると、一瞬、奇妙な静けさが広場を包んだ。

 マリネスが画面中央に戻り、締めくくる。


「ご覧のように、投資家の間では皆、何かを信じたいのか、怖がっているのか……言葉にしづらい空気です。

……それを「正義」と呼ぶか「暴力」と見るか――選ぶのは、いま画面を見ている一人ひとりです」


 中継が終わると、再びリュシアが映し出される。

 

「マリネスありがとうございました。それでは現在の数値を見ていきましょう」

「ゼグラント派の市場評価は、過去最低を記録しています」


 リュシアがホログラムに指を滑らせ、次のグラフを提示する。


 ・バルゴン消失:-3.2%

 ・ロズマールの離脱:-4.5%

 ・ダガルトの失脚:-5.7%


「連続的な評価下落によって、ゼグラント派全体の影響力は10%を超える縮小となりました」


 バルゴが鋭く言い放つ。


「ええ、もちろん“影鬼の関与は未確認”ってのが公式見解でしょうよ。

でも、市場関係者の誰もが“ただの偶然とは思ってない”。

殺されてるのは全部ゼグラント派の魔王です。

……ただの“事故”か、“都合のいい淘汰”か。好きに思えばいい。けどな――誰も、無関係ではいられない」


 この数字の背後で、何人の魔王が消え、どれほどの権威が燃え尽きたか。

 誰も語らないが、Kは知っていた。


 突如、スクリーンにゼグラントの声明が割り込んで表示される。

 重く冷たい声が、会場に響いた。


「影鬼市場は、本当に“新たな秩序”なのか? それとも、暴走する怪物の始まりか?」


 秩序と混沌、どちらに傾いても、市場は――国や組織すら凌駕する“魔族の経済”そのものだった。


「Kの支配は、理性の極みか……それとも、破滅の始まりか?」


 一瞬の沈黙の後、ゼグラントは締めくくった。


「投資家たちよ――。

この未来に、投資する価値があると思えるか?」


 その言葉が、群衆の心を揺さぶる。


 リュシアの声が重なる。


「どう答えるのか……それが、この市場が、次に選ぶ“顔”になるでしょう」


 その言葉と共に、広場に吹く夜風が群衆を包み込んだ。

 誰もが口を閉ざし、ただスクリーンを見つめていた。


 魔導スクリーンが、音もなく光を断ち切った。

 残響のように、声だけが残った。

 

 ――画面が静かに暗転し、音声が消える。

 


✦✦✦ 《静かなる勝者》 ✦✦✦


 Kの拠点。


 魔導スクリーンに映るゼグラントの声明を、Kは無言で見つめていた。

 その瞳には、冷たく鋭い光が宿っている。


 部屋の照明は落とされ、スクリーンの淡い光だけがKの頬を照らしていた。

 背後の影鬼たちは輪郭を歪ませながら、まるで息を潜める獣のように佇んでいる。


 この市場で、一つだけ、絶対に変わらないものを作る。

 Kは静かに視線を落とした。召喚制度を壊す――その一点に、すべての意味を見出していた。

 そうでもしなければ、動く理由がない。

 

 ……そう、思っていたはずだった。

 けれど今、その確信がふと揺らぐ。

 本当に、それだけだったのか――胸の奥で、小さな問いがくすぶる。


 ふと、指がかすかに動く。

 理論上、この市場はすでにKの影の中にあるはずだった。

 だが、ゼグラントの声には確かに投資家たちの迷いを誘う響きがあった。


「ゼグラント……随分と必死だな」


 言いながら、自分の胸の奥に小さな違和感が広がるのを感じる。

 何かが、まだ足りない気がする。


 背後に控える影鬼たちが、わずかに蠢く。


 エリシアが隣で腕を組み、目を細める。

 共に市場を駆け上がった“参謀”としての視線が、Kに向けられていた。


「投資家の6割がKを支持してる……市場は、すでに私たちの支配下よ」


 セリアが示した戦略を、エリシアとアルカナが実行へと押し進めてきた。Kが前に出るための盤面は、三人の手によって静かに整えられていた。


 しかし、Kは軽く首を振る。


「……まだだ」

 

 Kは視線を宙に投げた。

 

「“市場そのもの”が、俺を秩序として選んだとき――」

 

 言葉が一拍、止まる。

 

「……それが、本当の勝利だ」


 ……たぶん、“勝利”って言える間は……まだ生きてる証なんだろうな。

 アルカナが前に進み、スクリーンを見つめる。


「……それには、ゼグラントの支配を完全に潰す必要がある」


 Kはゆっくりと立ち上がった。


 その瞬間、彼の足元で影鬼たちがざわりと蠢いた。

 まるで主の動きに反応して地を這う影が形を変えるように。

 背後の魔導スクリーンが、彼の影を引き伸ばして巨大なシルエットを壁に映し出した。


 だが、足元の影鬼が動いた瞬間、ぴたりと動きを止めた。

 一瞬の直感――いや、違和感か。

 その感覚が何を告げているのかは、まだ、形になっていなかった。


 Kはわずかに目を伏せ、考える。

 いや、考えている場合ではない。


 影鬼たちを見渡し、息を整える。


「俺たちは市場を奪うのではない」


 静かに、だが確かに宣言する。


「新ルールは常に俺が上書きする」


 誰かに見せなきゃならない。俺がまだ、ここにいるってことを。


 一瞬、何も聞こえなかった。

 影鬼たちのざわめきすら、音を失ったかのように。


 ……だが、Kの中で燻る“違和感”だけは、まだ消えていなかった。









 【次回予告 by リュシア・ファーレン】


「魔王の“価値”が一晩で塗り替わるなんて、ニュースで報じるには刺激が強すぎますね……でも、目を逸らせません」


「市場が動くたび、誰かの“信頼”が値を変え、そして……消えていく。“数字”が語る真実、それを最も冷たく突きつける瞬間が来ました」


次回《数字が選ぶ王》、《黒き覇者と崩れゆく玉座》。

信頼か、恐怖か――選ばれるのは、“名前”か“数字”か。


「……私はただ、見届けて記録するだけ。でも、もし願えるなら……この数字に、祈りが届く世界であってほしいですね」

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