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#8−3:魔法円に浮かぶ策略



✦✦✦ 《影市場の掌握 》✦✦✦


 Kは影鬼たちを前に、わずかに声を落とした。

 

「……これが“支配”か」


 魔法円に浮かぶ網を、Kはじっと見つめた。

 操作か。それとも、模倣か。

 緊張の糸が、脳裏をかすかに震わせる。

 ……違う。違わせなければならない。


 この歪んだ制度を、ただ信じて従う者がいる限り、止めるわけにはいかない。

 市場の制圧は、そのための最短手――書き換えか、破壊のための。


「支配とは、恐怖ではなく意志だ。……俺が示す、“新たな支配の形”だ」


 あのような……。あんな奴らを生み出す仕組みを、終わらせなければ。


 Kは魔法円の奥を見下ろした。

 ここは市場ではない。生きたゴミの溜まり場だ。

 燃やすか、捨てるか。それだけだ。


 足元で、魔法円が低く、じんわりと光を滲ませる。

 それは、通常の市場ツールでは決して映らない、“影市場”だった。

 

 魔王市場の裏で蠢く資金と情報――その“黒い流れ”を捉えるため、Kは影鬼たちと魔法円を築き上げた。


 幾重もの光が絡み、やがて、魔力の網目が精緻な神経網のように浮かび上がった。


 だが、Kはその精密な光の網に、かすかな“ひずみ”を感じ取っていた。

 まるで誰かが、意図してねじったかのような、不自然な歪みだった。

 見過ごせば、単なる誤差にしか見えない。けれど、それはKの本能を鋭く突いた。


「……この歪み、やはり、何者かが“流れ”に手を加えたか」


 魔法円が静かに脈を止めたように見えた。

 低く漏れた声に、予測と異なる“気配”がにじんでいた。

 

 魔法円の線がわずかに明滅する。

 

 魔法円には、資金と権力のルートが剥き出しになっていた。

 Kには、その流れがすでに見えていた。

 

 Kの指先が、魔法円の中心をなぞる。

 光が震えた。


「……ここだ」


 ゼグラント派への資金流入。その中核を、Kは突き止めていた。


 その言葉に、セリアが静かに歩み寄る。

 魔法円を覗き込んで、セリアはふっと微笑んだ。


「相変わらず面白いわね、K。だが、資本の流れはそんな単純じゃない」

 

 セリアの指先が宙を撫でる。その動きに呼応するように、魔法円が静かに揺れた。

 

「市場は、期待と恐怖でしか動かない。

 そのバランスを崩せば……ゼグラントは、すでに対策を講じているはずよ」


 Kは魔法円に視線を戻した。一瞬、思案するように沈黙した。

 彼の目が、光のラインに、ほんの僅かな“乱れ”を見出した。


「……そのための、次の一手がある」


 Kは淡々と続けた。

 

「ゼグラントはこの動きを察知する可能性が高い」

「影市場を使い、資金の流れをわずかに歪めろ。

影鬼しか読めぬ魔力暗号で、絶対に悟らせるな」


 影鬼たちは、言葉も交わさず、静かに魔法円へと手を伸ばした。

 その仕草は、何度も繰り返された儀式そのもののように、狂いなく正確だった。

 

 指先から零れた光が、円の一隅にふわりと触れた。

 ゼグラント派への資金の流れが鈍る。取引の一角が、じわじわと揺らぎ出した。


 指先に、微かな違和感が絡みついた。

 Kは息を止め、もう一度魔法円をなぞる。

 ……違う。何かが混じっている。

 低く、しかし確かに命じた。


「次は、“好材料”の偽情報だ。希望で目を曇らせ――その隙に、ゼグラントの信頼を削る」


 影鬼たちの指先が魔法円をなぞる。偽りの情報を織り込む、新たな魔法陣が、静かに浮かび上がった。

 

 市場を揺らすラインが脈打つ。特定の魔王名と高評価が、静かに滲み出た。


 だが、その瞬間、Kの表情がわずかに曇った。

 ――何かがおかしい。


 市場の動きが、予想よりも鈍っていた。

 情報を撒いたはずなのに……一部の投資家たちは、微動だにしなかった。

 

「……?」


 Kは、魔法円の一角に、静かに視線を落とした。

 ゼグラント派の資金ルートの一部が、すでに改ざんを想定して動いていた。


「なるほど……ゼグラントも、完全に無策ってわけじゃなかったか」

 

 Kは、唇を少しに歪める。そのまま、影鬼たちに新たな指示を放った。

 

「計画を修正する。別の手を打つぞ」


 市場の掲示板に、異様な数値が躍った。すぐに、投資家たちがざわめき立った。


「……市場が揺れている?」

「何かが――始まったな」


 恐怖と憶測が、投資家たちの間に、濁ったざわめきとなって広がった。


 席を蹴る音が響き、倒れた椅子が甲高い音を立てた。

 続くように、逃げ出す足音が、あちこちで弾ける。

 市場全体が、ざわざわと波打ち、うねり出したかのようだった。


 ゼグラントに牙を剥いたのは誰だ――どこからだ?

 不安が市場の神経を逆撫でした。数字は、無秩序に跳ね始めた。


「Kが動き始めたのか……?」


 魔法円が、かすかに、赤く滲んだ。

 けれど、Kの思惑通りには、まだ遠かった。


 Kは微笑んだ――が、完全に思い通りではない。



✦✦✦《絡み合う思惑》 ✦✦✦

 

 ゼグラント派の資金ルートの一角が、こちらの仕掛けをすり抜けていた。

 まるで、最初からそれを読んでいたかのように。

 さらに、ゼグラント派は、こちらの情報網に細かなノイズを送り込み、反撃の兆しを見せ始めていた。

 

「やはり、ゼグラント……あいつはただの権力者じゃない」


 影鬼たちは指示を受け、次々と影の中に溶け込むように消えていった。

 影鬼たちの消えていく影を、Kは無言で見送った。そして、小さく呟く。

 

「だが、これで終わりではない。この市場全体を支配するためには、次の段階に進む必要がある」


 彼の瞳には、魔法円に浮かぶ無数のラインが映っていた。

 市場を操る“力”を手にしたKは、ゼグラント派の支配構造を静かに食い破り、新たな覇者への道を踏み出していた。

 


✦✦✦《新たな支配者の刻印》 ✦✦✦


 影鬼たちは新たな標的を探し、静かに集い始めていた。


 エリシアが、悪戯っぽく微笑んだ。

 

「ロズマールの死で、市場の情報網は乱れたわね」

「次は、どう動くつもり?」


 Kは目を細める。その声は、低く沈んでいた。


「ゼグラント派の市場工作を支えている魔王を、もう数人消す」

「だが、同時に“新たな支配者”のイメージを投資家たちに植え付ける」


 ずっと黙っていたアルカナが、興味深げに顔を上げた。

 

「つまり、“恐怖の支配”を確立する?」


 Kは頷いた。


「人は混乱の中で、秩序を欲する。

恐怖が溢れれば、支配者を求める。それが――俺だ」

「ゼグラントの市場支配が崩れ始めた今、その“新たな支配者”に俺を据える」


「影鬼は兵ではない。意志を持つ“影”だ」

「そしてその意志は、市場の未来をも書き換える」


 エリシアが、声もなく笑った。

 

「いいわね。市場の恐怖の象徴が、いつの間にか“新たな秩序”に変わる……」

「ゼグラントの時代は終わり、Kの時代が始まる」


 Kは影鬼たちに、言葉を編むように命じた。


「動かせ。“影”は意志だ。ゼグラントの骨を、順に砕け」


 言葉が落ちた瞬間、魔法円の一角が、ぼんやりと赤く脈打った。

 それはまるで――命令というより、予兆だった。


 そして次の瞬間、一体の影鬼が、ぬるりと立ち上がる。

 何の音もなく、だが確かに“命令”が染み渡ったように。


 その足取りは、揺るぎのない静寂をまとい――

 目指す先は、市場第14位の魔王――オズレーシュが潜む、旧図書館の地下だった。




✦✦✦《静謀の座標》 ✦✦✦

 旧図書館の地下。

 人払いの結界の中、埃にまみれたアーカイブルームにふたつの影が対峙していた。


 オズレーシュ――市場第14位の魔王。その男が息を殺しながら口を開いた。


「……俺たちがここにいることを、どうやって知った?」


 Kは応えず、一歩だけ静かに踏み出した。

 その足音が、室内の空気を張り詰めた絃のように震わせる。


「お前の側近が持っていた懐中時計、闇市の流出品だった。

記録の裏に“影”が焼きついていた」


 静かに、オズレーシュの眉がわずかに動いた。


「……まさか、それだけで?」


「それだけじゃない。今夜、お前の口座は凍結される。

投資家の洗浄資金に、ひとつだけ“架空の名義”が混じってた。

それを作ったのは――お前自身だった」


 オズレーシュの喉が、ごくりと動いた。


「何を……した……?」


「俺は何もしていない。

お前が築いた信頼が、少しずつ“真実”を失っていっただけだ」


 Kの声は低い。

 それでも、その一語一語は、刃物のように脳髄を裂いてくる。


「恐れているんだろう? 俺の影でも、力でもなく――。

“自分が信じていたものが、嘘だった”と気づくことを」


 沈黙。


 そのとき、奥の魔導端末がかすかに揺れた。

 オズレーシュの腹心からの伝言が届いていた。


「……トップが落ちました。全データ、公開されました」


 オズレーシュの膝が、音もなく崩れ落ちる。


「……なぜ、俺を殺さない」


「殺す必要はない。

ただ、“次”に現れたとき……お前が、俺の前で生きていないことを望むだけだ」


 Kはそれだけ言い残すと、踵を返した。

 その背中は、闇の中に消えていく。


 残されたのは、崩れた男と、焼きついた沈黙だけだった。


 オズレーシュの崩壊は、静かに市場の神経を焼き始めていた。

 次にKが見据えるのは――市場支配の最深部だった。



「ゼグラント――」


 Kはゆっくりと目を閉じ、次に開いたときにはほんの少し笑みを浮かべていた。

 市場はなお混乱し、影鬼たちは、音もなくその影へ溶けた。

 すでにこの戦場は、Kの掌の中で、ゆっくりと踊っていた。

 

「この世界を動かしているのは、光ではない。

影に潜み、影を操る者こそが……この市場の心臓を、握る」


 笑う影に、福来たる……。まさに、コレだな。


 影鬼たちは、静かに頷き、影の奥へと、溶けるように消えた。

 市場の動揺は止まらない。影鬼たちは、もう、次なる標的へと、静かに蠢き出していた。







 【次回予告 by セリア】

「市場って不思議よね。期待で回って、恐怖で崩れる。

じゃあ、そこに“影”が潜んでいたら――どうなると思う?」


「次回、《影、三たび刺す》。

止まらないざわめきの中で、誰が“真っ先に立ち去る”かしら?」


「K? ……あなた、“仕掛けた側”の顔してるけど、

忘れないで。影はいつだって、制御不能なのよ?」



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