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#6−1:崩壊の予兆



✦✦✦ 《市場崩壊の兆し 》✦✦✦


 魔王たちは、沈黙の中で未来に怯えていた。

 魔王市場の中枢、「占術の間」。


 霜を孕んだような魔力が肌にまとわりつく。

 魔王たちも、投資家たちも、その霜気ただよう空間で無言のまま、水晶を囲んでいた。


 部屋の真ん中に、息づくように脈打つ巨大な魔導水晶があった。

 水晶は、心臓のようにゆっくりと光を刻んでいた。

 その脈動の奥に、市場の波が揺れていた。


 ――その光が、今、不穏な色へと変わり始める。


「なんだこれは……? 影鬼市場が、崩れていく……?」


 投資家の一人が、恐怖に満ちた声を上げる。


 魔導水晶が、嫌な音を立てるように震えた。

 影鬼市場の数値は、命を失いかけた獣のように揺れ続けた。

 数値は息絶えるように崩れ、音もなく消えた。


 影鬼市場、異常な急落。

 影の魔王K――市場支配率、30%消失。

 影鬼市場の信用、急落。

 投資家たちは、逃げるように市場を離れ始めた。


 ――市場は、急転直下の崩壊へと向かっていた。


 Kは、息を呑んだ。

 そのまま、逃げることもできずに、水晶盤に浮かぶ光景を凝視した。

 つい先ほどまで呼吸していた影鬼市場が、静かに死を受け入れるように沈んでいく。


「……何が起こっている?」


 魔導水晶が震える。

 赤と黒の波紋が交わり、空間をゆっくりと蝕んでいった。

 やがて、崩れゆく文字が浮かび上がる。『暴落』、『急落』――そして『信用失墜』。

 それはまるで、破滅を告げる呪いのようだった。


 影の魔王K - 市場価値90%暴落

 影鬼市場 - 信用度最低値に到達


 水晶の輝きは血のように濁り、市場全体を覆い始めた。

 水晶に映っていた影鬼たちの姿も、ひとり、またひとりと、音もなく消えていった。


 ――「売り」一色。

 

「影鬼市場は……崩壊するぞ!」

「ゼグラントが『Kは終わった』と判断した! すぐに売れ!」


 水晶に映し出される投資家たちの情報が、次々と「撤退」の文字に染まっていく。

 市場のあちこちで魔法通信が飛び交い、投資家たちは一斉にKから手を引いた。


 まるで、裂ける大地から逃げ出すように。


「評価が下がっただけで……全部、失うのか……」

「これが……“市場の現実”……?」


 Kは、声を押し殺すように震わせた。

 隣で、セリアは静かに魔導水晶の揺らぎを見つめる。


「あなたは、ゼグラントの『市場支配』を甘く見ていたようね」


 Kは、怒りを滲ませた目でセリアを見た。


「これは……ゼグラントの仕掛けた罠なのか……?」


 セリアは、冷たく突き放すように言った。

 

「市場は、戦争とは違うの」


「投資家は“勝ち馬”にしか乗らない。一度でも『価値がない』と見なされれば、誰も振り向かない」


 セリアは、魔導水晶に映る崩れゆく数字を、どこか遠いもののように見つめた。


「……ゼグラントは、その仕組みすら支配してる」


 小さく、誰にともなく呟く。


「……誰も、負けた者には手を差し伸べない。」

 

 セリアの言葉に合わせるように、水晶盤が不穏に軋み、

 影鬼市場の最後の灯火が、静かに闇へと溶けていった。



✦✦✦ 《ゼグラントの支配》 ✦✦✦


 ゼグラントの策略は、静かに、しかし確実に牙を剥いていた。


 まず、市場心理を揺さぶった。

 "影鬼市場は危うい"、"成長は望めない"――ゼグラントはそんな噂をさりげなく撒き、疑念の種を蒔いた。


 次に、影鬼市場を孤立化させた。

 影鬼市場に賭けた者たちをひとりずつ追い詰め、孤立へと追い込んだ。


 最後に、売り圧を仕掛けた。

 ゼグラントの手勢が一斉に売りに回った瞬間、市場全体に、『Kは終わった』という確信が広がった。


 ――魔導水晶に映る数値が、無残にも中央に大穴が空いた形に……『0』へと墜ちていった。


 Kは、まるで石化魔法にかかったように、動けなかった。


「……これは、戦場じゃない」

「市場のルールを操る者が、全てを支配するのか……?」


 影の魔王K、投資対象から除外

 ゼグラント側の投資家が撤退を決定

 Kの支配領域、崩壊の危機


「もうKは終わりだ!」

「影鬼は価値がなくなった……!」


 市場から魔王たちの影が、陽炎のように音もなく消えていった。


 ――Kの市場は、完全に崩壊した。


 Kは、無意識のうちに拳を振り下ろしていた。

 

 Kは拳を握りしめ、噛みしめるように呟いた。

 

「……数字ひとつで、すべてが決まるのか」

 

 胸の奥で、何かが崩れる音がした。

 

「存在すら……否定されるっていうのか」


 Kの胸は爆ぜるように打ち、影鬼たちは苦しげに身をよじった。


 K自身も、自分の存在ごと砕け落ちる錯覚に襲われた。


 影鬼市場――消滅

 Kの時価総額――ほぼゼロ

 Kの支配領域――崩壊


 彼の築いた市場は、まるで砂漠に撒いた水で、初めからなかったかのように消え失せた。


 魔導水晶に刻まれた数字は、静かにゼロへと沈んでいった。

 まるで最初から、Kなど存在しなかったかのように。


 ――Kは、抗うことすらできずに全てを失った。

 だが、心の奥底にひとつだけ、消えなかったものがある。

 それは、再び立ち上がるという意思だった。


 魔王取引所の最上階。


 ゼグラントは、市場の混乱を静かに見下ろしていた。

 彼の周囲には、側近や投資家たちが緊張した面持ちで立っている。


「市場が世界を動かす。それを知らぬ者に勝利はない」


 ゼグラントは、淡々と言った。


「K……授業料にしては、贅沢すぎたな」


 ゼグラントは鼻で笑い、視線を下へと落とした。


 その頃Kは――。

 Kは、崩れゆく影鬼市場をただ睨みつけ、その場に凍りついていた。

 影鬼たちの囁きだけが、暗闇に広がっていた。


「……こんな市場、認められるかよ」


 Kはかすれた声で言い捨てた。

 

「ゼグラントの支配なんて……幻想だ」


 Kはひと呼吸、闇の底で拳を握る。

 

「破ってやるよ。俺のやり方でな」

「奪うだけの奴らは消える。創る者が、新たな市場を築くんだ」


 影鬼たちが、Kの怒りに呼応するようにざわめき出す。

 彼らの輪郭が闇に溶けるように変化し、新たな形を作り始めた。


「……この市場の偽り」


 Kは静かに息を吐いた。

 

「俺が正す」


 誰かの評価で揺れる世界じゃなく、本当の価値が生き残る市場を。

 ゼグラントの支配が通じない、新たな基盤を――。


 戦場が変われば、戦い方も変わるだけだ。

 ルールを決めるのは、俺だ。


 崩れた痛みは、まだ胸に残っていた。

 それでも――前に進むしかなかった。







 【次回予告 by セリア】

「――“影”が王に背を向けるとき、一番最初に崩れるのは、いつだって“自分の中の王”よ」


「支配されていたはずの存在が、自分で考え、自分で選び始める。次回《影の反逆》、『支配の終わりは静かに訪れる』。

K、そのざわめきは、ただのノイズじゃない。あなたの心が軋んでる音よ」


「セリアの小言? いいわ、ひとつだけ。

“影を従わせたい”ならね……まず、“影に見られている自分”から逃げないことね。そこからが本当の支配者の始まりなんだから」

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